【esc速報】INTERACT2 高血圧性頭蓋内出血急性期 早期の積極的降圧で機能予後有意に改善
公開日時 2013/05/31 15:00
高血圧性頭蓋内出血患者の急性期に、早期に収縮期血圧値140mmHgを目指した積極的な降圧治療を行うことで、従来の180mmHgを目指した血圧管理に比べ、機能予後や生活の質(QOL)を有意に改善することが示唆された。ただし、同試験の主要評価項目であった、全死亡+重大な機能障害の改善については2群間に有意差は認められなかった。国際多施設共同臨床試験「INTERACT2(Intensive Blood Pressure Reduction in Acute Cerebral Hemorrhage Trial)」の結果から分かった。5月28日から開催されている第22回欧州脳卒中学会(esc)で29日に開かれた「Large Clinical Trials」セッションでINTERACT2 Investigatorsを代表して、Craig S.Anderson氏が報告した。(イギリス・ロンドン発 望月英梨)
試験は、高血圧性頭蓋内出血患者の急性期における、収縮期血圧値<140mmHgを目指した積極的な降圧療法の有効性・安全性を検討する目的で実施された。高血圧性頭蓋内出血は、死亡率が20%以上と高率で、統計学的に有意差のある治療はこれまで確立されておらず、治療法の確立が望まれている。
対象は、発生から6時間以内の、CT/MRIで確認された自然発生的な急性頭蓋内出血で、収縮期血圧値150~220mmHg、治療の適応/禁忌がないことを満たす患者とした。登録期間は、2008年10月~12年8月までに、21カ国144施設から2839例が登録された。
①積極的な降圧治療を行う群(1時間以内に収縮期血圧値<140mmHg)②GLで推奨された標準的な血圧管理群(収縮期血圧値<180mmHg)――の2群に分け、治療効果を比較した。解析対象は、積極的降圧群1382例、標準血圧管理群1412例。主要評価項目は、90日後の死亡+重大な機能障害(modified Rankin Scale(mRS)で 3[中等度の障害]~6[死亡])の割合とした。降圧薬の選択は医師の裁量に委ねられた。
ベースラインの患者背景は、ランダム化までの平均時間は両群ともに3.7時間、平均年齢は積極的降圧群63.0±13.1歳、標準的血圧管理群64.1±12.6歳、男性は64.2%(898例)、61.7%(882例)、中国からの登録が67.7%(947例)68.0%(973例)、平均NIHSSスコアが10(6-15)、11(6-16)、平均Glasgow Coma Scale(GCS)スコアは両群ともに14(12-15)だった。頭蓋内出血の出血量は積極的降圧群11(6-19)mL、標準血圧管理群11(6-20)mL、脳内深部が83.8%(1084例/1294例)、83.2%(1098例/1319例)だった。
血圧値は、積極的降圧群179±17/101±15mmHg、標準血圧管理群179±17/101±15mmHg、高血圧の既往が72.4%(1012例/1398例)、72.5%(1036例/1428例)、現在の降圧薬の処方が44.8%(627例/1398例)、45.3%(647例/1428例)で2群間に有意な差はみられなかった。
収縮期血圧値は、1時間後に積極的降圧群150mmHg、標準血圧管理群164mmHg、6時間後には153mmHg、139mmHgまで降下し、いずれも14mmHgの差がみられた(p<0.0001)。積極的降圧群では、早期から血圧低下がみられ、15分以内から積極的降圧群で有意な低下がみられた(p<0.0001)。
頭蓋内出血発生から治療開始までの時間は積極的降圧群で4(2.9-5.1)時間、標準血圧管理群で4.5(3.0-7.0)時間で、24時間以内の治療は積極的降圧群では90.1%(1260例)、標準血圧管理群42.9%(613例)だった。治療内容は、何らかの静脈投与を実施したのが積極的降圧群90.1%(1260例)、標準血圧管理群42.9%(613例)、ボーラス+静注が30%、18%、複数の治療薬の投与は26%。8%で、いずれも積極的降圧群で有意に高率だった(p<0.001)。治療薬は、ウラピジルなどα受容体遮断薬が32.5%(454例)、13.4%(191例)で最も多く、ニカルジピンやニモジピンなどCa拮抗薬が16.2%(227例)、8.5%(122例)、ラベラータロールなどαβ受容体遮断薬が14.4%(202例)、5.8%(83例)、ニトログリセリンが14.9%(209例)、4.1%(59例)で、これらで8割を占めた。
◎主要評価項目で有意差示せずも機能予後、QOL改善 死亡や有害事象の増加はみられず
主要評価項目の発生率は、積極的降圧群52.0%(719例/1382例)、標準血圧管理群55.6%(785例/1412例)で、両群間に有意差はみられなかった(オッズ比:0.87、95%CI:0.75-1.01、p=0.06)。内訳は死亡(mRS=6)が11.9%(166例/1394例)、12.0%(170例/1421例)で有意差はみられなかったが、mRSのシフトは積極的降圧群で有意に良好な結果となった(重大な機能障害に対するオッズ比:0.87、95%CI:0.77-1.00、p=0.04)。この傾向はいずれのサブグループでも同様に認められた。
患者の生活の質(QOL)についても、全体の健康の効用値(health utility)が積極降圧群0.6、標準血圧管理群0.55と、有意な改善がみられた(p=0.002)。項目では、セルフケア(p=0.02)、日常活動能力(p=0.006)、痛み/不快感(p=0.01)など有意な改善がみられた。
一方、安全性については致死的でない重大な有害事象の発生率が積極的降圧群23.3%、標準血圧管理群23.6%で、積極的降圧群で死亡や重大な有害事象が増加しないことも示された。
◎Anderson氏 積極的降圧を標準療法に GL改訂への影響を示唆
結果を報告したAnderson氏は、「早期の積極的な降圧療法による死亡や有害事象は増加せず、安全であることが示された」とした。その上で、“早く(24時間以内に)、積極的に(収縮期血圧値<140mmHg)、維持する(24時間以上)”ことで、生存者の機能予後を改善する可能性があることを強調した。
主要評価項目で有意差がでなかった点については、「治療効果は予測値の7%を下回る4%だった」とした。その上で、NNT(Number Needed to Treat)はアスピリンを上回る25だったことや、幅広い患者像で有効性を示したことを説明し、有効性を強調。「費用対効果も高く、簡単で広く行うことができ、世界中の病院で高血圧性頭蓋内出血の患者に対する標準療法とすべきだ」との見解を示した。現行のガイドライン(GL)では、積極的降圧の有効性を示したランダム化比較試験(RCT)がこれまでなかったことから、慎重な降圧が求められているが、この試験結果を踏まえ、「世界中のGLが改訂されると期待している」と述べた。
なお、同試験の結果は、同日付の「The New ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」Online版にも掲載された。