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厚労省・安藤課長 抗菌薬など安定確保に向けた国産化「薬価制度の中で一定の対応が自然の発想」

公開日時 2022/10/17 04:52
厚生労働省医政局の安藤公一医薬産業振興・医療情報企画課長は10月14日、医療経済研究機構(IHEP)のシンポジウムで講演し、抗菌薬など安定確保に向けて原薬の国産化などの取り組みが必要な医薬品に対する国の支援策について、「私見」と断ったうえで、「薬価制度のなかで一定の対応をしていくことが自然の発想」との見解を示した。政府は、経済安全保障推進法に基づき安定確保を図る「特定重要物資」の選定作業を進めており、医薬品ではβラクタム系抗菌薬が候補にあがっている。対象品目は今年中にも政令で指定される見通し。

経済安全保障推進法で指定される特定重要物資は、①国民の生存に必要不可欠または広く国民生活または経済活動が依拠、②外部に過度に依存またはその恐れ、③外部から行われる行為による供給途絶などの蓋然性、④制度による措置の必要性―のすべての要件を満たすことが求められている。厚労省はすでに安定確保に特に配慮が必要とされる医薬品として、「安定確保医薬品」を指定し、対策を進めているが、安藤課長は、「経済安全保障推進法の特定重要物資については、特にサプライチェーンの強靭化を図る観点から、外部依存性を重視している点がポイント」として、安定確保医薬品との違いを説明した。なお、安定確保医薬品は対象疾患の重篤性や代替性などの要件を満たすこととされており、外部依存性は要件となっていない。

◎特定重要物資の候補にβラクタム系抗菌薬

安藤課長は特定重要物資の候補として、βラクタム系抗菌薬があがっていることを紹介。採算性などの問題から、原材料のほぼ100%を中国に依存していると説明した。2019年には、βラクタム系抗菌薬のセファゾリンをめぐり、中国からの原薬の供給が途絶えたことで、供給不安が発生。手術を延期せざるを得ない医療機関が出るなど医療現場に深刻な影響を与えた。安藤課長は、「βラクタム系抗菌薬は、重要性もリスクも極めて高く、特定重要物資に指定することが想定されているし、我々としても一番ハイレベルな支援をしていかなければならないと思っている」と説明。「仮に中国からの輸入が完全に途絶えた場合においても、国産のβラクタム系抗菌薬で代替できるところまで製造能力を構築することが必要だろうと思っている」と述べた。

◎“すべて企業にお任せです”ではない 国の関与をきちんと考える

すでに国産化を推進するための製造設備を支援する取り組みを進めているが、「取り組み自体が経済合理性の観点からすれば、反する取り組みになるので、最終的には出口をどうするか、非常に難しい問題だと思っている」との見解を表明。国産の原薬はコストを踏まえ、価格の観点から結果的に中国産の原材料や原薬に比べて市場での競争力が弱いことも想定される。安藤課長は、「最終的には不合理性をどうカバーするかが当然課題になる。その際には、安全保障という観点で行っていることを前提に、国としても一定程度考えなければいけない。“すべて企業にお任せです”ということではなく、国家として安全保障を考えなければいけないということで進めていく取り組みなので、国の関与という意味でもきちんと考えていかなければいけないということだろうと思っている」と述べた。

その際の国の支援方法としては、「様々なご意見、ご指摘もあり、薬価制度を所管する立場ではないので、確定的なことを申し上げるのは難しい」としたうえで、自身の考えを披露。「今後の議論だと思っており、私見だが、判断するうえでは持続性をしっかりと考える必要があると考えている。薬の世界で一番持続性のある政策は何か考えると、薬価制度のなかで一定の対応をしていくことが自然な発想なのでは、と思っている」と述べた。

◎供給不安の要因のひとつに産業構造上の問題も

一方で、現在続いている、後発品を中心とした供給不足については、「産業構造上の問題もあるのでは。産業構想上の課題に対しても対応していくことが、安定供給の観点から重要ではないか」と指摘。「端的に申し上げれば、これまでのビジネスモデルは通用しない時代が来ている。ビジネスモデルの転換や、足腰を強める生産力を強化することもやっていかなければならないし、そういうことをやりつつ、安定供給を図ることは一つの目標になる。安定供給を図るうえでサプライチェーンを含めて様々なリスクが当然あり、それに対して一定程度企業も動いていただかなければいけないと思っている。それをバックアップするための政策的支援を我々としても考えていくという大きな構造を作り上げていくことがまず必要だろう」と述べた。

◎今国会に提出の感染症法等改正案 製薬企業の供給情報報告義務も

このほか、供給不安における製薬企業の情報提供についても、製薬企業からの報告を義務化する方向で検討が進められていることを紹介した。臨時国会に提出した感染症法等改正案では、感染症の流行による生産や輸入の停止・遅延などで医薬品の供給に影響が出ることを想定。感染症対策物資に含まれない医薬品についても、生産などの情報を報告することを可能にする。医療を受ける人全般の利益を守る措置であるため、医療法で規定する。多くの品目が同時に供給不安になる場合や、生命への影響が大きいと考えられる品目の供給不安など、医療を受ける人の利益を大きく損なうような状態が懸念される段階においては、国の一定の関与が求められると説明。医薬品・医療機器・再生医療等製品の生産・輸入などの状況について、国が製造販売業者に聴取することを可能にするとともに、応答義務・違反の罰則、国によるこれらの聴取に関する情報の公表義務を規定する。

あわせて、医療現場への情報のフィードバックが重要であることから、システム構築に向けて、「感染症対策物資等の供給情報把握に向けた調査研究事業」として23年度概算要求で、1億4000万円を要求した。供給不安に関する出荷調整や出荷停止などの情報を医療機関や医薬品の卸が一元的に把握できるサイトを構築。平時からモニタリングを強化し、供給状況を円滑に把握できる環境を整備し、緊急時に生産などの促進や出荷調整の要請を行うなど、確実に実施するための枠組みを創設することを目指す。
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