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【24年度薬価改定が放つメッセージPart1】厚労省・安川薬剤管理官 開発動向などの行動変容「説明責任を求められるという意味で大きな課題を持っている」

公開日時 2024/01/26 05:20
「製薬業界が今回の薬価制度改革の結果に対する意思表示を国民、中医協委員に対して納得感のあるものとして、何が出せるのか主体的にしっかり考えることが業界としての責任だ」―。厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官はこう話す。2024年度薬価制度改革では、新薬創出等加算の見直しや迅速導入加算の新設など、業界要望を踏まえた項目が並んだ。一方で、中医協の場では「検証」という大きな課題を突き付けられている。本連載では、製薬業界に大きな命題を突き付けた24年度薬価制度改革の放つメッセージを安川薬剤管理官に聞いた。(望月 英梨)

安川薬剤管理官のインタビューは、Part1新薬編(1月26日)、Part2後発品編(1月29日予定)、Part3流通・薬価差編(1月30日予定)で掲載の予定です。一問一答は、Monthlyミクス2月号(2月1日発行予定)に掲載しております。

「薬価改定の影響に関しては、今後の薬価制度改革における議論において必要なこと。ドラッグ・ラグ/ロスの解消等の医薬品開発にどのような影響、特に効果が出ているかしっかり検証していただく必要がある」(診療側・長島公之委員、日本医師会常任理事)、「正直申し上げると、イノベーションの推進につながるのか依然として不安がある。企業指標に反映されない開発方針の変化等を早急に調査いただき、中医協の議論に活用できるよう、業界と事務局に強く要望する」(支払側・松本真人委員、健康保険組合連合会理事)-。中医協の場では業界ヒアリングに対し、診療・支払各側から制度改革による効果の「検証」を求める声が数多くあがった。

◎中医協で簡単に了承されず「事務局として重く受け止める。業界にも同様に受け止めてほしい」

安川薬剤管理官は、「当初の業界ヒアリングの中では、中医協委員から見たときに十分納得いく説明ができていなかったという印象を持っている。最終的に中医協で了承いただけたのは、ドラッグ・ラグ/ロスが指摘されている中で、日本市場に目を向けてもらい、早く開発してほしいという願いが、1号側(支払側)、2号側(診療側)ともにあったがゆえと認識している」と表明。「中医協で簡単に了承されたものではないということは、事務局としても重く受け止めなければならない。それは、製薬業界にも同様に受け止めてほしい」と強調した。

そのうえで、「今後、製薬企業が日本市場に目を向けた開発動向とするなど、どのような行動変容があったか、創薬の開発につながったか、説明責任を求められているという意味で大きな課題を持っていると思う」と表明。「薬価制度改革自体は業界の要望を踏まえ、様々な課題を解決できる方向性を見せてはいるが、制度改革が正しかった、適切だったということに対し、次期改定以降でしっかり説明責任を果たしていかなければ、中医協委員から納得されないのではないか」と指摘した。業界の要望する新薬創出等加算の見直しがなされたことを踏まえ、「結果的に新薬が増えるのか。各企業の動きが変わったということを示せないと、何のために保険財政を使って薬価上の措置を行ったのか、納得感が得られない」と強調した。

◎国民の納得感ある「主体的な意思表示」が業界の責任 果たせなければさらなる改革は厳しく

製薬企業の“説明責任”とは何か。中医協では、業界代表の藤原尚也専門委員(中外製薬参与渉外調査担当)が、「承認や収載など、形として現れるには開発の期間10年ぐらいかかる」と発言したことが波紋を呼び、診療・支払各側から薬価上の措置を行うことに対する、冒頭の“不安”の声にもつながった。

安川薬剤管理官は、「上市までであればそういう説明になるものの、その説明だけでは薬価で措置することに理解は得られない。臨床試験の数や各社ごとの開発の考え方など、短期的に出せる情報を業界として示すべきである」と断言。「まずは製薬業界が今回の制度改革の結果に対する意思表示を国民、中医協委員に対して納得感のあるものとして、何が出せるのか主体的にしっかり考えることが業界としての責任だと思っている」と強調した。

