【World Topics】デジタル療法
公開日時 2018/09/10 03:50
デジタル療法とは、従来の治療法に加えて、あるいは時に従来の治療法に置き換えて用いられる、臨床的に効果が実証された、イノベーティブな疾病管理や治療のための新しいアプリケーションである。臨床で用いられるためには当然ながらFDAの承認を得ていなければならない。
FDAの承認を得て高い評価を定着させてきているデジタル療法といえば、薬物依存症患者の治療に用いられるPear TherapeuticsのreSetや、Proteus Digital Health/Otsuka Pharmaceutical のセンサー付き錠剤Ability MyCiteである。
これらの新しい製品やサービスに承認を与えるにあたって、米国FDAはきわめて柔軟な姿勢で製造メーカーと実に積極的かつ緻密な検討を重ねている。大塚製薬の開発担当部長はAbility MyCiteの承認審査について「従来の新薬承認申請のケースよりも多くのミーティングを重ねた。FDAには私どもの熱意と同じかそれを上回る熱意をもって検討していただいた」と語り、FDAの意欲と熱意ある姿勢を高く評価しており、また、Pear TherapeuticsはFDAが招聘した、デジタル療法などの新しい技術の承認審査方法を検討する委員会の構成メンバーとなっている。
デジタル療法の導入でさまざまな可能性が開ける。患者が治療法を遵守できるよう支援することもでき、患者への説明責任を十分果たすこともできる。データが収集できるようになり解析結果が活用できる。だが、最大の利点は、デジタル療法が「使われれれば使われるだけ進化する」ことだろう。蓄積ビッグデータの解析はもとより、医療者や患者がデジタル療法で得た知見を投入することでシステムは賢くなり、バージョンアップを重ねるからだ。
しかし一方には、デジタル療法の普及に懸念があるとすれば、それは、この「常に進化し続ける」性質だとの指摘もある。製品が、自動的にバージョンアップを続けることで複雑化し高度化してしまって、多忙な医療者のワークフローにうまく組み込みきれなくなる可能性があるからだ。データの業界標準が確立していないことも懸念材料である。(医療ジャーナリスト 西村由美子)