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医療費適正化 厚労省・水谷課長「医療者の協力不可欠」財政審・佐藤氏「マクロ経済スライドの議論必要」

公開日時 2024/10/21 06:15
厚生労働省の医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は10月20日、日本フォーミュラリ学会のシンポジウムで講演し、「我が国の皆保険制度を持続可能なものとするためには、医療者の協力が欠かせない」と強調した。第4期医療費適正化計画では新たな軸として、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」と「医療資源の投入量に地域差がある医療」を加え、医療従事者の行動変容を求めている。一方、財務省財政制度等審議会の委員を務める一橋大社会科学高等研究院医療政策・経済研究センター所の佐藤主光所長は、地域フォーミュラリなど個々の医療費適正化策を「究極なミクロ」と指摘。「医療の給付範囲全体を見据えて考える必要があるのではないか」と述べ、医療にマクロ経済スライドを導入すること含めたマクロな議論の必要性を強調した。

◎第4期医療費適正化計画「医療者の参画を強く打ち出した改正」

水谷産情課長は、24年からスタートした第4期医療費適正化計画策定に携わった立場から、「ポスト2025」の医療・介護提供体制のあるべき姿を示したと説明した。厚労省のこれまでの施策は、団塊世代が後期高齢者に入り始める2025年をメルクマルとして立案されてきたが、「これから高齢者人口が高止まりし、それを支える若年人口が減少していく中で、医療・介護をどう確保していくか、その時の状態を想起しながら、バックキャストする形でどういう政策が必要かを考えていくべきだ。そこのこの姿を描いてみようじゃないかというときに求められる姿を描いた」と説明した。

これまでの後発品使用促進などの施策は保険者から被保険者への啓発が中心となっていたが、「地域の医療関係者の団体にも参画いただいてやっていこうということをより強く打ち出す改正を行った」と述べた。

◎地域のバラつき是正へ「見える化で直すところがあると医療者に思ってもらうところが出発点」

第4期医療費適正化計画では、新たに“医療資源の効果的・効率的な活用”を打ち出した。具体的には、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」と、「医療資源の投入量に地域差がある医療」が軸。効果が乏しい医療としては、風邪に対して抗菌薬を処方することなどをあげた。一方、白内障の手術やがん化学療法の外来での実施などは、地域によりバラつきがあることが知られている。

水谷課長は、「個々の医療で見たときは、医学的な意味だけでなく、患者さんの状態を含めて医療の必要性という判断があるだろう。ただ、地域差がこれだけあるということは、そこに何らかの適正化・効率化の余地があるのではないか」と指摘した。これまでの施策とは異なり、「患者だけではできない。医療者に理解をいただき、見える化することで、医療者の方々に直せるところがあるのではないかと思ってもらうことが出発点だと思っている」と話した。そのうえで、「医療費適正化のあり方を考えるときに、我が国の皆保険制度を持続可能なものとするためには、医療者の協力が欠かせない。そこを改めて認識するとともに、それに向かっていく。フォーミュラリの取組みも医療関係者の中で意識していただき、地域の中で取り組んでいく。そうした取組みに位置付けられるのではないか」との見解を示した。

◎「地域フォーミュラリを作ろうということ自体が地域での医療・介護連携の基盤」

フォーミュラリをめぐっては、24年度にスタートした第4期医療費適正化計画で、医療の効率的な提供のうち、「後発品の使用促進」の方策の一つとして、「フォーミュラリ策定等によるさらなる取組みの推進」が明記された。第4期医療費適正化計画では柱の一つに、医療・介護の提供主体が連携し、必要な時に治し、支える医療や、個別ニーズに寄り添った柔軟な介護が地域の中で完結して受けられる体制が必要だということを打ち出した。「地域の中で完結した医療が提供されることを薬について支える。これは、個々の薬局、医療機関ということではなく、“面”として、“地域”で支えていこうということ。地域フォーミュラリを作ろうという取組み自体がそうした連携の基盤となる。さらに、フォーミュラリの効果によって、医薬品を効率的・効果的に支えていくことができるのではないかと思っている」とも話した。

◎財政審委員・佐藤氏 経済と社会保障は密接な関係「日本の経済は主要先進国で最下位」

財務省の財政制度等審議会委員を務める一橋大社会科学高等研究院医療政策・経済研究センター所長の佐藤主光氏は、地域フォーミュラリの中に出てくる“費用対効果”について「究極的なマクロ」と指摘。“大きなリスクは共助、小さなリスクは自助”の観点から、「医療給付範囲全体を見据えて考える必要がある」と述べ、医療へのマクロ経済スライドの導入を含めたマクロな観点からの議論の必要性を指摘した。

佐藤氏は、政府が“経済再生なくして財政健全化なし”を掲げる中で、「財政なくして社会保障なし」として財政を社会保障が密接な関係にあるとした。足下の経済状況については、日本の潜在成長率は2000年代以降1%以下で推移しており、「労働力の低下もあるが、日本は生産性が高まっていない」と指摘。「医療・介護の分野でも生産性がいま問われている。生産性が高まらないと、当然賃金も上げられない。国としては生産性をいかに高めていくかが喫緊の課題」と述べた。一人当たり名目GDPは「日本はG7の中では最下位、主要先進国の中では最下位。日本は、経済的な基盤がかなり弱体化している」と日本が陥っている深刻な経済状況を説明した。

こうした中で、「いま政府が考えていることはざっくり申し上げれば、“量から質”への財政政策の転換、つまりワイズスペンディングという考え方だ。それを支えるのが、EBPM、証拠に基づく政策形成、それは医療分野でも問われていることだと思う」と述べた。

◎既収載品の保険外しなど「“医薬品の新陳代謝”が求められる」

こうした中で、佐藤氏は“マクロな費用対効果”を議論する必要性を強調。「新規医薬品や医療技術を保険収載の対象とするのであれば、他のものはどうするのか。他の既存の医薬品を保険収載の対象から外すのか。まさに“医薬品の新陳代謝”が求められるかもしれない」と述べた。既収載品については「薬剤自己負担の引上げ」の必要性を強調し、こうした議論も財政審で進められていることを紹介した。

さらに、「いま、医療費適正化計画はミクロだ。医療提供体制を効率化させる、あるいは連携を進めることで医療費を抑え込んでいく、あるいは伸びを抑えることだが、それができないならば、マクロでの医療の適正化が求められる」と表明。過去には、経済状況で給付率を自動調整する“マクロ経済スライド”を医療に導入することも議論されてきたが、「マクロの管理指標の話にも立ち返ることになるかもしれない。このあたり少し大きな話として考えていかなければならないだろうということ」と牽制した。

佐藤氏は、「現場レベル、ミクロで見れば地域フォーミュラリを含めた連携を進める、あるいは医薬品の適切な管理を進めるということがあってよし。これをどうやってマクロの世界、医療費全体にどうやって反映させるか。医療費を適正化することで財政的にも持続可能にすることが経済に対する負荷を抑えることになる」と強調した。

さらに、少子高齢化が進む中で深刻な人手不足が日本全体に起きていることも指摘。「専門領域の垣根を越え、できるところはタスクシェアを進めていくである。新しい人材を登用していくことが求められる」とも述べた。なお、佐藤氏は内閣府規制改革推進会議委員で健康・医療・介護ワーキング・グループの座長も務めている。


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