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製薬協・上野会長 解散直前の石破首相に「岸田前政権の路線継承」求める 中医協各側の理解醸成に意欲

公開日時 2024/10/09 05:00
日本製薬工業協会(製薬協)の上野裕明会長(田辺三菱製薬代表取締役)は10月8日の記者会見で、解散を直前に控えた石破政権に対し、「創薬力強化の流れを止めることなく、諸施策を着実に実行いただきたい」と求めた。岸田前政権の路線継承に期待感を示したものだが、石破首相は所信表明演説や衆参の代表質問の答弁でも創薬力強化に一切言及していない。業界の求める政策論には至らず、社会保障論議の先行きに不透明感が漂っている。また、中医協の診療・支払各側委員からは製薬業界の意見陳述に対して苦言が相次いでおり、2025年度薬価制度改革に向けて暗雲が立ち込めている。上野会長はこの日も、中医協の意見陳述同様のスタンスを貫き、一度の制度改革では「意識が少し変わった」と述べるにとどめ、さらなる改革の必要性を指摘した。ただ、「我々の示し方もあるし、理解をどう醸成していくかを少し考えていかないといけない」との姿勢も示した。

◎「新政権への期待」語る 衆院はきょう解散・総選挙へ

上野会長はこの日の会見で、「新政権への期待」と題したプレゼンテーションを披露した。岸田前政権時代に様々な検討会などを通じて医薬品の安定供給やドラッグ・ラグ/ロス、創薬力強化などの議論がなされたことに触れ、「日本の医薬品を取り巻く諸課題が国内外で広く認識されると同時に、その課題解決に向けて、まさに動き出した時」との見方を表明。「今般新たにスタートした石破新政権においても、この流れを止めることなく、施策を実行して着実に実行していただきたい。そういったことをまずは期待している」と述べた。

石破首相については「冒頭の会見で、岸田前政権の政策を基本的には受け継ぐということをおっしゃっている。国を守るという守りの姿勢が非常に強く感じられるということで、我々は期待している。医薬品、あるいは医療にかかわる産業政策にご理解を示していただけるのではないか」などと述べた。加藤財務相や福岡厚労相など閣僚についても触れ、「医薬品産業だけでなく、医療全体も非常に理解の深い方と思いますので、私どもが感じている課題についてもよくご理解いただいている。我々にとっては非常に前向きなメンバーではないか」などと語った。

なお、衆院はきょう9日にも解散し、27日投開票の選挙で新しい内閣を信任するか国民に問う方針。

◎基礎研究の振興と実用化研究可能に「AMED研究の運用見直しを」

上野会長は 岸田前首相が7月30日に首相官邸で開いた創薬エコシステムサミットで、日本を創薬の地とするために政府がコミットすることを宣言。製薬産業を基幹産業とするとしたことを引き合いに、「石破政権においてもぜひこの方針を継続し、実現に向けて進めていただきたい。実現に向けては、入口施策全体を俯瞰して総合的に推進することが重要である点をよくわきまえて推進していただければ」と要望した。特に、「全体像を俯瞰したときに本当に実効性のあるものになっているのか、また成果につながっているのかという点を考えると、まだまだ改善の余地がある」と指摘。25年度から新たな健康医療戦略がスタートする中で、「AMEDの事業強化を図るために、サイエンスベースでの柔軟な運用による“基礎研究”の振興と薬事承認を目指す“実用化研究”の両立が可能になるよう、AMED研究の運用を見直す必要があるのでないか」などと述べた。

◎問われる製薬業界のアクションも具体性欠く

上野会長が引き合いに出した、創薬エコシステムサミットで岸田首相が発した“日本を創薬の地に”という言葉は、「実際に患者さんの手に革新的な薬を届けることは、残念ながら政府の力だけではできない。主役は(創薬の担い手である)皆様方だ」と続いている。国が環境整備を進める中で、創薬力強化に向けて製薬業界の行動が問われている状況にある。しかし、この日の会長会見では、国への要望が中心で、製薬協の取組みは具体性を欠いた。

