厚労省の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会は11月28日、医療用医薬品の製造販売業者の法令遵守体制として、「安定供給体制管理責任者(仮称)」の設置を薬機法上に義務付けることを了承した。あわせて、「安定供給体制確保のための手順書」(仮称)の作成など安定供給のための必要な措置を薬機法第 18条の「製造販売業者の遵守事項」として規定する。製造販売業者の体制整備が安定供給の出発点であるとして、製造販売業者に早期の対応を促す。厚労省は、供給不安の迅速な把握・報告徴収・協力要請や安定確保医薬品の供給確保、需給データを活用したモニタリングの実施も法令上位置付ける考えで、あらゆる角度から長引く供給不安への対策を打つ。
◎製薬企業の安定供給確保体制整備が「すべての出発点」 手順書作成を製造販売業者の遵守事項に
厚労省はこの日の制度部会に、医療用医薬品の製造販売業者の法令遵守体制として「安定供給体制管理責任者」(仮称)の設置を薬機法上、義務付けることを提案した。あわせて、「安定供給体制確保のための手順書」(仮称)の作成など安定供給のための必要な措置を薬機法第 18条の「製造販売業者の遵守事項」として規定する。これらの措置の執行(確認、監督指導)は、都道府県が実施。執行体制の整備に時間がかかることから、執行体制の整備にかかる期間も考慮し、施行までには十分な期間を確保する考え。ただし、早期の安定供給確保体制確立が求められていることから、法施行までの間、厚労省から製造販売業者に対して体制整備を促す。
厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の水谷忠由課長は検討の背景について、「後発医薬品産業における構造的課題を背景に、3年以上の長期にわたって数千品目の製品供給不安が生じており、社会的にも大きな影響が出ていることを踏まえたもの」と説明。後発品以外にも供給不安が起きている現状を踏まえ、ジェネリックだけでなく、”医療用医薬品”の製造販売業者を対象とする考えを示した。
薬機法上では品質管理や製造販売後安全管理を担う総括製造販売責任者(総責)が製造販売業者等の法令遵守体制として位置づけられている一方、安定供給のための供給体制の管理についての規定は設けられていなかった。水谷課長は、「製薬企業において安定供給確保に向けた体制を整備していただくことが全ての出発点」と意義を強調した。
◎安定供給体制管理責任者 「生産計画策定する部署の責任者が束ねる体制重要」 意見陳述義務も
具体的には、安定供給体制管理責任者は手順書遵守のための体制整備など、安定供給確保のための取組みを担う。製造販売業者の医療用医薬品の供給体制の管理を行う者とする考えを示した。安定供給体制管理責任者には、「製造販売業者への意見陳述義務」などを課すことを想定し、今後総責や品質保証責任者(品責)、安全管理責任者(安責)などの規定を参考に詳細を詰める考え。
安定供給体制管理責任者の担う役割について水谷課長は、「一般的には、生産計画の策定を行う生産本部長が担っていることが多いと思う」と説明。営業部門や生産部門、物流部門、信頼性保証部門など様々な部門に跨る業務となることから、「生産計画の策定を統括する部署の責任者として束ねていただく体制が重要だと思っている」と述べ、法施行、までの間にひな形を活用して具体的に示していく考えも示した。
◎手順書はGQP省令や安定供給マニュアルを参考に作成求める
遵守事項に位置付ける手順書は、GQP省令や、日本製薬団体連合会(日薬連)の策定した「ジェネリック医薬品供給ガイドライン」(安定供給マニュアルの作成)などを参考に作成することを求める。原薬確保や在庫管理、生産管理、他社に製剤を製造委託する場合の手順などを定めることを想定する。手順書を定めるだけでなく、遵守するための体制整備や取組みを記載することも求める方針。
安定供給マニュアルは、ジェネリックメーカーを対象としているが、「安定供給に向けた体制整備を求められるのは後発医薬品企業に限られるものではない。現に今起きている供給不安は、後発医薬品が相対的に多いが、当然他の医薬品でも起きている」(水谷課長)ことから、製造する医薬品による違いも踏まえ、現場の実態に即したものとなるよう検討を進める。
◎厚労省・水谷課長「安定供給するから品質をないがしろにしていいわけでない」 都道府県にクギ
