厚労省・林経済課長 革新的新薬創出へ営業利益率の高い産業構造に理解を 医薬品産業ビジョン2021で
公開日時 2021/04/28 04:53
厚生労働省医政局経済課の林俊宏課長は4月27日、ヘルスケア産業プラットフォーム主催のシンポジウムで講演し、今夏の策定に向けて検討を進める「医薬品産業ビジョン2021」について説明した。日本の創薬力低下が指摘されるなかで、製薬企業が研究開発や安定供給に対して投資を継続することの重要性を強調。このために、「営業利益率を一定程度、確保しないといけない」との考えを表明した。社会保障費の圧縮が求められるなかで、2021年度には薬価毎年改定が導入されるなど、一つの標的とされてきている。林課長は、「(営業利益率は)欧米企業と比べても決して高くなく、低い。これをどう考えていくかが薬価政策のなかでも重要になる。これをステークホルダーにご理解いただくことが大事なことだろうと思っている。医薬品産業ビジョンのなかで一番込めたいメッセージの一つだ」と強調した。
新型コロナのワクチンや治療薬の開発で、欧米に後れを取るなど、国内の創薬力低下が指摘されている。この背景の一つとして林課長はモダリティの変化をあげた。低分子創薬でプレゼンスを発揮してきた日本だが、いまや研究開発の主流はバイオ医薬品だ。さらに、再生医療、遺伝子治療、個別化医療とモダリティが変化するなかで、こうした対応が遅れている状況にあると指摘した。革新的新薬の創出には、積極的な投資を行い、新たな技術を有するベンチャーやアカデミアと連携することが必要になる。こうしたなかで、米国では研究開発費が伸びているのに対し、国内は横ばいにとどまっている。巨額な投資が可能な欧米メガファーマと比べ、規模の小さい内資系企業は1社あたりの研究開発費も低い傾向にある。
林経済課長は、「日本は世界では数少ない新薬を作れる国だ。日本発の医薬品は、世界の市場の中に打って出ていける」と強調した。医薬品について日本は輸入超過の状況にあるが、海外企業への技術輸出が増加しており、技術貿易は黒字傾向で、日本の技術力を示す一端が見て取れる。林課長は、「これは、希望が残るところだ。医薬品産業は、税収面でも貢献している」と述べた。
そのうえで、「実際にリスクの高い研究開発をしないと新しい薬が出ない一方で、新しい投資に慎重な部分がある。それが遅れに出てくるのでは」と述べた。研究開発上だけでなく、効率化を求めてグローバル化が進んだサプライチェーン上のリスクがあるほか、予期せぬ副作用が起きるリスクもあると説明。「一定程度の内部留保を持たないと、新しい薬はできない」との考えを示した。
◎「予見可能性や投資に回せる費用が十分に賄えていない」
一方で、毎年薬価改定の導入や新薬創出等加算の見直しなど、薬価制度改革が断行されているが、「予見可能性や投資に回せる費用が十分に賄えていない」との見解を表明。特に、ワクチンなどでは投資のリターンを得ることが難しく、「国産ワクチンの開発が遅れていることも大きな意味で影響している」との見方を示した。
林経済課長は、「日本の社会は医療保険制度の中で賄われていることもあり、いささか標的にされるが、営業利益率は欧米企業と比べても決して高くなく低い。これをどう考えていくかが、薬価政策のなかでも重要になる。これをご理解いただくことが大事なことだろうと思っている。医薬品産業ビジョンのなかで一番込めたいメッセージの一つだ」と述べた。革新的新薬については、「薬価を予見可能な制度にし、毎年イノベイティブな医薬品の薬価が下がり過ぎないような形で担保することが必要だ」との考えも示した。
少子高齢化に突入し、社会保障費の伸び抑制が求められるなかで、日本市場については「横ばいの状態が続かざるを得ない」と見通した。そのうえで、先発メーカー、ジェネリックメーカーともに、海外市場を展望することの重要性を強調した。「国をはじめとするアジアはこれから伸びていくマーケットだと思う。海外展開も視野に入れた製品開発も大事なポイントだ」と強調した。
◎「日本は投資価値のある市場であることを再認識」後発品は「量的拡充から安定供給と質の確保に舵を」
ビジョンのコンセプトについては、「医薬品産業は成長産業であるということを再認識する。革新的新薬日本の製薬産業が革新的な新薬を生み出し、投資価値のある市場であることを再認識する」ものだと説明した。さらに、「アカデミアやベンチャーとの連携による研究開発モデルの変更」を盛り込む考えも示した。薬事を中心とした知見を生かし、アカデミアやベンチャーとの間を取り持つ、いわばプラットフォーマーのような役割が製薬企業の強みとの見方も示した。
一方、ジェネリックメーカーについては、抗菌薬セファゾリンの欠品など、供給不安が相次いだことや、小林化工や日医工が業務停止を受けるなど、問題が相次いだ。これを踏まえ、「量的拡充から安定供給と質の確保に舵を切らなければならない」との考えを示した。
◎ビジョンは 製造販売業者や卸売業者の方向性について「政府としての考えを示す」
医薬品産業ビジョンは、創薬競争環境や供給環境、制度の環境変化を踏まえ、製造販売業者や卸売業者がどのような方向を目指すか、政府としての考え方とともに、施策の方向性を示すものだ。新薬メーカーだけでなく、アカデミアやベンチャー、ジェネリックメーカーバイオ医薬品の製造販売事業者、医薬品流通事業者などステークホルダーの指針となる内容を示したい考え。これにより、事業者の予見可能性を高めるほか、国民の医薬品産業に対する理解を深め、医薬品への信頼性維持向上、医療保険制度などの議論の前提となるとともに施策の理解も深めてもらいたい考えだ。
具体的には、医薬品のライフサイクルも踏まえ、①研究開発、②薬事承認・保険収載、③製造、④安定供給、⑤流通改善、⑥海外展開―まで課題認識と、具体的な施策を示す。
研究開発分野では、アカデミア発のシーズを実用化につなげる橋渡しの重要性や、ベンチャーの育成とエコシステムの構築、循環の必要性を明記する考え。また、バイオ医薬品の研究開発で後れをとるなかで、「バイオシミラーはほぼ海外からの輸入品なので、国内製造拠点を作っていきたい。これがワクチンの生産にも生きるはず」との考えも示した。このほか、国際展開のためにはアジア各国などとの薬事規制調和の推進(ハーモナイゼーション)も重要だと指摘した。
ビジョンは、経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太方針2021)への反映を見据え、今夏の策定を目指す。