アインHD元常務らに逆転無罪判決 敷地内薬局巡る競売入札妨害罪 札幌高裁
公開日時 2025/01/29 04:51
KKR札幌医療センター(札幌市)の敷地内薬局の整備入札を巡って不正を行ったとして、公契約関係競売等妨害罪に問われたアインホールディングス(HD)元常務取締役の酒井雅人被告ら2人の控訴審判決で、札幌高裁は1月28日、懲役6月、執行猶予2年とした一審判決を破棄し、両被告に無罪を言い渡した。青沼潔裁判長は判決理由で、「刑法上の『公の入札』には該当しない」などと主張した被告側の主張を認め、両被告の行為は「罪とならないことは明らかである」と判断した。
一審判決では、酒井被告と子会社アインファーマシーズ元取締役の新山典義被告、センター元事務部長らが共謀して、2020年12月、センター敷地内の薬局を運営する事業者選定の公募で、アインHDに優先交渉権を得させようと考え、偽計を用いて公の入札の公正を害す行為をしたと認定。当初アイン側は月額450万円を支払うとした企画提案書を出していたが、提出期限後にセンター元事務部長が新山被告に他社の提案内容を漏らし、賃借料を増額した企画提案書の再提出を持ち掛けた。新山被告と酒井被告は新たに月額750万円、保証金5億2000万円を支払う企画提案書を再提出することを決めたとされる。
◎高裁判決 一審の事実認定は「相当」も 競争入札と認めるには「合理的な疑い」
高裁判決では、一審判決における事実認定を「相当」としたものの、今回の企画競争が刑法上の「入札」に該当するなどとした一審判断は「法令の解釈および適用を誤ったものであり、是認できない」と指摘した。その理由として、今回の企画競争では審査項目は示されていたものの、審査基準が明確ではなく、各項目の採点は審査員の大幅な裁量に委ねられていた点などを挙げ、「優劣の判定が事前に開示された合理性、明確性を備えた一定の基準に基づいて行われる『競争』には当たらない」とし、「競争入札の実質を具備すると認めるには合理的な疑いが残る」と断じた。
また、弁護側は酒井被告の故意及び共謀がない旨も主張していたが、高裁判決は前提となる法令適用に誤りがあるとしたため、酒井被告の故意及び共謀の有無については判断を示さなかった。
◎弁護団 被告側の主張認められ「大変いい判決だった」 長期勾留には苦言
判決公判後には被告側の弁護団が札幌市内で記者会見を開いた。酒井被告の主任弁護人を務めた弘中淳一郎弁護士は「実質的には全面的に主張を認めてもらえた。内容的には大変いい判決だった」と高裁判決を歓迎した。加えて、逮捕から保釈まで約60日間にわたった両被告の勾留に対しては「かなり無理がある強引なやり方だった。その点は非常に遺憾に思っている」と苦言を呈した。
一方で、高裁判決では、企画提案書の再提出を行ったアイン側の行為に対して「手続きの『公平を害すべき行為』であることは明らかである」との指摘が付け加えられていた。この点について、弘中弁護士は「公平性を害す危険性があったいう指摘であり、実際に(再提出が)どれだけ影響したかについては、裁判所は踏み込んで判断していないと捉えている」との見解を示した。
◎アインHD 無罪判決受けコメント ガバナンス強化など「社内施策の見直し進める」
高裁判決を受けて、アインHDは「関係者の皆さまへ多大なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを改めて心よりお詫び申し上げる」とのコメントを発表した。その上で、企業としての取り組みに触れ「二度とこのような事態を起こすことのないようガバナンス強化やコンプライアンス遵守の徹底など、社内施策の見直しを進めている」とした。