
日本セルヴィエのアントニー マレ代表取締役は4月11日、本誌などのグループインタビューに応じ、2026年までの2年間にがん領域で4件の承認取得を目指すとともに、MRを含む全ポジションを「戦略的に拡充する」と表明した。MRなどによる情報収集・提供活動は、▽消化器がん、▽血液がん、▽神経膠腫――の3チーム制で行う計画。がん領域経験者を中心にサイエンスレベルの高い人材を「大いに募る」と述べ、採用活動を積極的に進める意向を示した。現在はがん領域で事業展開しているが、「長期的には神経疾患領域に参入する確率は高い」とも話した。
日本セルヴィエは、グローバル戦略のひとつであるがん領域におけるプレゼンス拡大及び革新的なプレイヤーになることを目指し、22年に日本でMR体制を構築し、がん領域製品の自社販売を始めた。自販製品は現在、膵がん治療薬・オニバイド点滴静注と急性リンパ性白血病(ALL)/悪性リンパ腫(ML)治療薬・オンキャスパー点滴静注用の2製品。3月27日にはIDH1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病(AML)治療薬・ティブソボ錠(一般名:イボシデニブ)の承認を取得し、薬価収載後に自社販売する予定だ。
◎「セルヴィエグループが最も付加価値を提供できるのはがん領域」 6カ月おきに1つの承認取得目指す
マレ氏は、「セルヴィエグループが日本市場で最も付加価値を提供できるのはがん領域だと考えている」と強調した。そして、「この2年間は6カ月おきに1つのペースで承認を取得していく」と述べ、25~26年に計4つの承認取得を目指す計画を示した。
マレ氏と、来日した研究開発部門の責任者であるクロードP.ベルトラン・エグゼクティブヴァイスプレジデント(チーフサイエンティフィックオフィサー R&D)によると、日本でこの2年間に承認取得を見込んでいる製品(一部承認取得済み)は、3月に承認を取得したティブソボのほか、▽IDH1又はIDH2遺伝子変異陽性の神経膠腫を対象疾患とする経口IDH阻害薬・ボラシデニブ、▽ティブソボの胆道がんの適応追加、▽オニバイドの膵がん1次治療の適応追加――となる。ボラシデニブは24年12月に承認申請したことを発表済み。オニバイドは現在、「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な膵がん」を適応としている。
◎日本法人 売上は今後5年間で4~5倍 現在138人の従業員数は3年で200~250人規模に
マレ氏は、新製品の上市や適応追加が今後相次ぐことを念頭に、「日本法人の売上を今後5年間に4~5倍まで増やすことを目標にしている」とし、「戦略的に組織の拡充を図り、(売上拡大との)我々の目標を実現する」と述べた。組織の拡充は営業、マーケティング、メディカル、法務、コンプライアンス、薬事――など全ポジションで行うと言い、「フィールドに配置する人は大いに募る」と話した。日本法人の従業員数は25年2月1日時点で138人。マレ氏は、部門別の人員数や増員数は非開示だとしながらも、「(日本法人全体で)3年間で200~250人の規模にしたい」と述べた。
◎サイエンスレベルの高い「かなり経験値の高い人」求む!
採用したいMR像は、「かなり経験値の高い人を希望している。さらに言えばがん領域の経験のある人を希望している」とし、「(取扱製品や取扱予定製品の)サイエンスレベルは大変高く、専門医に対する情報提供を担う人たちには高い期待値に応えることが求められる」との考えを示した。
取扱製品や取扱予定製品の専門性の高さから、現在の1チーム制を今後、▽消化器がん、▽血液がん、▽神経膠腫――の3チーム制に体制変更し、各チームにMRやメディカル担当者を配置する計画も披露した。3チーム制とする理由は、「スペシャルチームごとに、専門性の高い各治療領域をおさえていく必要があると考えた」ため。専門医との深いコミュニケーションを実現し、適正使用を徹底するための体制変更で、新製品の発売や適応追加のタイミングにチームが立ち上がるイメージだとした。
各チームの取扱製品(予定含む)は、消化器がんのチームはオニバイドやティブソボの胆道がん適応、血液がんのチームはオンキャスパーとティブソボのAML適応、神経膠腫のチームはボラシデニブ――になるとみられる。
◎流通政策「少量の特殊医薬品を厳密に管理・配送できるパートナーを選ばないといけない」
現在販売中のオニバイドとオンキャスパーの2製品は現在、スズケングループの1社流通となっている。3月に承認を取得したAML治療薬・ティブソボや今後投入する新製品の流通政策も気になるところだが、マレ氏は「まだ決定事項はない」と述べた。ただ、「当社製品は希少がんを対象としているため、少量の特殊医薬品を厳密に管理・配送できるパートナーを選ばないといけない」とも話し、この観点から製品ごとに取引卸を検討していく構えをみせた。
