東京都医師会・尾﨑会長 社会保障財源めぐる国民的議論を 消費増税も一考 OTC活用で医療費削減も
公開日時 2025/03/12 06:00

東京都医師会の尾﨑治夫会長は3月11日の定例会見で、高額療養費の見直しをめぐる議論を踏まえて社会保障財源について言及し、国民皆保険の維持に向けて、「どうやって財源を確保していくかは皆さん、一緒に考えていただきたい」と国民的な議論の必要性を訴えた。具体的な財源として、「消費税は景気に左右されず、現役世代の負担は多くならない可能性があるのではないか」と言及した。高額療養費の見直しの議論は、現役世代の負担軽減に端を発している。尾﨑会長は現役世代の社会保険料負担が限界にきていることを認めたうえで、高額療養費限度額の引上げから議論を開始することに改めて反対を表明。OTC医薬品の活用などセルフメディケーション推進による医療費削減の必要性も指摘した。
◎高額療養費の見直し議論「国民皆保険本来の目的から外れてくるのではないか」
高額療養費限度額の引上げをめぐっては3月7日、政府が8月の実施を見合わせ、今秋までに改めて検討する方針を示している。東京都医師会は政府決定前の5日に高額療養費制度の凍結を求める緊急声明を発表していた。尾﨑会長は、「もう少し長い期間をかけてじっくり議論すべき話だ」との見解を表明。「命にかかわる医療が所得の差により受けられなくなるのは国民皆保険本来の目的から外れてくるのではないかと非常に危惧している」と危機感を示した。
◎消費増税「理屈を説明すれば国民の理解得られるのでは」 幸せが実感できる形を
医療費は保険料5割、税金4割、自己負担1割で構成されている。尾﨑会長は、「現役世代の社会保険料の負担が限界に来ているという見方はできると思う」と認めた。そのうえで、「日本は国民の負担は増えないまま国債を発行して借金のような形で手厚い社会保障を伸ばしてきた。今の状態を解消しながら、高福祉の国家を目指すのであれば、国民の負担をもう少し増やさなければいけないのではないか」と指摘した。
そのうえで、消費税をめぐる議論の必要性を指摘した。尾﨑会長は、「消費税はこれまで色々な意味で使い方も含めて、良い医療・介護、社会保障を受けられて幸せになったという実感がなかった」と説明。後期高齢者が増加するなかで、「日本を支えてきた方々が、今まで通りの医療が受けられる形にしていかなければいけないと思っている。どうやって財源を確保していくかは皆さんで一緒に考えていただきたい」、「きちんと理屈を説明しながらどうやって社会保障、国民皆保険制度を守っていくのか、皆さんで真剣に議論していけば理解を得られるのではないか」との考えを示した。
「私ども医療界は消費税を上げる権限をもっているわけではない。我々は診療報酬の中で精いっぱい良い医療をしたいということ。財源的な裏付けは政府、国民の意識、医療・介護を守っていくというコンセンサスの下に動いていくものだ。いま議論しないと、2030年に入ると日本は厳しい時代に入ってくると思っている。政治家もそういう意見を持っている方が多い。高額医療費を引き上げる是非ではなく、これからどうやって医療・介護を今の質を維持しながらやっていくのか、税源の削減だけでなく、増やすということも含めて考えていただきたい」と訴えた。
◎「風邪など軽医療を自分で治す気持ちが都民、国民には必要ではないか」
医療従事者側の痛みを伴う改革の必要性にも言及した。画一的な検査の繰り返しなど不要と思われる検査をなくすことや、経済的に負担できる人の湿布薬や保湿剤の処方を減らすこと、レセプト審査の適正化などをあげ、医療従事者の努力も必要との考えを示した。「かかりつけ薬局の体制で整備も進む中で、ヘルスリテラシーを身につけ、理解のもとに、OTC医薬品で活用できるところは、活用していくことも大事だと思っている」などと述べた。
尾﨑会長は、富山の薬売りに代表されように日本ではセルフケア、セルフメディケーションが行われてきた歴史があったと説明した。国民皆保険制度が浸透するなかで、「自分たちでセルフケアしなくても病気になってから医療機関に行けばいい、お医者さんにかかればいいという流れにいつの間にかなくなってしまった。しかし、日本の経済成長が止まり、財源が確保できなくなる中で、もう一度自分たちでできるところはした方がいい。私は国民皆保険制度の根幹を守るためにはそこが必要だろうと思っている。セルフケア、セルフメディケーションを一人ひとり皆さんがやっていくことが、皆保険制度を守ることにつながる」との考えを示した。
スウェーデンでは、風邪で医療機関を受診する人はおらず、「自分たちの国の医療制度を守るために、風邪など自分で治せるような軽い病気で、いちいち医療機関にかかって、医療費を使うのは、本当に必要な方の医療費が減ってしまうので、風邪のような病気ではいかないと迷いなく言う」と説明。「これからはそういう気持ちが都民、国民に私は必要ではないかと思っている」と述べた。
◎医療費削減分で「初・再診料、入院基本料引上げを」 本当に医療必要な人に手厚いサービスを
セルフメディケーションの推進により医療機関経営への影響についても言及。「削減された医療費で浮いた分で、診療所の初・再診料、病院であれば入院基本料をあげていただく。診療所でもその風邪などをたくさん見て忙しいということではなく、本当に医療が必要な方をじっくり診て、満足のいく医療を展開でき、なおかつそれなり、収入を得られるような仕組みに私は変えていきたい。都民、国民一人ひとりが体や健康をきづかい、私どもは本当に医療が必要な人を今よりも時間をかけて手厚く診たい」と熱く語った。
尾﨑会長は、「このままでは、必要な医療が受けられなくなる、介護が受けられなくなる事態が起きる可能性が非常に高いと私は思っている」と危機感を表明。「私たちも一生懸命頑張るが、政府の方、議員の方、そして都民、国民の方が、今後どうなっていくか考えていただき、一緒に財源、税金、保険料、自己負担を自分の問題として考えていただきたい。皆さん納得するような結論を時間がかかってもいいので政府にもお願いしたいと強く提案する。私たちもこれからどうなっていくか、医療界、介護界の中で考えていく」と強調した。