PwC「24年世界のM&A動向」 GLP-1受動体作動薬に注目 経口剤開発できるバイオ企業がターゲットに
公開日時 2024/05/30 04:51
PwCの調査レポート「2024年 ヘルスケア業界における世界のM&A動向」によると、パテントクリフに直面する大手製薬企業が、「パイプラインのギャップを埋めるために中堅バイオテクノロジー企業への投資検討を続ける」と予想している。また、糖尿病対策や減量促進で使用されるGLP-1受動体作動薬への投資家の関心が高いとして、M&A活動を促進させる可能性を示唆。GLP-1受動体作動薬は注射薬が多いため、経口投与を実証できるバイオテクノロジー企業が24年のM&Aターゲットとして大いに注目される可能性があると論じた。
調査レポートによると、ヘルスケア業界(グローバル)のM&Aは、2022年から23年の1年間でディール件数は8%減少、ディール金額は9%増加した。これに対し医薬・ライフサイエンスセクターは、ディール件数が2%増加、ディール金額も22%増加するなど、異なるトレンドを示している。医薬・ライフサイエンスセクターで増加傾向を示す背景について同レポートは、「22年から23年にかけて50億米ドルを超えるメガディールの発表件数が6件から11件に増加したため」と解説した。
◎GLP-1受動体作動薬 潜在的な売上高は1000億米ドル以上と予想するアナリストも
24年のM&A動向については、GLP-1受動体作動薬に投資家の視線が注がれていると予想。投資家やアナリストは、「この医薬品の市場ポテンシャルは大きいと見ている」とし、潜在的な売上高は1000億米ドル以上と予想するアナリストもいると紹介した。さらに同薬剤に対する需要が見込まれることで、「すでにGLP-1受動体作動薬を上市するノボノルディスクやイーライリリーなどの企業は、増収と株価上昇の双方の影響が見られる」とした。
◎メドテック企業が事業再編に向けてM&A検討する可能性がある
一方、GLP-1受動体作動薬は注射薬であることが多いため、経口投与製剤を開発するバイオテクノロジー企業について、「M&Aのターゲットとして大いに注目される可能性がある」と指摘。ロシュ社によるCarmot Therapeutics社の買収提案や、アストラゼネカによるEccogene社との独占ライセンス契約を事例として紹介しながら、「大手製薬企業が経口GLP-1受動体作動薬の開発に投資する例はすでに見られる」と強調した。
さらに、もう一つの見方として、「GLP-1受動体作動薬の有効性と予想される広範な需要により、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、心血管疾患などの治療にかかわる製品やサービスの需要減少に対する投資家の懸念も広がっている」と紹介。GLP-1受動体作動薬がリスクとなるメドテック企業の株価が、ここ数カ月でマイナスの影響を受けていると指摘、「この新薬によるディスラプションの対象となるメドテック企業が事業再編に向けてM&Aを検討する可能性が生じている」との見解を示している。
◎メルクと第一三共による220億米ドルの提携「このようなディールモデルが一般的になる」
このほか、ビジネストランスフォーメーションの目標を達成するために、「大規模企業の買収に代わる選択肢として、パートナーシップやジョイントベンチャーの活用を模索する傾向が強まる」と予想した。一例として、メルクが発表した第一三共との220億米ドルの提携をあげ、「製薬業界ではこのようなディールモデルがますます一般的になっている」と強調。ヘルスケアセクターにおいては、プライベート・エクイティ(PE)グループと病院や医療システム、非営利組織とのジョイントベンチャーが増加しているとも指摘している。
◎米インフレ抑制法案の影響 中堅バイオ企業への資本振り向けでギャップ解消も
また、米国のインフレ抑制法(2022年)により、医薬品の独占期間が短縮され、研究開発に対する全体的なリターンが減少し、低分子医薬品に不利な影響が及んでいると指摘。「企業は研究開発パイプラインとM&Aターゲットを再評価し、それに応じてバランスを調整する必要がある」と強調。製薬企業は自社のR&D活動に加え、中堅バイオテクノロジー企業に資本を振り向けることで、医薬品パイプラインのギャップを解消しようとすると分析。金利上昇や投資リターンが求められる中で、「売り手には自社の価値を裏付ける優れたデータによる武装が求められる」とも指摘している。