◎ローロ会長兼CEO 日本法人は「子会社の中で2番目の大きさに育ってほしい」
来日したセルヴィエグループのオリヴィエ ローロ会長兼CEO(写真中央)もグループインタビューに応じた。フランスに本社を置く同社は、非営利財団によって運営される独立した国際的な製薬企業で、株主が存在しない。ローロ氏は、「売上の約20%を毎年、研究開発に投資する経営が可能」だとし、「長期的ビジョンに基づき、患者さんに貢献する革新的な薬剤を届けることができる」と強調した。
日本市場は「セルヴィエグループとして重要な戦略的な市場」であり、「(日本法人は)29年、30年を目指して、子会社の中で2番目の大きさの会社に育ってほしい」と日本セルヴィエに大きな期待を寄せた。日本市場の魅力は、国民皆保険の市場であることや臨床試験の質が高いことのほか、「より質の高い診断がなされるため、がんなど注力疾患の診断率・有病率が高い」ことも挙げた。
一方で、「製薬業界の要はイノベーションだが、イノベーションにはリスクを取り続けることが含まれる。リスクをとって得た成果に対する見返りは必要」とも指摘し、見返りとして▽特許権、▽データ保護、▽薬価による評価――を充実する必要があると訴えた。
研究開発の責任者を務めるベルトラン氏(写真右)は、PMDAから臨床試験により多くの日本人症例を組み入れるよう指示されているとした上で、「我々も努力し、ここ数年で日本人を組み入れた臨床試験数がそれまでの4試験から11試験に増えた」と述べた。「臨床試験のできるだけ早い段階から日本人を組み入れていく」との開発方針も示し、日本の開発チームとグローバルの開発チームが密接に連携して対応していることを紹介した。
◎研究開発費の約70%をがん領域に充当 神経疾患領域に参入も
セルヴィエは循環器領域のリーディングカンパニーとして知られるが、ローロ氏が14年に現職に就任してがん領域への参入を決定し、旧シャイアー社のがん事業及び米国事業拠点の買収(18年)などを次々に実現した。現在は研究開発費の約70%をがん領域に充て、臨床開発段階の34プロジェクトの約半数にあたる16プロジェクトはがん領域となっている。
ローロ氏は、「今後の目標としては、希少がんをターゲットとすることで、がん領域に特化した革新的なリーダーになることを目指す」としたほか、「神経疾患領域に参入し、希少な神経疾患のリーダーを目指す」との展望も披露した。日本では引き続きがん領域に注力するが、マレ氏は「(日本も)長期的には神経疾患領域に参入する確率は高い」と述べた。ベルトラン氏は、「神経疾患ではプレシジョンメディシンのアプローチをとる」とし、「神経炎症系、運動系、小児てんかん」をターゲットに研究開発していく考えを示した。2月時点の同社の開発パイプラインによると、パーキンソン病を対象疾患とするLRRK2阻害薬・S221237(開発コード)が第1相試験段階にある。
◎循環器・代謝性疾患製品 日本市場は今後もパートナー企業に委ねる
セルヴィエはこのほど、30年に向けた経営計画をまとめた。2年ごとに1件の臨床POC試験を行うことや、毎年がん治療薬1品目の承認を取得すること、26年以降は毎年CMVD(循環器・代謝性及び静脈疾患)治療薬1製品を上市することを掲げた。CMVDでは服薬アドヒアランスの向上に向け配合剤の開発を戦略的に進める方針だ。
日本でCMVD領域製品は導出戦略をとっており、コララン、コバシル、グリミクロンなどは導出先企業が販売中。ローロ氏は、「実はパートナー企業との契約期間はとても長い。パートナー企業を信頼し、パートナー企業に当社のCMVDポートフォリオの一翼を担ってもらいたい」と述べ、CMVD領域製品は今後もパートナー企業に委ねる姿勢をみせた。
◎30年売上目標は100億ユーロ CMVDで40億ユーロ がん及び神経疾患で計40億ユーロ
30年の数値目標は、24年に59億ユーロ(前年比10.8%増)だったグループ全体の売上は30年に100億ユーロを目指し、先発品で80億ユーロ、ジェネリックで20億ユーロを生み出す計画。領域別ではCMVDで40億ユーロ、がん及び神経疾患で計40億ユーロを達成することを掲げた。このほか、低所得の子どもに貢献するがんプログラムを展開するほか、社員がより誇りと情熱をもって働ける会社になるよう独自プログラムや人事方針を構築するとしている。
セルヴィエ経営陣のグループインタビューの詳細記事(一問一答記事)は、ミクス5月号で紹介します。