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難病等のゲノム解析基盤の構築 創薬をゴールに見据えた仕組みづくりに期待

公開日時 2019/12/09 04:50
12月3日に開催された第3回「難病に関するゲノム医療の推進に関する検討会」で厚生労働省は、検討会における「これまでの議論の経過」を整理し、年内に予定される、全ゲノム解析等に関する実行計画の策定に向けた青写真を示した。希少遺伝性難病における未解明症例の原因究明において全ゲノム解析は有力な研究手段であり、将来的には適切な診断・治療方法の開発が期待されている。また、指定難病の孤発性疾患では疾患の相関があるゲノム異常が同定できれば、当該疾患への創薬につながる。難病におけるゲノム医療の推進がどのように行われるのか。検討会における議論を踏まえ、その概要を紹介する。

◎日本の医療や産業界で全ゲノム解析は必須の取り組み

難病領域は、単一の遺伝子異常等が原因となる遺伝性疾患が多く含まれており、ゲノム医療を実現しやすい領域だ。これまでも遺伝子配列解析技術のイノベーションを背景に、さまざまな場面でゲノム解析が活用されている。特に全ゲノムのうちタンパク翻訳領域を選択的に解析する全エクソーム解析は低コストということで広く使われ、希少遺伝性疾患の原因解明に一定の役割を果たしてきた。ただし、その原因究明率は3割程度との報告もあり、難病の本態解明をさらに進めていくうえで、全ゲノム解析の必要性が指摘されていた。

加えて、英国では国家プロジェクトとして2018年にがんや希少疾患を対象とした10万ゲノム解析が終了し、2023年までに100万人の全ゲノム解析を目指すなど、世界各国で全ゲノム情報を活用したゲノム医療の取り組みが始まっている。先述の検討会の構成員は、「ゲノム情報基盤は今後、生命科学、医療、産業等に当然配備すべきものであり、日本にとって必要というより、必須の取り組みである」と指摘している。

こうしたなか、6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2019」において、「全ゲノム解析等による難病の早期診断に向けた研究等を着実に推進するため、これまでの取り組みと課題を整理したうえで、数値目標や人材育成・体制整備を含めた具体的な実行計画を、2019年中を目途に策定する」との方針を提示。これを受けて発足した「難病に関するゲノム医療の推進に関する検討会」では10月より、実行計画に策定にあたって、対象となる疾患および数値目標、全ゲノム解析等に必要な体制整備および人材育成などに関して議論を行ってきた。

◎まずは先行解析を実施 数値目標は年内めどに検討


そして今回まとめられたのが「議論の経過」である。それによると全ゲノム解析の対象疾患は、遺伝子学的な観点から、指定難病の①単一遺伝子性疾患、②多因子性疾患、そして指定難病以外の③現時点で疾患概念が十分確立しておらず診断が困難な疾患──の3つに分類。さらに①と②は「単一遺伝子性疾患のみ」「単一遺伝子性疾患と多因子性疾患の混在」「多因子性疾患のみ」に類型化した。

単一遺伝子性疾患のみの疾病では、155疾病のうち100疾病が既知の原因遺伝子を認めない非典型例を有するとされており、これらの非典型例を対象とした全ゲノム解析を行うことで、診断精度の向上や、患者の層別化による個別化医療への期待が高まる。

多因子性疾患については、遺伝要因のみで発症するわけではないため、遺伝学的検査の診断的な意義は高くないが、一方で全ゲノム解析等で疾患の発症機序を解明できれば、革新的な治療薬の開発につながる可能性もある。実際、希少な遺伝子多型(レアバリアント)のなかに疾患と関連の深い遺伝子異常が発見され、これが医薬品の適応拡大に向けた治験につながった例もある。

③については、日本医療研究開発機構(AMED)の研究事業「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」で、遺伝子異常が疑われる未診断の症例に対して全エクソーム解析を実施し、過去3年間で2756症例中、212症例が世界的にも未知・新規疾患群であり、また425症例は国外で希少疾病データベースに登録されているなど、一定の知見を得られている。こうした取り組みに合わせて、未診断疾患についても全ゲノム解析を行うことで、病態解明、診断、治療等につながる新たな発見が期待されている。

全ゲノム解析を進めるにあたっては、対象目標・数値目標に対する考え方の検証、および全エクソーム解析と比較した全ゲノム解析の優位性を確認するため、既存の研究事業の枠組みを活用して先行解析を行う方針。ただし、先行解析とその次の本格解析に向けた数値目標や期間は今回示されず、実行計画をまとめる年内までに厚労省で検討するとしている。

◎解析拠点を1つに 人材育成に取り組むべき

3日の検討会で最も時間が割かれたのは、全ゲノム解析等の体制整備や人材育成に関してだ。これまでゲノム情報基盤の体制整備について、①データ等の収集等、②検体データ等の運営・管理、③データの利活用──の3段階に分け、検討が進められてきたが、全ゲノム解析を誰がどこで実施するのかといった全体像が不透明だった。

松原洋一構成員(国立成育医療研究センター研究所所長)は、「全ゲノム解析を行うところを1カ所にまとめてはどうか。その中に企業も組み込み、みなが共同利用できるシステムにすべき」と提案。日本はここだけという産学共同の組織体をつくることで、企業の一部負担などによりコストが抑えられる可能性があるほか、技術の集積により、絶対数が不足しているといわれるバイオインフォマティクスなど技術者の育成も容易になるなど、あらゆる面で効率化が図れるとの考えだ。

日本は全ゲノム解析において先進国のなかで後れを取っているとの指摘がある。解析技術に一日の長がある海外企業への外注に依存するかたちになると予算の流失を招き、日本で組織だった体制整備や人材育成が進まないという危機感も背景にある。

全ゲノム解析の拠点をつくる案に対しては、産業界代表の三津家正之構成員(日本製薬工業協会副会長)も、「データのアクセスポイントをひとつにしていただくのはわれわれも望むこと。場合によってはメーカーの人間がここで訓練を受けるというかたちがあってもいい」と賛意を示している。

一方、松原氏は創薬を意識した全ゲノム解析の仕組みづくりの必要性にも言及。「治療法のない難病患者を救うという観点からの取り組みだけでなく、創薬を出発点とした疾患モデルの解明と患者発掘という観点からのアプローチがあってもいい」と述べている。例えば、希少難病の患者から見つかった遺伝子異常が別の疾患のブロックバスターにつながる可能性もある。そうした発見のためには、きちんとした研究デザインが必要であり、それをこのプロジェクトに入れていくべきというわけだ。同プロジェクトにおいて製薬企業のモチベーションを上げていくうえでも、難病の全ゲノム解析を活用した創薬モデルは重要であろう。

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