厚労省・三浦経済課長 医薬品産業は“モノ”から“ソリューション”へ思考の転換を
公開日時 2019/01/31 03:52
厚生労働省医政局経済課の三浦明課長は1月30日、IQVIA主催のセミナーで講演し、製薬業界が要望した研究開発税制に触れながら、他産業とのオープンイノベーションをより多くの製薬企業が経験することで、「産業構造がモノからソリューションへと移り変わる」ことを実感すべきと強調した。加えて、AI(人工知能)やビッグデータなど最新テクノロジーが社会システムの構成要素となるなかで、製薬産業も「自前主義だけでは立ち行かない」と警鐘を鳴らした。一方で、高齢化に伴う医療費の高騰が目前に迫っているとしながら、慣例的に行われる医薬品の頻回配送業務を例にあげ、「皆さんの一挙手一投足は、”無駄がないか”という目線で国民から見られている」と指摘し、社会保障制度が直面している課題への理解を求めた。
2040年には、高齢化に加え、生産年齢人口の減少が日本経済を直撃する。厚労省は健康寿命の延伸と医療・介護サービスの生産性向上を軸とした施策の実現へ舵を切る。三浦課長は、「現役世代の労働力の制約が強まるなかで、社会保障をどう支えていくか、国民的な議論が必要だ」と強調した。厚労省が推し進める地域包括ケアシステムの構築に向け、地域ではすでに、医療者や介護者が集い、自らが抱える課題の抽出や解決策についての議論をスタートさせていると説明。こうした機運が高まることを製薬産業も十分に理解し、産業のあるべき姿を自らが論じる必要性があるとした。
そのうえで医薬品産業に対しては、「産業自体を高収益、知的産業と認識している。日本で活躍できる形を作っていきたい」と述べた。2019年度政府予算案の編成過程では、リアルワールドデータ(RWD)の利活用など創薬環境の整備を盛り込んだ“日本創薬力強化プラン”で566億1000万円を確保したことを紹介した。日本創薬力強化プランは、2018年度政府予算に初めて計上され、今回で2年度目となる。三浦課長は、「2018年度予算編成の最終局面における、厚労相と財務相の大臣折衝で一丁目一番地だった」と振り返った。
◎高まるオープンイノベーションの必要性 大企業とのコラボにも研究開発税制活用を
さらに19年度税制改正で、研究開発税制を見直したことを紹介した。研究開発税制は、試験研究費に応じて法人税額を控除するもの。税負担を軽くすることで、次の研究開発への企業の挑戦を後押しし、中長期的に産業競争力を強化する狙いがある。今税制改正で注目を集めたのが、ベンチャーやアカデミアとの連携で税制優遇を受けられる「オープンイノベーション型」の拡充だ。控除上限額を引上げ(5%→10%)、共同・委託研究先を中小企業やベンチャー、特別研究機関などだけでなく、大企業でも可能にするなど、範囲を拡大する。基礎研究と応用研究に位置付けられるフェーズⅡaまで活用できる。
三浦課長は、「医薬品産業に限らないが、オープンイノベーションを進めていかなければいけない」と強調した。大企業とのオープンイノベーションも優遇されることで、AIやICTなど革新的技術を有する企業などとの協業が推進。医薬品という”モノ”にとらわれず、医療保険の枠組みをも超えた健康や予防、未病、介護サービスなどを視野に入れた”ソリューション”ビジネスへと構造転換する一つのきっかけとなることも期待される。三浦課長は、「仕組みとしては作ったが、使っていただかなければ必要性が問われる」と述べ、積極的な税制の活用を呼びかけた。