委員からは、安定供給体制管理責任者を中心とした実行性を問う声もあがった。実際、安定供給マニュアルはジェネリックメーカーの約9割が作成し、体制整備を進めているものの、供給不安が続いている状況にある。水谷課長は、供給不安の根底に少量多品目構造など産業構造をめぐる課題もあるとしたうえで、「安定供給の体制整備は個々の企業にやっていただくことが出発点だと思っているが、全ての解決策ではないという前提の下で、これを徹底してやっていくことが重要だと考えている」と述べた。
監督指導などを担う立場から、中島真弓委員(東京都保健医療局健康安全部薬務課長)は、「供給に支障が出る品質問題が生じたときに、品質確保と供給力確保の板挟みとなってしまい、品質確保のための適切な措置ができない恐れも考えられる。都道府県が担うのは企業の体制整備の確認に限定し、供給量の把握や調整等の業務は所管しない形にしていただきたい」などと要望した。これに対し、水谷課長が「薬機法は医薬品の品質、有効性、安全性が確保された医薬品を国民にお届けするための法律で、これは大前提だ。安定供給をするからといってこうしたものをないがしろにしていいとは我々は考えていない」とクギを刺す場面もあった。
◎供給状況報告の厚労大臣への届出を義務化 罰則規定も
医療用医薬品の製造販売業者に対し、限定出荷や供給停止を行う場合の供給状況報告・供給不安報告の厚生労働大臣への届出を義務化することも提案した。供給状況報告は製造販売業者にとって外形上、明らかな対応であることから、「罰則」規定を設けることも提案した。
水谷課長は、「供給状況報告は、(増産要請や適正配分など)我々の取組みの契機となるトリガーだが、一部供給状況報告をタイムリーに出していない製造販売業者がいるのも事実」と説明。報告制度を強化した4月以降、報告しない製造販売業者は減少傾向であるものの、「まだ一定数存在する」と説明。法令上位置付けることで、企業からの報告を徹底させる必要性を強調した。
◎「安定供給確保医薬品」として法令上位置付け
安定確保医薬品については、“安定供給確保医薬品(仮称)”として、専門家の意見を聴いた上で、厚生労働大臣が指定。法令上位置付ける方針。感染症法の感染症対策物資と同様の規定を設け、生産の促進その他の安定的な供給の確保のために必要な措置の要請(安定確保医薬品A・B相当を想定)、需給状況の把握のための製造販売業者に対する報告徴収(安定確保医薬品A・B・C相当を想定)ことを提案した。
◎川下の需給状況をビッグデータでモニタリング 電子処方箋管理システム活用で根拠規定整備へ
いわゆる川下の需給状況をビッグデータとして、モニタリングする方針も示した。現在、支払基金が管理する電子処方箋管理システムでは、薬局などの調剤データをタイムリーに把握できることから、活用に向けて法令上の根拠規定を整備する。厚生労働大臣が調査 ・分析できる旨の規定を設ける考え。
水谷課長は、「電子処方箋を導入する医療機関・薬局への卸からの納入量と、調剤量を比較することで、トレンドとして川下において需給が緩むのか、タイトな方向に向かっているのか把握できないかというのが基本的なコンセプト」と説明。電子処方箋の発行は限定的だが、体制整備をする医療機関・薬局の紙ベースの処方箋も取り込む考えを示した。
現在は、需給状況を把握できる仕組みはなく、厚労省が供給状況報告に基づき、個別メーカーや医薬品卸に問い合わせをしながら状況を把握しているという。水谷課長は、「製造販売業者にとっても、自社の生産計画の見通しはあるが、市場全体がどうなっているか、必ずしも把握する術がなく、適時適切な増産の妨げになっているとの指摘もある。こうしたデータを把握することで、市場全体の状況を把握することが可能となるメリットが考えられる。厚労省としても、供給不足の兆候をいち早く把握することで迅速な対応につながると考えている」と強調した。
◎法整備は「ルートコーズとして必要な対応」
川上純一構成員は、「法令改正で対応することは決して終わりではないと思う。医薬品の供給不足が本当に解消に向かっていくのか、安定供給体制が企業で確保されるのか、手順書が遵守されていくのか、など行政にはその後もフォローをぜひお願いしたい」と述べた。
水谷課長は、「我々としては、ルートコーズ(根本原因を突き止める解析手法)として必要な対応だと思っている。メーカーには限定出荷の解除に協力いただきながら、取組みを続けている。引き続き、足下の取組みと制度的な対応の両輪でしっかり進める」と応じた。