注目されたグラクソ・スミスクライン（GSK）のチアゾリジン系2型糖尿病経口治療薬アバンディア（一般名・ロシグリタゾン）の安全性評価。メリーランド州ゲイザースバーグで7月13、14両日に開催されたFDAの内分泌代謝薬諮問委員会・医薬品安全性リスク管理諮問委員会合同委員会は最終的に賛成多数で販売継続を勧告した。しかし、出席した委員の多くがアバンディア服用による心血管イベントのリスク上昇傾向を認めているという玉虫色の結果となっている。

◎賛成者の状況は極めて複雑

合同委員会の投票結果は20対12（ほか棄権1）で賛成多数だったが、賛成者の状況は極めて複雑だ。
賛成者のうち10人は警告強化と使用制限を付加したうえでの賛成、７人が警告強化のみでの賛成、残る3人が現行の黒枠警告のままでの賛成という内訳となっている。反対者も含めれば、少なくともGSKが主張するような「アバンディアは心血管イベントのリスク上昇はもたらさない」という主張は否定した形になっている。
07年5月にこの問題が浮上した直後に行われたFDAの諮問委員会では、22対1の圧倒的大差で販売継続を勧告している時と比べると、同じ販売継続という勧告でも大きく後退した形だ。
現行の黒枠警告のままの販売継続を主張した委員１人であるロチェスター大学メディカルセンターのArthur Moss氏は自らの投票理由について「07年以降に追加されたデータは科学的視点が乏しく、少なくとも市場撤退という大きな変化が必要であると確信させられるものではなかった」と語り、積極的な販売継続支持ではないことをうかがわせている。　また、警告強化での販売継続に投票したシダーズ・サイナイ医療センターのSanjay Kaul氏は「アバンディアをファーストラインで使うのではなく、あくまでセカンドラインの治療薬として使用すべき」との考えを示している。
　一方、販売継続に関する投票前に検討されたアバンディアと同系のアクトス（一般名・ピオグリタゾン、武田薬品）との比較では、過半数を超える20人の委員がアバンディアがアクトスと比べ、心血管イベント発生リスクを上昇させると判断している。
　また、FDAが試験継続を再検討していたとされるアバンディアとアクトスとの比較試験「TIDE」についても同合同諮問委員会は19対11（棄権2、投票前退席1）で継続を支持したが、販売継続の是非の投票後にこの検討が行われたこともあり、アバンディアの市場撤退に投票しながら、「市場に残る可能性が高い以上、この試験を行うことは必要だ」として、この件では継続を支持した委員もいた。
　このように極めて不透明な結果だったこともあり、今回の勧告がGSKにとって好転をもたらすとは必ずしも言い難いのが実情だ。Sanford Bernsteinのアナリストであるティモシー・アンダーソン氏は「アメリカ以外の一部市場では引き続き撤退の可能性がある」と分析している。
また、今回の問題のきっかけとなった07年5月のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)に掲載された、メタ解析によるアバンディアの心血管イベントによる死亡頻度上昇の論文を執筆したクリーブランド・クリニックのSteven E. Nissen氏は「投票結果はFDAがその気になればアバンディアの市場撤退を決断するリーダーシップを発揮しても良い内容と考えている」と語り、同時に「もうこの薬は終わった」と切り捨てている。

◎市場でのプレゼンスの高まり期待できず？

FDAによる最終判断は数カ月以内に行われるが、諮問委員会の勧告に法的な拘束力はないため、FDAが市場撤退を勧告する可能性も全く否定はできない。ただ、勧告に従ったとしても警告強化などの対応策は避けられない可能性が高い。また、アバンディアでは心血管イベントほど致命的ではないとはいえ、近年は服用患者での骨折リスクの上昇も指摘されている。
これらを総合すると、GSKにとって今回の勧告は「首の皮１枚」でつながった程度に過ぎず、既に最盛期の３分の１以下の年間売上高7億ポンドまで低下したアバンディアの市場プレゼンスが高まることはなく、最良でも市場での自然淘汰との見方は少なくない。