日米欧製薬3団体は12月6日、中医協薬価専門部会の業界ヒアリングに臨み、新薬創出等加算について、加算対象を新薬の開発企業に絞ることを提案した。現行の企業指標は撤廃するものの、新薬の開発への取り組みを確認することに厚労省が用いることも提案した。診療。支払各側ともに、容認する姿勢を見せた。ただ、製薬業界側の提案は依然として具体性を欠き、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)が「脅し文句のようなことを言うのではなく、業界として具体的かつ前向きなメッセージをぜひ出していただくことが重要だ」と企業の姿勢に苦言を呈す場面もあった。平均乖離率超の品目について減算にとどめることを製薬業界側は求めたが、診療・支払各側から「対象から除外すべき」との声があがり、理解は得られなかった。
◎新薬創出等加算 「シンプルな薬価維持は海外からも非常に分かりやすいメッセージ」
日本製薬団体連合会の岡田安史会長は、新薬創出等加算の企業要件について、「近年、革新的医薬品の開発はベンチャーが中心で、企業規模には必ずしもよらない状況を踏まえれば、企業指標をもって加算額を減額する取り扱いは撤廃すべき」と主張した。一方で、「新薬創出等加算は新薬の開発を行っている企業の品目だけを対象とし、そうでない企業の品目は対象外とすべき」と述べた。具体的には、現行の企業指標における項目を引き続き活用し、研究開発活動の有無の判断に活用することを提案した。
加算取得の対象となる企業数について、厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「一般論」と断ったうえで、多くの企業がポイントを取得していることから、「通常の創薬関係を担う企業であれば、サイクルはきちんと回っていくと思っている」と述べた。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「新薬の研究開発を行っている企業の判断として、企業指標を活用することが提案されており、本制度の趣旨が継続されている対応と考えられる」と容認したうえで、「我が国での開発品目が増えていることが、どれくらいの期間を見ていけば判断できるのか」と質した。
日薬連の岡田会長は、「企業指標に基づいて加算額を減額するという仕組みを廃止することで、現行の新薬創出等加算の制度はシンプルに革新的な医薬品の薬価を維持する仕組みになると思う。シンプルに薬価を維持することは極めて重要で、海外から非常に理解しやすく、日本がイノベーション評価について再びポジティブに方向転換を行ったということを明確に示すものだ。これにより、日本市場の魅力度は向上してドラッグ・ラグ/ロスの解消につながることや、ベンチャー企業も含めて新薬の開発向上意欲につながると確信している」と述べた。開発への影響については、「短期間の1年で効果が見えてくるものもあれば、各企業へ開発計画や投資の優先順位にどのような変化があったかということを確認することができると思っている。3~5年となれば国際共同治験の状況も含めて効果の確認が有効ではないかというふうに思っている」と述べた。
◎「“脅し文句”ではなく、具体的なメッセージ発信求める」も製薬業界は反発
診療側の長島委員は、「イノベーションや安定供給に対する薬価上の対応については、いわゆる“脅し文句”のようなことをおっしゃるのではなく、業界としてこう対応すれば具体的にこのような改善が見られるとか、自分たちでこのように改善するかとか、具体的かつ前向きなメッセージをぜひ出していただくことが重要かと思う」と指摘。「仮に薬価上の対応がされた場合には、積極的に、また明確に、また具体的迅速にこういう修正・改善がなされたということを逐次報告していただくということが極めて重要かと思う」との見解を表明した。
これに対し、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の岩屋孝彦会長は、「我々は別に脅しに来たわけではない」と反発。2018年度の薬価制度改革以降、企業の行動に影響が出たとの認識を示したうえで、「我々としてできることをすぐやる。それについては間違いないが、投資が実際に現場レベルで確認できるまでには、今までの投資に対する失われた期間が長期的であったのと同様に、ある程度の期間を持って見ていただくということがどうしても必要ではないか」と述べるにとどまり、具体的な発言はなかった。
