薬価流通政策研究会・くすり未来塾は９月27日、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロス懸念を解消するための方策として、“企業届出価格承認制度”の導入を提案した。現行の薬価制度は、類似薬効比較方式と原価計算方式の２方式だが、第３の算定制度に位置付ける考え。企業届出価格承認制度の適用となった製品については薬価の推移を固定することで、予見性を高めることも提案した。製薬業界側は、政府の薬価施策によるイノベーション評価が不十分であるために、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスの懸念が高まっていると主張している。くすり未来塾は、新たな制度を導入することで、こうした状況を解消し、イノベーション評価と予見性を向上させ、日本市場の魅力を向上させることができるとしている。

◎新制度提案の背景に医薬品のモダリティ変化が　現行の類似薬効・原価計算では「限界」　

新たな制度導入を提案する背景には、医薬品のモダリティの変化がある。2000年代初頭までは低分子が主流だったものの、いまでは抗体医薬が中心となった。さらに、遺伝子・細胞治療、デジタル機器などへとシフトすることが想定される。新たなモダリティについては類似薬の選定が難しいことも指摘されている。くすり未来塾では、こうしたなかで現行の２つの算定方式では、「限界」と指摘した。

現行の算定方式では、製薬業界が主張する生涯治療や手術の不要化、介護費軽減など、医薬品の多面的な価値は反映できないことも指摘。さらに、原価計算方式は、国内製造拠点への評価がないなど、内資系企業に不利だとの考えも示した。一方で、日本の薬価制度は、国民皆保険下で、薬価算定ルールが明確化されており、承認から60日以内に保険収載されるルール」が厳格に運用されるなど、「メリットも多い」との考えも表明。「薬価算定方式の変更で、ドラッグ・ラグを解消することは可能」としている。

◎「企業が早期加算価格＋企業主張の付加価値」を加味した届出価格、一定期間保険償還認める

具体的には、収載時には「企業が早期加算価格＋企業が主張する付加価値（あるいは開発コスト）」を加味した届出価格で、一定期間保険償還を認めるというもの。承認時の薬価は、既存ルールである類似薬効比較方式に算定した場合よりも高い薬価が付くことも想定する。適用品目は、薬価推移を一定期間固定することで、予見可能性を高めることも提案した。発売後には、一定の期間後にリアルワールドデータ（RWD）で再評価を行い、価格の引き下げを含めた薬価の見直しを行うとしている。適用品目については、類似薬からの除外や、市場拡大の場合に薬価の固定を解除すること、さらに費用対効果評価による再評価を義務化することも提案。「薬のライフサイクルで見た医療費を増やさない」と説明した。

◎製薬協提案の早期上市インセンティブ品目に企業届出価格承認制度の枠組み活用も「一方法」

日本製薬工業協会（製薬協）は９月22日に開かれた厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で、“ドラッグ・ラグの緊急対応”として、海外収載から時間が経過し、医療ニーズが高い品目などに対して革新的新薬の早期上市インセンティブを提案している。くすり未来塾は、こうした品目について、企業に届出価格承認制度の枠組みを活用するか判断をゆだねることも「一方法」としている。

なお、製薬業界は、新薬創出等加算の導入のきっかけとなった「申請価格協議方式」を2005年７月に中医協で提案しており、その後、07年に革新的創薬のための官民対話で、申請価格協議方式をリニューアルした「届出価格承認制」を提案。さらに議論を加えて、届出価格承認制とエグゼンプト・ドラッグを提案している。今回提案した、企業届出価格承認制度も、同様のコンセプトで、市場の変化や製薬業界の抱える課題を踏まえて、今日的にアップデートしたものと言える。

このほか、経済安全保障の評価を拡充することも提案。国内製造拠点など、健康危機管理、経済安全保障の優遇ルールの設定や、特許切れ医薬品についても製剤上の有用性などを新薬並みに評価することなどを提案している。くすり未来塾の提案は第４弾となる。