この点について記者に問われた上野会長は、「基本的に各社が取り組むべきことだが、製薬協としてイノベーションが生まれやすくなる環境をどう作るか貢献できるかだと思う」と述べた。そのうえで、AMED研究の見直しの必要性を改めて強調。「どうすれば実用化につながりやすくなるか、産業界の経験を踏まえ、もう少し中に入って人的な貢献としてどのようなことができるか、いま議論しているところ」と説明した。もう一点として、「国が主体となってやっていただけなければ実現できないようなデータベースなど基盤の整備や、臨床試験の設備がどうあるべきかなどの提言も私どもの役割だと考えている」と述べた。製薬協は来年初旬の公表を目指し、「政策提言2025」の取りまとめに向けた検討を進めており、この中で製薬協としてのアクションを示す考えも示した。

◎24年度薬価制度改革の影響「短期間で開発計画がすでに変更されたということは驚くべきこと」

2025年度薬価制度改革に向けた議論が進む中で、新薬創出等加算の見直しや迅速導入加算の導入などがなされた24年度薬価制度改革についても言及した。上野会長は、中医協でも報告した製薬協、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合(EFPIA)と3団体合同で実施したアンケート調査の結果を紹介した。調査対象は30社(内資系10社、外資系20社)で、調査期間は6月24日~7月8日まで。

その結果、2024年度薬価制度改革について、「支持する」、「おおむね支持する」と30社中28社が回答。意識変容がいかに行動変容につながったか尋ねたところ、日本の開発計画の変更が「ある」が8社、「現時点はないが、近い将来ある可能性」が16社となった。

上野会長は、「今回の薬価制度改革が薬剤費抑制に偏重した改革からイノベーション強化への転換点となり、日本市場の魅力向上につながったものではないか。意識が少し変わったということが確認された」と強調。「アンケートが6月から7月にかけて行われたことを考えれば、制度改革が発表された後、短期間で開発計画がすでに変更されたということは驚くべきこと。今回の制度改革のインパクトの高さを物語っていると感じている」と話した。

一方で、「日本市場のさらなる魅力向上」に向けて、「海外からの新薬イノベーション投資を呼び込み、日本発の新薬の研究対応を加速するためには、イノベーション評価の流れを止めずにさらに進めることがまず基本にある」と指摘した。新規モダリティなどに対応した新たな価値評価をする仕組みや特許期間中の薬価の予見性向上など、さらなる薬価制度改革の必要性を強調。一方で、「ブレーキとなる要素としては、中間年改定や費用対効果評価の拡大があげられる」などと述べた。中間年改定については、「24年度薬価制度によってイノベーション推進するという雰囲気の中で、中間年改定やることのネガティブなインパクトがどういうものか。基本的には中間年改定については反対の意向で考えている」と述べた。

◎24年度薬価改定 メガファーマトップは「異口同音に“これが第一歩だよ”と」 改革継続の必要性強調

しかし、2025年度薬価制度改革に向けた議論が進む中で、中医協では診療・支払各側から製薬業界の具体性を欠く陳述に対して指摘が集中。診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「2025年度薬価改定に向け、「残念ながら貴重な医療財源を投入して、薬価で評価しても効果が期待できないと判断せざるを得ない」と発言するなど、製薬業界の主張は理解されていない状況にある。製薬業界が要望する、さらなる制度改革についても、「薬価上の対応がどのような効果をもたらしたのかは少なくとも、業界企業の内部ではっきりわかる。具体的にこれまで何をして、今後何をするのか、もっと具体的に明らかにしない限り、議論は進まないことを再度強調させていただく」と釘を刺されており、議論の俎上にのぼる空気感は醸成されていない。

この点について記者に問われた上野会長は、「予算に基づき、開発計画は基本的に年度単位で立てる。期の半ばで開発計画を変更する意思決定がなされたことは相当インパクトがあるのではないか」と強調。「ただ、それをもう少しわかりやすい具体的な結果として、さらに見せることも必要だと思う。中医協委員の先生方に対する理解をもう少し進めることも考えていかなければならない。我々の示し方もあるし、理解をどう醸成していくかを少し考えていかないといけない」と述べた。

そのうえで、「ただ重要なのは、海外のメガファーマのトップと話す中で、今回の制度改革はポジティブに受け止めているが、ただ皆さん異口同音に“これが第一歩だよ”と言う。今後も続かないと、ということがある。一方で、中医協で不十分だということであれば、この2つの間でどうやって合わせていくか。お互い前を向き合っているのに、また背中同士を向けるようなことがあってはならない」と強調した。

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