診療側の長島委員は、「例えば開発方向の変更などは極めて重大な意思決定だと思う。当然個々についはかなり長期間かかることは十分理解できる」と理解を示したうえで、「あまり長期間ということであれば、薬価上の対応による効果をどう判断すればいいか、大変困る。一つは、事前に具体的にこういうふうに前向きにしっかりと改善します、と具体例などをしっかりと示していただきたい。あるいは、実際に逐次その場その場で新しくこのように方向が変わったとか、改善したところを示していただかないと、もういつまでたっても効果がわからないということでは困る」と述べた。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「ドラッグ・ラグ/ロスは保険者として重要な問題だと認識している。新薬創出等加算の企業指標に基づく加算額の調整を撤廃した場合に、本当に研究開発が促されるのか。確実に目に見える形で新薬の早期導入に繋がるのかについて決意表明をいただいているので、その通りにぜひ推進していただきたい」と釘を刺した。
◎平均乖離率超の品目 「医療現場では評価されていない」と除外の声
平均乖離率超の品目については別評価とすることが検討されているが、製薬業界は「革新性新規性が高いと判断された品目であることを踏まえ、加算の対象外とすることではなくて、加算額を減算するという形でぜひご対応をいただきたい」と要望した。
診療側の長島委員は、「新薬創出等加算について、平均乖離率を超えた品目については、市場での評価が反映されています。こういった品目は本来、対象から除外することが適当」と述べたうえで、企業側の見解を質した。
製薬協の上野会長は、「乖離率が平均乖離率を超える品目であっても、革新性、新規性が高く、品目要件に該当していることから一定の評価が必要ではないか。市場実勢価格の形成には、メーカーの仕切り価格の設定以外に取引量や個別の取引条件などにより変化するものもあり、メーカーではコントロールできないものもある。新薬創出等加算の対象外だけでなく、加算額の減額ということによって対応を検討いただけないか」と理解を求めた。
支払側の松本委員も、「平均乖離率を超えたということは大幅値引きをしている。医療現場では評価されていないと我々は、捉えている。当然加算の対象からは除外されるものとご理解いただきたい」と押し戻した。
◎迅速導入加算 希少疾患以外も対象にと要望
日本への早期導入を評価する点数として新設が検討される「迅速導入加算」について、製薬業界側は対象範囲の拡大を求めた。診療側の長島委員は、「医療上の必要性が高く、革新的な医薬品であれば薬事上の優先審査品目に指定されるはずだ。薬事上の取り扱いに準じながら検討していくことが必要」と指摘した。
製薬協の上野会長は、「優先審査品目は主に希少疾患用医薬品と先駆的医薬品が該当している。しかし、ドラッグ・ラグ/ロス品は必ずしもそれらに該当するものだけではなく、迅速導入加算をより効果的な制度にするためにも、新規作用機序や疾患への初めての適用薬なども含めて評価していただきたい」と訴えた。
◎診療側・長島委員「薬価収載後の価格調整ルールや、後発品の置き換えも適切に機能を」
薬価上でのイノベーション評価が盛り込まれる方向性となる中で、診療・支払各側から保険財政との両立の重要性を指摘する声があがった。
診療側の長島委員は、「様々なイノベーション評価を行う内容が示されており、日本での開発をしっかり進めていただきたい。一方で、我が国は国民皆保険制度の下、薬事承認された範囲のものが全て保険適用されることが基本となっており、薬剤費が増え続けていくことによる影響も考慮すべきだ。薬価収載後の価格調整ルールや、後発品の置き換えも適切に機能させていく必要があると考える」と述べた。支払側の松本委員も、「革新的な新薬を日本に迅速に導入し、保険給付するためには、当然財源が必要となる。保険者としては、厳しい医療保険財政を考えると、公的医療保険で全ての医薬品をカバーすることには限界があると言わざるを得ない。それについても十分ご留意いただきたい」と述べた。
日薬連の岡田会長は、「一言でいうと、我々も貴重な薬価財源のメリハリが重要だというふうに思っている。単に新薬と長期収載品との関係でのメリハリだけでなく、新薬あるいは後発品の中でもあると考える。例えば、新薬でも革新性や有用性の変化に応じて価格を見直していくべきだ」などと述べた。