薬食審・第二部会 新薬7製品の承認了承 乳がん治療に用いる抗体薬物複合体エンハーツなど
公開日時 2020/02/27 04:52
厚生労働省は2月26日、薬食審医薬品第二部会を開き、新薬7製品の承認の可否を審議し、いずれも承認することを了承した。この中には、第一三共が承認申請した乳がんのサードライン以降の治療に用いる抗体薬物複合体(ADC)のエンハーツ点滴静注用(一般名:トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)が含まれる。
【審議品目】(カッコ内は一般名、申請企業名)
▽オニバイド点滴静注43mg(イリノテカン塩酸塩水和物:日本セルヴィエ):「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵がん」を効能・効果とする新効能・新剤型医薬品。再審査期間は4年。
イリノテカンのリポソーム製剤。イリノテカンをリポソームに封入することで時間をかけて徐々に薬剤を放出し、より長く腫瘍組織に働きかけることが特徴のひとつとなる。イリノテカンはI型トポイソメラーゼを阻害することで、腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられている。
日本セルヴィエが販売・流通を担い、ヤクルト本社がプロモーションする。日本セルヴィエはコ・プロのオプション権を留保している。
海外では19年10月末現在、膵がんの効能・効果で米国、EUを含む9の国・地域で承認済。
▽ベレキシブル錠80mg(チラブルチニブ塩酸塩、小野薬品):「再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。
ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬。同剤は通常、成人には1日1回480mgを空腹時に経口投与して用いる。再発・難治性の中枢神経系原発リンパ腫(PCNSL)は、高用量メトトレキサート療法を基盤とした薬物療法や全脳放射線療法が行われている。ただ、再発率が高く、再発・難治性のPCNSLでは標準治療が確立されていないことから、新たな治療選択肢が望まれている。
BTK阻害薬は、B細胞受容体シグナル伝達経路の下流に位置するメディエーター(BTK)を選択的に阻害することで、治療効果を発揮する。B細胞受容体シグナル伝達経路は、B細胞性非ホジキンリンパ腫(B-NHL)や慢性リンパ性白血病(CLL)で恒常的に活性化していることが知られている。
同剤は海外で19年11月現在、承認されている国・地域はない。
▽エンハーツ点滴静注用100mg(トラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)、第一三共):「化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳がん(標準的な治療が困難な場合に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。条件付き早期承認制度適用医薬品。
抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(ADC)。がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞に直接届けることで、薬物の全身暴露を抑えつつ、がん細胞への攻撃力を高める。
HER2陽性の再発・転移性乳がんではトラスツズマブなどの抗HER2療法が標準治療で、病勢進行した患者に対しては別のADCのトラスツズマブ エムタンシン(国内製品名:カドサイラ、以下「T-DM1」)が使われる。エンハーツは、T-DM1投与でも治療困難なサードライン以降の治療に用いる。厚労省によると、用法・用量の使用上の注意でサードライン以降に用いる旨を示す。
エンハーツは、T-DM1投与でも進行した患者を対象とした日米欧アジアでのグローバルフェーズ2試験「DESTINY-Breast01」で、主要評価項目の客観的奏効率は60.9%を示した。
条件付き早期承認制度は、重篤な疾患であって有効な治療方法が乏しく、患者数が少ない疾患等の理由でフェーズ3試験などの検証的臨床試験を行うことが難しい医薬品について、発売後に有用性を評価することを条件に承認する制度のこと。重篤な疾患に対する有用な医薬品をいち早く承認することが目的。同省によると、同剤の条件は米国と同様の内容になる見込み。米国では、HER2陽性の再発・転移性乳がんを対象としたフェーズ3試験での臨床的有用性の検証が必要とされた。
海外では19年12月現在、HER2陽性の手術不能又は再発乳がんに関する効能・効果で、米国のみで承認されている。
▽ステボロニン点滴静注バッグ9000mg/300mL(ボロファラン(10B)、ステラファーマ):「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。先駆け審査指定制度の対象品目。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用ホウ素薬剤。患者に同剤を投与することで、ホウ素(10B)ががん細胞に集まる。その後、患部に体外から中性子線を照射してホウ素(10B)とぶつかると核反応を起こし、放射線が発生する。BNCTは、この放射線によってがん細胞を破壊する治療法で、放射線治療の一種となる。なお、照射する中性子線は、非常にエネルギーが小さく、人体への影響はほとんどないという。
海外では19年11月現在、承認されている国・地域はない。
▽テプミトコ錠250mg(テポチニブ塩酸塩水和物、メルクバイオファーマ):「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。先駆け審査指定制度の対象品目。
間葉上皮転換因子(MET)のチロシンキナーゼを阻害する低分子化合物(低分子MET阻害薬)。METのリン酸化を阻害し、下流のシグナル伝達分子のリン酸化を阻害することで、MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対して腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられている。
MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を標的とした治療薬は初となる。厚労省によると、コンパニオン診断薬の審査も進んでいるという。MET遺伝子のエクソン14にスキッピング変異を有する患者は、NSCLC患者の約3%と報告されており、国内患者数は約5000人と推計されている。
海外では19年11月末現在、承認されている国・地域はない。
▽デュピクセント皮下注300mgシリンジ(デュピルマブ(遺伝子組換え)、サノフィ):「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」を効能・効果とする新効能・新用量医薬品。再審査期間は残余(26年1月18日まで)。
インターロイキン4およびインターロイキン13 (IL-4 およびIL-13)のシグナル伝達を特異的に阻害するヒトモノクローナル抗体で、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎に対する初の生物製剤となる。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療には、生理食塩水による鼻洗浄、局所ステロイド薬、経口ステロイド薬がある。これらの治療でも奏効しない場合には内視鏡下鼻副鼻腔手術などの外科療法が施行される。しかし、再燃や効果が限定的といった課題があり、難治例での副鼻腔炎症に対する長期投与可能な全身治療薬が求められている。
海外では19年6月現在、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬として米国で承認されている。
▽ボンベンティ静注用1300(ボニコグ アルファ(遺伝子組換え)、シャイアー・ジャパン):「フォン・ヴィレブランド(von Willebrand)病患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。
同疾患は、止血に重要な役割を果たすフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の質的異常又は量的低下・欠損に起因する疾患で、最も効果的な治療法はVWFの補充療法とされる。同社によると、同化合物は世界で初めて承認された唯一の遺伝子組換えVWF製剤。
海外では19年12月現在、欧米を含む34の国・地域で承認済み。
【報告品目】(カッコ内は一般名、申請企業名)
報告品目は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査段階で承認して差し支えないとされ、部会では審議せず、報告のみでよいと判断されたもの。
▽ヌーカラ皮下注用100mg(メポリズマブ(遺伝子組換え)、グラクソ・スミスクライン):「気管支喘息(既存治療によって喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」を効能・効果とし、小児用量を追加する新用量医薬品。再審査期間は残余(24年3月27日まで)。
ヒト化抗ヒトIL-5モノクローナル抗体。気管支喘息に対して、これまでは12歳以上の小児に使用できたが、今回は6歳以上12歳未満の小児に対する用法・用量を追加する。
海外では欧米で、6歳~11歳の小児重症喘息患者に対して日本の申請用法・用量と同用量で承認済み。
▽リサイオ点滴静注液100mg(チオテパ、大日本住友製薬):「悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療」を効能・効果とする新効能・新用量医薬品。再審査期間は残余(27年3月25日まで)。厚労省の未承認薬・適応外薬検討会議の開発要請品目。
DNA合成阻害作用を持つ抗腫瘍性アルキル化剤。これまで小児悪性固形腫瘍における自家造血幹細胞移植の前治療に使用されていたが、今回は悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療を追加する。
海外では19年11月現在、悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療に関する効能・効果で36の国・地域で承認済み。
▽ニンラーロカプセル2.3mg、同3mg、同4mg(イキサゾミブクエン酸エステル、武田薬品):「多発性骨髄腫における自家造血幹細胞移植後の維持療法」を効能・効果する新効能・新用量医薬品。再審査期間は残余(27年3月29日まで)。
プロテアソーム阻害薬。細胞内で不要となったタンパク質を分解する酵素の複合体であるプロテアソームに結合し、そのキモトリプシン様活性を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制する。多発性骨髄腫における自家造血幹細胞移植後の維持療法に係る効能・効果を持つ薬剤は初となる。海外でも19年11月現在、この効能・効果で承認されている国・地域はない。
同剤は日本で現在、再発又は難治性の多発性骨髄腫を効能・効果としている。
▽ブスルフェクス点滴静注用60mg(ブスルファン、大塚製薬):「悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療」を効能・効果とする新効能・新用量医薬品。事前評価済公知申請。
細胞の増殖に必要なDNA合成を阻害し、異常細胞の過剰な増殖を抑える。現在の効能・効果は、「同種造血幹細胞移植の前治療、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療」。19年10月31日の薬食審医薬品第二部会で、医療上の必要性 の高い未承認薬・適応外薬検討会議の報告書に基づき、公知申請を行っても差し支えないとする事前評価が行われていた。
海外では19年3月現在、悪性リンパ腫における自家造血幹細胞移植の前治療に係る効能・効果で、英国、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリアで承認済み。