HIV領域に特化したヴィーブヘルスケア日本法人の村木基代表取締役社長は９月10日の記者会見で、販売中の２カ月間隔投与の持効性注射療法（ボカブリア注＋リカムビス注）を超える長時間作用型抗HIV薬の開発に注力する考えを示した。HIV治療は、抗HIV薬の進歩によりウイルスをコントロールできるようになった。しかし、投与・服薬のたびに、HIV陽性者であることを周りに知られてしまう不安を感じたり、自身がHIV陽性者だと再認識する患者も少なくない。村木社長は、「患者さんがこのような精神的苦痛を負いながら服薬することは決して良い状態ではない」と指摘し、HIV患者のニーズに基づく新薬開発やHIVを取り巻く環境改善に取り組む構えをみせた。

村木氏は2023年５月に同社に入社し、同年６月１日付で社長に就任した。この日、社長就任後初の会見に臨み、「HIVとともに生きる人を誰ひとり置き去りにしないというミッションに日々取り組んでいる。HIV/エイズがなくなる日を目指すというパッションを持ち、日本で事業展開している」と抱負を述べた。国連合同エイズ計画（UNAIDS）が30年までにHIV流行を終結させる目標を掲げていることを引き合いに、「UNAIDSの目標達成に寄与する」とも語った。

◎「抗HIV治療は大きく進歩したが、一生涯続く治療に伴う課題がある」

村木社長は、日本のHIV治療の現状について、「抗HIV治療は大きく進歩したが、一生涯続く治療に伴う課題がある。アンメットニーズがある」と述べ、一例として、HIV患者には服薬に伴う様々な精神的苦痛があることを挙げた。同社社員はHIV患者が抱える苦痛などを理解し、その環境改善に取り組むことに強くコミットしていると言い、「患者や医療従事者のニーズに対応した、長時間作用型の新規作用機序の新薬開発に取り組む。これは優先事項」だと強調した。更なる投与間隔の延長が実現した先に「治癒」があるとも述べた。

この日の会見では７つのグローバルのパイプラインが示された。それは第３世代インテグラーゼ阻害薬として開発中の▽VH-184（開発ステージ：P2a）、▽CAB-ULA（P1）、▽VH-310（Pre-Clinical）――の３つのほか、中和抗体のVH-109（P2b）及びVH-079（Pre-Clinical）、カプシド阻害薬・VH-499（P2a）、マチュレーション阻害薬・VH-937（P2a）――となる。

このうちどれが長時間作用型の開発品なのかも気になるところ。この点について同社広報担当者は本誌に、「多くは長時間作用する薬剤として開発を進めている。３つのインテグラーゼ阻害剤は治療のコアとして、またそれ以外の作用機序の薬剤はそのパートナーとして開発中」と説明した。日本でも開発するかに関しては、「各薬剤の効果・安全性の評価と共に市場ニーズも踏まえて議論していく段階」と答えた。

◎HIV検査機会の創出に意欲　「検査しないといけない風潮やマインドを作っていく」

村木社長は、30年のHIV/エイズの流行終結を見据えたHIV検査機会の創出にも意欲を示し、「当社だけでなく、産官学で連携して検査機会を創出したい」と述べた。長年にわたり新宿二丁目で展開しているHIVの検査や治療を啓発する広告掲示を今後も続ける考えで、「検査しないといけないという風潮なマインドを作っていくことが非常に重要」だとの認識を示した。

このほか、患者や医療従事者の多様なニーズに対し、適切な情報チャネルで迅速かつ効率的に情報提供できるスキルを磨いていくほか、現在展開しているLINEアプリの機能を拡充して患者と医療従事者とのコミュニケーションをサポートできるようにする計画も披露した。

◎ドウベイド配合錠は約20％増収　ボカブリア注＋リカムビス注は約50％増収

英国に本社を構えるヴィーブは、英グラクソ・スミスクライン（GSK）と米ファイザーによって09年11月に設立された100％HIV領域に特化した“グローバルスペシャリストカンパニー”。12年10月には塩野義製薬が資本参加し、出資比率はGSKが78％、ファイザーが12％、塩野義製薬が10％となっている。

日本法人の従業員数は現在約50人。23年の国内業績は非開示だが、村木社長は、主力の１日１回１錠服薬する２剤レジメン療法・ドウベイト配合錠の国内売上は前年比約20％増、年６回投与の持効性注射療法のボカブリア注＋リカムビス注は同約50％増だったことを明らかにした。