横浜市大・寺内教授 インスリン導入時期が重要 新しい経口血糖降下薬への過信は禁物
公開日時 2014/07/08 03:51
横浜市立大学大学院分子内分泌・糖尿病内科学の寺内康夫教授(写真)はこのほど、インスリン治療に関するメディア向けセミナー(サノフィ主催)で講演し、インスリン導入時のHbA1c値が8.5%以上の患者では、合併症が予防可能な管理レベルに到達する割合が15%以下にとどまるとの現状を示し、「適切な時期にインスリンを開始することが重要」と述べた。インスリン導入が遅れる理由のひとつに、約10年ぶりの新規経口血糖降下薬として09年12月に登場したDPP-4阻害薬の存在を挙げ、「(医師や患者が)新薬を使うことで安心してしまう場合もあるようだ」と問題提起した。
寺内教授は、「重要なことはどのような治療をしているのかではなく、血糖管理がしっかりなされているか、合併症が予防できているかどうか」と述べ、新薬の使用による過信は禁物との認識を示した。また、インスリン導入の遅れにつながる要因とされている▽低血糖への恐れ▽注射針の痛みへの不安▽生活の質低下――などは、「誤解に基づくものが多い」と指摘した。
インスリンの導入基準については、日本糖尿病学会の管理目標値を引き合いに、「治療強化が困難な際の目標値」である「HbA1c8%未満」で管理できていない場合を挙げた。ただ、腎臓病や網膜症などの合併症を「確実に予防したい」と考えている患者については、経口薬による治療でHbA1c7%未満に管理できていない場合も導入を検討するケースがあるとも語った。
◎グラルギン濃縮製剤やバイオ後続品が開発 異なるニーズに応え得る
現在のインスリン治療では、1日1回投与タイプの持効型インスリン製剤の使用が主流となりつつある。その選択肢には、サノフィのインスリングラルギン(製品名:ランタス)やノボノルディスクのインスリンデグルデク(トレシーバ)などがある。寺内教授は、インスリンデグルデクが昨年登場したことで「血糖コントロールが改善し、低血糖が少なくなってきている」との手応えを示したが、「未だに低血糖症状を来たす患者もいる」と話した。
持効型インスリンの開発動向を見ると、インスリングラルギンの濃縮製剤(開発コード:HOE901-U300)が開発中であるほか、インスリングラルギンのバイオ後続品が申請中となっている。同教授は「バイオ後続品は患者の経済的な負担に応え得る選択肢として意義がある。ただ、低血糖や体重増加というインスリン治療の課題は既存薬と同様に残されることになるので、より良い管理を求めていくうえでは当然、新薬を求めていくニーズもある」と述べた。
HOE901-U300については、国際共同臨床第3相試験(P3)の結果が発表されている。2型糖尿病患者を対象とした国内試験を担当した寺内教授は「既存薬のグラルギンに比べて低血糖が少なく、また体重増加が少ないという結果が国内のみならず、世界で認められている」と述べ、同剤への期待感を示した。HOE901-U300は欧米において承認申請中で、日本でも年内に申請される見通し。