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元小林化工代表取締役・田中氏 業務改善から再建断念への道のり語る 撤退めぐる薬機法の課題も指摘

公開日時 2024/09/09 07:00
業務改善命令後に小林化工の代表取締役を務めた田中宏明氏(GOF代表取締役)は9月7日、都内で開催した「Active-T」のパネルディスカッションに登壇し、業務改善から再建に向けて歩んだ道のりを語った。生命関連企業として不正を防止していくためにも、「他責ではなく、自責の姿勢で対応する」ことが必要との考えを示し、人材の重要性を強調した。最終的に小林化工は自主再建を断念し、製造設備や人材をサワイグループホールディングスに譲渡することになる。田中氏は撤退に向けて、「薬機法上会社が機能を停止した場合にはどう対応するかという規定がない」ことで困難が多かったと指摘。撤退に際し、現行の薬機法をめぐる課題も議論になった。

◎絶対的な上長の圧力「生産中止と自身のクビとで悶え苦しむ社員の姿も」

小林化工は、抗真菌剤・イトラコナゾールに睡眠誘導剤の混入したことが2020年12月に発覚。21年2月に過去最長となる116日間の業務停止命令を福井県から受けていた。田中氏は、業務停止命令を受けている最中の21年5月に代表取締役に就任した。

不正の本質について田中氏は、企業風土があったと指摘。特別調査委員会の実施した調査結果報告書を引き合いに、上位者の指示が絶対的で下からの問題提起が許されない「風通しの悪さがあった」と説明。勇気を振り絞って上長に相談しても、「でしゃばるな」などと叱責を受ける状況であったため、上司の指示に黙って従うことしかできなかったという。このような「空気感」を発端に、共同開発企業との関係による期日に対する圧力や、国の後発品の使用促進が状況を加速させた。

製造現場では従業員の教育に割く時間すらままならなくなる一方で、自身の生活を守る必要性もあることから、「実際のところは、生産を中止するのか、それともクビになってこの会社を終わらせるのか。この状況で、実は皆苦しみ悶えながら、製造や研究開発の方々の仕事をしていたというのが実際だ」と話した。

◎「全部を受け止めるところから始めた」

田中氏は代表取締役就任の直前に、中堅幹部22人に面談したところ、不正にかかわっていた製造現場の社員の中には表情を失った社員も多くいたという。ただ、「これからはちゃんと薬をつくっていいのですね」と話した社員もいたといい、「この一言を聞いて何とかなると思った」と振り返った。立て直しに前向きな品質管理の社員や、違法行為を一切知らなかったにもかかわらず被害にあった患者への対応を社の問題として対応していた営業部門の社員など、様々な社員がいた。「全員を受け止め、受け入れて自分の子供だと思って、悪い子も良い子も全部ちゃんと育てるというつもりで社長をやった。本気で受け入れることから始めた」と振り返った。

タウンミーティングを開き、500人以上の社員と直接面談も行った。経営企画部員から「できることはすぐやりましょう」との意見も出て、それを拡大していった。「基本的に皆、受け止めてくれるようになる。承認されているということで、逆にこっちの言うことも聞いてくれる」と話した。不正に関与した社員についても、「処分して明確にするよりも、どうやって皆を前向きに持っていくか。過去の失敗を責めることよりも未来志向で次を作ることで対応した」という。

◎心理的に認められる“心理的安全性”が不正防止、改善に必要

こうした取組みを通じ、「結果として、社員の表情や目つきが変わってきた。最初は、不正に関与する人が多いので、無表情で顔は笑っているけど目が笑ってない人が多かった。それがだんだん目に光がともり、さらに1か月経つと、“実はこんなことがあったんです”とか、“こんなことをしたらいかがでしょうか”というのを言ってくれるようになった」という。結果的に、「改善の指示をすると、自分たちで完全にこれを学ぼうという気持ちが湧いてきて、課題を発見し、自発的に改善してまた勉強してくれる。このサイクルがぐるぐる続いて良くなってきたと思っていた」と明かしてくれた。

