提供:日本CSO協会
1998年に日本初のコントラクトMRが誕生してから、今夏で25年目の節目を迎える。当時は、医師との接点の要であるMRを外部へ委託するなんて“非常識”とも言われたそうだ。終身雇用や自前思考といった日本独自の制度や企業文化も背景にあった。しかし、時代は大きく変わった。
近年、アウトソーシングの戦略活用は、経営の柔軟性を高め、新しい価値の創出に経営資源を集中し、生産性を向上するアプローチとして業界・分野によらず常識化しており、コロナ禍によってその認識は一層高まっている。この追い風を受け、新たなステージを迎える日本のCSOは今後どこへ向かうのか━━日本CSO協会に現在地と未来像を聞いた。(富井 和司)
アウトソーシング率6.4%、
活用企業数138社 ともに過去最高に
日本CSO協会の調査で、2021年度(10月時点)の会員CSO企業5社の稼働コントラクトMR(CMR)
*数が前年比4%増の3,424人となり、全MRに占める割合(アウトソーシング率)は6.4%と過去最高となった(
図1)。
* MR業務に従事する者のほか、医療機器担当者やMSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)、エデュケーショナル・ナース等を含む
薬価制度の抜本改革等を背景として、全MR数は2014年をピークに減少が続いているが、コロナ禍で、製薬各社の組織体制の見直しや最適化の動きが活発化し、そのペースが加速している。CMR数もそうした中にあって近年は調整局面にあるが、ここにきて総MR数とは異なる様相を呈している。2018年以降、増減しながらも、増加の傾向が見られるようになっているという(図1)。
4月の役員改選に伴い同協会の新会長に就任した木﨑弘氏(シミック・アッシュフィールド)は、こう分析する。「これまでCMR数は総MR数と同じような動きを見せてきたが、潮目が変わっているように見える。2021年度は、新型コロナ関連の特殊な需要に対しても、かねて私たちが突き詰めてきたフレキシビリティとケイパビリティをもって、役割を果たすことができた」。
CSOを活用する企業のすそ野が拡がっていることも、特筆すべき点である。前年度から12社増の138社で、同じく最多となった(
図1)。内訳を見ると、MR数500人以上規模の企業数はここ数年、40社超で安定的に推移している一方、500人未満規模の企業数は94社と、調査開始の2009年度から4倍近くに増加している。新興のバイオファーマや医療機器等の企業、さらに医療機関(病医院・薬局)においても活用が拡がっていることが主な要因だ。
活用ニーズの拡がりとともに
担い手やケイパビリティも多様化
活用目的に関しては、「主力品強化」「欠員補充」「新薬上市」が引き続き上位を占める中、前年比では「流通強化」「市販後調査」「コールセンター」が大きく伸長。また、「エデュケーショナル・ナース」(企業看護師として患者ケア等を支援)も増えており、MSLやフィールドマーケター、トレーナー、地域包括ケアシステムの推進を支援する職種などとともに、MR以外の多様な担い手によるサービスの拡がりが見て取れる。調査を開始した2009年からの長期的な成長率をみると「産休対応」の伸びも目立つ。
医薬品マーケットの変化に加えて、患者中心志向やダイバーシティ、働き方改革の進展などを背景に、顧客の事業戦略や人事・組織戦略に対応した幅広いサービスが展開されている状況だ。
活用領域では、全体に占める割合は「循環器・脂質異常症」「糖尿病」などのプライマリ領域が多い一方、伸び率でみると「がん」や「中枢神経」、「ワクチン」など成長市場であるスペシャリティ領域での活用が進んでいる。
「こうしたニーズの拡がりに即応していく上で、CSOの強みとなっているのが“多様性”です」(木﨑氏)。人材面では、多様な職種が増えていることに加え、個々のケイパビリティの幅も拡がっている。例えば疾患領域の経験値では(
図2)、新薬をはじめとする各社の主力領域を中心に7領域以上の経験者が過半数を占め、5領域以上になると7割近くに上るという。また、スペシャリティ領域の経験者も増加しており、中枢神経領域経験者は4割、がん領域経験者は3割となっている。「このように幅を持った専門性とサードパーティーとしての中立性はCSOならでは。業界横断的に多種多様な企業、領域、製品を担う中で、現場ベースで培ってきた経験やノウハウが、パフォーマンスの質を上げ、新たな発想を生み、ペイシェントジャーニー全体にわたる総合的なサービスの基盤となっています」と木﨑氏はその意義を説明する。
経営・組織のアジリティの重要性増す中、
欧米並みの戦略的なCSO活用が期待される
日本のCSOの近未来を考える上では、CSO発祥の英国をはじめ欧米のCSOの動きが先行指標となるだろう。国による違いはあれ、市場環境や人数推移、サービスの拡がりなど共通点も多い。実際、世界最大の医薬品市場を抱える米国では、日本で起こっている製薬企業を取り巻く環境変化が先行して生じている。例えば、新薬パイプラインの高度複雑なスペシャリティ製品への移行、患者エンゲージメントの重要性の高まり、治療のアウトカムや費用対効果評価の本格化、プロモーションに関するさまざまな制約および医師へのアクセス制限の強化などだ。そして、こうした変化に対応すべく新しいコマーシャルモデルへの取り組みが模索される中、CSOの活用方法もより戦略的なものへと進展を見せているのだ。
なかでも協会が注視するのが、コロナ禍によって大きく加速した変化で、「不確実性が高く、不透明な環境下におけるアジリティ(機敏性)の重要性」である。VUCA*(ブーカ)時代と言われて久しいが、未知の変化に対しても素早く的確に対応できる組織、個人の能力は、コロナ禍を経て世界中、あらゆる業界、企業において必須となっており、「CSOの真価を発揮できる好機」と捉える。
そうした目線で、米国の総MR数の推移やアウトソーシング率を捉えると、おぼろげながら日本のCSOの今後の道筋が見えてくる。米国の総MR数は、日本に先んじて減少が始まったが、近年はそのペースが緩やかになり6万人前後でほぼ一定しつつある。一方、アウトソーシング率は11%前後を維持しており、英国の14%とともに、日本(6.4%)の約2倍にのぼる。欧米の水準に照らせば、日本のCSO事業もそのあり方やアウトソーシング率はまだまだ成長の余地があるとの見方ができる。
* Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性