2012年欧州の展望 一層の薬価引き下げと緊縮策
公開日時 2012/01/25 04:00
2012年の欧州の薬業界は、各国政府の財政緊縮策に相まってユーロ危機が続き、明るい展望は描けない情勢だ。そのような状況下、各国の薬価引き下げ政策に一層の注目が集まっている。
ドイツでは、ANMOG法下での製薬企業と連邦公的保険基金協会(The Federal Association of Statutory Health Insurance Funds:GKV-SV)との初めての価格交渉が開始される。
新規のANMOG法の下では、当該製品が既存品よりも追加ベネフィットがあるというデータをヘルスケアの質・効率性研究所(The Institute for Quality and Efficiency in Health Care: IQWiG)が評価、かつ合同連邦委員会(The Joint Federal Committee)が確認した製品について、GKVと製薬企業が価格交渉を行う。
2011年11月にアストラゼネカのBrilinta(ticagrelor)がIQWiGの推奨勧告を受け、現在、GKVとの交渉に入っている。IQWiGは、ヤンセンシーラグインターナショナルの前立腺がん治療薬Zytiga(abiraterone)の使用は推奨したが、ベーリンガーインゲルハイム/イーライリリーのDPP-4 阻害剤Trajenta(linagliptin)については却下した。
ドイツのこの新規システムは、欧州各国の保険償還の決定を行う技術評価機関から大きな関心を持たれている。
フランス議会は12月19日、AFFSAPS(保健製品・衛生安全庁)の全面的改組を内容とした法案を通過させた。この法案では、利益相反の厳格化、透明性の確保、ファーマコビジランスの強化などが盛り込まれている。
しかし、フランスの社会保障法案(PLFSS)では、約200剤の薬価を下げて6億7000万ユーロ(8億6000万ドル)の削減を目指しているが、2012年予算案については論議されている最中で、最終案がどうなるか未知数のうえに、4月に大統領選挙が実施予定なので先行き不透明だ。
英国では、2014年に現在の薬価制度Pharmaceutical Price Regulation Scheme(PPRS)に代わる価値に基づいた価格システムでの価格交渉の準備を行っている。PPRSは50年間、価格をコントロールしてきた。新たな価格交渉は今年後半には開始される予定。
英国製薬工業協会(ABPI)のStephen Whitehead会長は、新薬価制度についての討議は非常に重要と強調したうえで、「今度の価格制度における交渉結果は薬業界の将来を決めることになるので、我々はこれを正しく理解しなければならない」と慎重な対応が必要なことを訴えている。
2011年12月に発足したスペインの新政権は、債務削減のために増税と一層の緊縮政策を打ち出した。薬務行政では、政府は特許切れ医薬品の新たな参照価格を発表、4月に施行される。スペイン製薬協Farmindustriaによれば、製薬業界は価格引き下げで24億ユーロの売上を失っているうえに、今度の引き下げで6億5000万ユーロの売上が喪失されるとしている。
(The Pink Sheet 1月9日号より)