特別調査委員会では、“心理的安全性”という言葉で表現しており、「強圧的な人が押さえつけるような状況ではなく、心理的に認められて改善や前向きなことをする空気感、その社風にすると自然にミスや問題が表に出て自然によくなる。こういう場づくりが必要だ。実はこういったことが不正を防止、あるいは改善していくことは非常に必要だと今は思っている」とも話す。

一方で、改善が進む中で問題が明確になる中で、「問題が多すぎた」と吐露。700人いた社員が「再生までの道筋が明確に見えない中で、月に20人が辞めていた。1年半踏ん張っていたら、間違いなく会社自体崩壊する」と話し、最終的に自主再建を諦め、サワイグループホールディングスへの譲渡を決断した。

譲渡決断から完全撤退までの1年間、製品の販売ができない後ろ向きの業務に、営業業務/営業企画の本社メンバーがかかわらないといけない中で、コントロールする難しさにも触れた。「従業員のみならず経営陣も、個々の人間が人のせいでこの問題が起きたというのではなく、自責の姿勢で対応する。これができたからこそ最後の撤退業務ができた」と指摘。「実は製品を開発し、製造する、売っていくときも、その姿勢で全社一丸となることが生命関連産業に携わる方々にとって非常に必要ではないかと強く感じた」と話した。

自主再建を目指す中で、医師や薬剤師を訪問した際に、「当然文句も言われたが、製品で助かった、ぜひ営業再開してほしいという声もかなり多かった」と振り返った。「最終的に届ける患者様の一歩手前かもしれないが、そういった方々ときちんと接点を持つことで、自分たちの作っている薬が人の役に立っている、あるいは迷惑をかけてしまったときにどれだけ酷いことか、という実感を持つことで、研究開発、製造、営業が一体感をもって本当に良い薬が作れるのではないか」とも話した。

◎薬機法上の課題 撤退後の品質・安全対策の責任はだれが?

市場からの撤退をめぐる薬機法の課題も指摘した。薬機法上、製薬企業は製造した医薬品の品質を「最後まで責任を持つ」必要がある一方で、「会社が潰れたときにこうします、という規定が一つもない」と指摘。「小林化工を潰すわけにはいかなかった」とした。譲渡が決まった後の処理が「実は薬機法上、色々大変だった」と吐露。品質確保に向けて、自主回収から始め、承認整理まで行うことで、厚労省から「致し方なしということで、ノーとは言われなかったので、何とか1年間で撤退業務が終わった」と振り返った。同社は23年4月に医薬品製造販売業許可を廃止した。

田中氏は弁護士の立場から、「日本の戦後で実質、会社がなくなったケースは多くあるが、破産は数例、他はすべて法人格をスポンサーとして受け取っている。つまり、元の会社の法人格が残るので、そこが責任を果たし、親会社が薬機法に従ったシステムで品質対応を続けることができた。破綻した会社はあるが、社会的な大問題になるような成分も市場に供給しておらず、今まで問題にならなかったと感じている」と説明した。

銀行では破綻を想定した法整備が進められている一方で、「薬機法上、会社が機能を停止した場合にはどう対応するという規定がない」と指摘。「どうしたらいいかは、法律の行間を読み、いわゆる法益(法が守ろうとしている本質的価値)は何なのか逆算でし、優先度を決めて、頭をひねり専門家と相談しながらスキームを提案して対応していった」と振り返った。

会場の日本製薬工業協会(製薬協)の森和彦専務理事(元・厚労省審議官)は、「製品に関する情報提供や安全対策の責任を、薬機法では規定しているが、その製品の承認を取った会社がなくなった時に、一体誰がという規定がないということ。安全対策も実は無限に責任を負い続けることになっているが、それも課題だ」と述べた。
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