中外製薬 生成AIでMR向けトレーニングアプリ開発 鈴木DXユニット長「医療者への情報の質向上に期待」
公開日時 2024/11/26 04:52
中外製薬の鈴木貴雄デジタルトランスフォーメーションユニット長は11月25日、本誌取材に応じ、生成AIを活用したMR・MSL向け医師面談トレーニングアプリ「Chugai AI MediMentor」の内製開発を進めていることを明らかにした。MRの製品・疾患に関する知識や理解度の向上などを目的とした面談シミュレーター。今年8月末にプロトタイプを導入した。現在は特定製品を対象としているが、プロジェクト内の検証や議論を重ね、対象製品の更なる拡充を図る考え。10月にはGoogle Cloud主催の「第2回生成AI Innovation Awards」で最優秀賞を受賞した。鈴木ユニット長は、「トレーニングを通じて製品や疾患の理解に繋がり、MRやMSLが正しい情報をミスなく伝えることで、医療者への情報提供の質の向上に繋がる」と期待を込めた。
◎医師や薬剤師の立場でAIがMRに質問を投げかける
「Chugai AI MediMentor」は、自社医薬品の適正使用ガイドラインや添付文書、臨床試験データなど医薬品情報をAIに学習させ、生成AIが医師や薬剤師の立場にたってMRに質問を投げかけるというトレーニング機能を持たせた。AIの投げかける安全性情報や投薬継続の可否などの質問にMRが答えると、生成AIが回答内容に対するアドバイスも行ってくれる。8月末から試験的運用を開始しており、すでにメディカルアフェアーズ部門のトレーニングで活用が始まっている。今後さらに製品情報の追加や、MRの活用にも展開していくことを想定しており、引き続きアジャイル開発を継続する方針も明かしてくれた。
画期的なのが、生成AIに質問を打ち込んで回答させるという従来の活用法でなく、データに基づいて生成AIが質問文を作りだすという点にある。10月に最優秀賞を受賞した「生成AI Innovation Awards」でも、生成AIをトレーニングに活用するという意義に加えて、生成AIに質問を作らせるよう誘導するという難易度の高い技術を導入したことが評価されたという。
◎開発者の徳山氏「誤った情報を生成するハルシネーションは医療界で断じて許されない」
今回のアプリでは、医療従事者が生成AIを直接利用する形ではなく、あえて社内トレーニング向けに開発した。その狙いについて開発者であるDXユニットデジタル戦略推進部データサイエンスグループの徳山健斗氏(
写真左)が語ってくれた。徳山氏は、「誤った情報を生成してしまうハルシネーションは医療界において断じて許されない。一方で、日常的に医療従事者と面談機会の多いMRから情報提供を直接受けることが顧客体験としてメリットが大きい」と強調。このアプリがMR側の“正しい情報提供”を支援し、“製品の価値を提供する”というMRの本来的活動を行うためのトレーニングツールであるとのスタンスで開発に臨んだことを強調した。
◎鈴木ユニット長「MRの仕事に寄り添ったDXを進めたい。良きパートナーの時代がくる」
中外製薬のセールス&マーケティング部門におけるデジタル利活用について、鈴木ユニット長は、「まだまだ上り始めたところ」とやや控えめに応えながらも、「MRの仕事に寄り添ったDXを進めたい。MRに特化したAIエージェントが生まれるなど、良きパートナーとなる時代がくるのではないか」と見通した。
将来的な展望に触れ、「信頼や安全、安心を届けるのがMRの役割であり、革新的な医薬品情報を正しく理解して価値を伝えることが一番の仕事だ。加えて、MRの仕事は医師やその先にいる患者さんの幸せを高める活動につなげることもできる。AIを活用してMR自身の人間力を高めることで、よりユニークで価値の高いMRになれるだろう」と語ってくれた。