厚労省医政局・林俊宏経済課長 社会構造の変革に見合う産業構造転換に期待
公開日時 2019/11/01 03:53
厚生労働省医政局経済課の林俊宏課長はこのほど、本誌とのインタビューに応じ、「国民が健康長寿を願うなかで、予防・未病の重要性が増す。そこにビジネスチャンスが出てくる」と述べ、産業構造転換が迫る製薬産業にエールを送った。少子高齢化が襲う日本は、今後労働生産人口の減少という社会構造の変革に直面する。一方で、第4次産業革命に代表されるIT化の波が日本全土を襲うなかで、高齢化をはじめとした社会課題解決の糸口もある。医薬品産業がこうした社会構造の変革、IT化の流れに合致した産業へと構造転換し、新たなイノベーションを産むことに林課長は期待を寄せる。インタビューの中で林課長は「周辺産業を含めたビジネスに取り組むことも、当然の選択肢として考える時代だ」と力を込めた。
インタビューの一問一答はMonthlyミクス19年11月号(11月1日発売)、ミクスOnlineに掲載しております(記事はこちら、有料会員限定)。
政府は全世代型社会保障検討会議を立ちあげ、年末に向けて具体的な改革項目の議論をスタートさせた。高齢化のピークと労働生産人口の減少は確実に社会構造や社会システムに変化をもたらす。もちろん医療保険制度の枠内でビジネスを行ってきた製薬産業の立ち位置にも議論が及ぶ。林課長とのインタビューは、これからの社会保障のあり方と産業構造転換についての話から始まった。
◎未病・予防のビジネス化は「当然の選択肢」
林課長は「少子高齢化と健康長寿が進むなか、これまで65歳以上と定義されてきた高齢者の考え方を見直す議論や、雇用・年金について、定年制度のあり方などの議論も巻き起こっている」と指摘する。続けて、「65歳以降をまだ活躍できる世代として社会に貢献していただくことも必要だ」とも強調した。2022年には、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者に突入する。こうしたなかで、医療保険制度は公費負担の増加にいかに対応するかが課題と言える。もちろん「支え手」をいかに増やすかも重要な視点と言える。林課長は、「活力ある団塊世代も多く、すぐに医療・介護が必要とならないよう、予防や未病が重要になる」との考えを表明した。
「広い意味で社会保障は社会経済にとって負担という見方もあるが、医療や介護、医薬品などはサービスであり、経済の活力にも直結する。こうしたサービスをいかに発展させていくかの視点が重要だ」―。林課長の指摘は、政府が掲げる健康寿命の延伸を実現し、元気で活力ある社会を構築するための示唆にも感じられる。
林課長はもう一つの観点をあげた。IT化、データの利活用だ。「労働生産人口が減少し、マンパワーが限られるなかで、単純作業や機械化できるものをIT化し、ヒトしかできないことにいかに特化していくか。IT化が後押しする時代の変革があり、情報の重要性が増している」と語る。
台頭する“GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple Inc.)”と呼ばれるプラットフォームビジネスは、その強みを活かした象徴的な存在だと林課長は強調する。「情報をいかに入手し、つなげ、活用していくかは今後重要だ」と述べ、「製薬業界も、国際的な流れのなかで、どうデータの活用を図り、イノベーションを起こすかが重要になる」との見解を述べた。
◎自社のみでイノベーションを起こすのは難しい時代
林課長に製薬産業の印象を聞いてみた。「シーズの発見するにしても、アカデミアやベンチャー、他社との連携が重要になる。自社のみで、イノベーションを起こすのは難しい時代になっているのではないか」という。その上で、「こうしたなかで、結果として創出されるものが、狭い意味での医薬品ではないかもしれない。実際、医薬品だけでなく、介護や予防を視野に入れ、医療機器やアプリなどを開発する企業もある。疾病の治癒だけでなく、医療現場のニーズそのものが、ソリューションの開発につながることもあるのではないか」と語ってくれた。
製薬産業に迫る構造改革に対して林課長はどう見ているのか。「構造転換の流れにあることは気づいていて、製薬協の‟産業ビジョン2025“にも、オープンイノベーションの重要性などが明記されている。市場競争のなかで、各社が強みを発揮した戦略を立て、発展していく。これが基本にあるなかで、製薬業界が行政に何を期待しているのか、よく意見交換を行っていきたい」と強調した。加えて、「製薬協からは、AMED(日本医療研究開発機構)への予算拡充などの要望をいただいてはいるが、具体的に行政が何をすべきか、踏み込んで業界と意見交換していく必要があると考えている」と意欲を示した。
◎しっかり安定供給していただくことが後発品の信頼向上につながる
後発品80%時代が迫るなかで、ジェネリックメーカーの今後の姿をどう見ているかについて質問を投げ掛けてみた。林課長は、「後発品の数量シェアは2018年9月時点で72.6%まで伸び、80%目標達成も視野に張っている。一方で、地域格差はひとつの課題だ。2018年度から後発医薬品使用促進対策事業の一環で、後発品の使用率が低い地域などから重点地域を選び、普及啓発を進めている。地域での課題解決に向け、地域医師会・薬剤師会や保険者などを巻き込んだ活動を支援している」と述べた。また、「しっかり安定供給していただくことが、後発品の信頼向上につながると考えている。日本ジェネリック製薬協会が2017年に策定した「ジェネリック医薬品産業ビジョン」でも、“生命関連商品”、“生命関連企業”であると明記されている。高い倫理観の下、活動を進めていただきたい」と強調した。