製薬業界がさらなる薬価制度の見直しを主張していることにも触れ、「(今回の薬価制度に対する製薬業界の果たすべき説明責任に対して)納得感が得られなければ、さらなる薬価制度の見直しに結び付きにくいのではないか」と述べ、まずは検証を最優先にすべきと釘を刺した。

◎シンプルで海外に伝わりやすい制度に 世界同時開発増加にも期待感

今回の薬価制度改革では、新薬については新薬創出等加算の見直し、迅速導入加算の新設などが行われた。安川薬剤管理官は、「特許期間中であれば薬価を維持し、世界同時開発であれば加算が付くというシンプルな制度設計に見直した」と説明する。

背景には、創薬の担い手として海外のバイオベンチャーが主流となっており、日本市場に足場のない企業が増えていることがある。日本市場に参入しない理由として、薬価制度や薬事制度のわかりづらさが指摘される中で、「薬価については“良いモノであれば価格が維持する”というシンプルな制度とすることで海外のバイオベンチャーにも日本がイノベーションに注力しているというメッセージが伝わりやすくなる」と新薬創出等加算の見直しに至った理由を説明した。

迅速導入加算を新設した理由については、「重要なのは、世界と同時に開発する候補に日本が入るかどうかだ。収載時の薬価を理由に、日本での開発の優先度が低くなるのであれば対応が必要ということ」で新設を決めたと説明。「加算があることで、世界同時開発の後押しになるのであれば、加算の意義が大いにあると思う」と述べた。一方で、「それがどの程度経営判断に影響を及ぼすのか。制度改革のメッセージを企業がどう受け止め、行動変容するかは検証材料だと思う。加算があっても経営判断に影響がないようであれば、別の手立てを考える必要があるという話になる」と述べた。

日本市場の魅力については、「日本の市場規模が縮小傾向とはいえ、国民皆保険下で一定の売上が見込め、承認されれば原則60日以内に収載される。それを含めて、海外のバイオベンチャーに日本の魅力をどう伝えるかが重要だ」との見解を示した。

◎新薬創出等加算 5年間新薬のない企業は加算なし「創薬を意識する企業であれば厳しいと感じないはず」

今回の新薬創出等加算の見直しなどを通じ、日本企業などの構造転換につながることも期待されるところだ。新薬創出等加算ではこれまでの企業指標を「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象企業の確認事項」に位置付けている。安川薬剤管理官は、「新薬創出等加算が導入された当初の、加算額を次の投資につなげるという制度趣旨に立ち返ると、5年間新薬を生み出せない企業に対して加算する意味はないということだ。本来の新薬メーカーのあり方に対するメッセージはまさにそこにあると思っている」と強調した。

中医協で新薬創出等加算の見直しを議論する際、最初は企業要件の廃止が俎上に上ったが、診療・支払各側から強い懸念が示され、最終的には業界提案も踏まえて見直しの形につながった。

安川薬事管理官は、「今回の見直しで制度趣旨は変えていない。次の開発につなげるための原資という意味では、1品目に頼り続けるような企業にとっては厳しいだろう。ただ、そのような企業を守ろうとすると制度趣旨が変わってしまい、新薬メーカー全体が加算維持の恩恵を受けられなくなるので今回のような改正となった」と述べた。そのうえで、「定期的に国内開発をしっかり進め、適正な流通を維持している企業にとっては何ら問題のないよう、シンプルな価格維持ができる制度になっている。創薬を意識している企業であれば、この要件は厳しいと感じないはずだ」と述べた。

なお、現在改定に向けてパブリックコメント中の流通改善ガイドラインでも、新薬創出等加算について、「これまでも単品単価交渉を行ってきた」として、「引き続き単品単価交渉を行うものとし、流通改善が後戻りすることのないよう注意する」ことが明記されている。
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