厚生労働省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は12月27日の中医協総会で、“過度な薬価差”が課題として指摘される中で、20店舗以上のチェーン薬局で薬価差が大きいことに振れながら、「敷地内薬局の実態も含めながら整理すべき課題ではないか」との見解を示した。敷地内薬局をめぐっては、医療経済実態調査の結果から、「医薬品費等」が突出して高いにもかかわらず、利益率が高いことが指摘されている。このほか、敷地内薬局をめぐり、医療機関側の評価も「院内処方と同程度まで引き下げるべき」との声が診療・支払各側からあがった。
◎「敷地内薬局の薬価差」分析求める声あがる 流通では“過度な薬価差”是正は検討事項
厚労省は中医協に、敷地内薬局の点数である特別調剤基本料を算定する薬局では、医療経済実態調査の費用別では「医薬品等費」の額が他と比較して突出して高いとのデータを提示。調剤医療費では、薬剤料の処方箋受付1回あたりの費用及び割合が他と比較して高いとした。診療・支払各側から、「敷地内薬局の薬価差」について、詳細な分析を求める声があがった。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会などで“過度な薬価差”が指摘されていることに触れ、「敷地内薬局の医薬品購入の状況も今後分析する必要があると考える」と述べた。さらに、流通改善をあわせて進める必要性を指摘し、「流通改善ガイドラインの改訂が今後予定されているので、それに合わせた対応も必要と考える」と述べた。
なお、今年度中に改訂を予定する流通改善ガイドラインでは、「取引条件等を考慮せずにベンチマークを用いての一方的な値引き交渉や取引品目等の相違を無視して同一の総値引率を用いた交渉、同一の納入単価での取引を各卸売業者に求める交渉などは厳に慎むこと」としたうえで、「価格交渉を代行する者に価格交渉を依頼するに当たっては、価格交渉を代行する者がこうした交渉を行うことがないよう流通改善ガイドラインを遵守するように注意すること」などが明記される方針。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「医療経済実態調査の結果からも、敷地内薬局は医薬品費と土地建物賃借料が突出して高いにもかかわらず、21年から22年にかけては利益率が増加している」と指摘し、状況を事務局に質した。
安川薬剤管理官は、流改懇の24年以降の継続議論すべき事項として、「購入主体別やカテゴリー別の取引価格の状況や過度な値引き要求等の詳細を調査した上で、海外でクローバックや公定マージンが導入されていることも踏まえ、流通の改善など、過度な薬価差の偏在の是正策」が盛り込まれていることに触れた。
そのうえで、「元々販売先のカテゴリー別のデータで20店舗以上のチェーン薬局のカテゴリーの薬価差額が、他の薬局や医療機関のカテゴリーと比較して大きくなっていることが指摘されている。実際には、個々の薬局や医療機関の購入希望、開設者やグループによって、薬価差の状況が異なると思う。今後、把握可能なデータ次第だが、敷地内薬局の実態も含めながら整理すべき課題ではないかと考えている」と話した。
支払側の松本委員は、「敷地内薬局の検討においては、薬価差に関する分析も必要だと考えた。流通ガイドラインの内容を徹底されるよう、診療報酬においても改定の考え方が反映されるよう、適切に対応をお願いしたい」と述べた。
◎集中率8割超の敷地内薬局9割 「院内処方」と同程度までの引下げ 声診療・支払各側からあがる
厚労省は、敷地内薬局をめぐる医療機関と薬局の独立性に問題意識を表明。特別調剤基本料を算定する薬局のうち、受付処方箋に占める特別の関係にある医療機関からの割合が8割を超える薬局は90.2%あるとのデータを示し、「敷地内薬局を有する医療機関の処方に関する評価のあり方」を論点にあげた。診療・支払各側から、敷地内薬局で調剤した場合、院内処方と同等まで、医療機関側の診療報酬上の評価を引き下げるべきとの声が飛んだ。
なお、医療機関側の請求点数は、院内調剤では127点(外来診療料:74点、処方料:42点、調剤料:11点)、敷地内薬局での調剤の場合では142点(外来診療料:74点、処方箋料:68点、※内服薬1剤7日分処方の場合)と開きがある。
◎診療側・森委員 医療機関、薬局双方に「これまでと異なる強い対応を」 療担規則の運用見直しも
診療側の森委員は、特別調剤基本料の引下げ後も敷地内薬局の誘致や開設が止まらないとして、「薬局はもちろん、誘致する医療機関側にも問題があり、公募の際、薬局運営とは関係のない病院のアメニティ施設や診療棟などの建設の整備などを条件としている事例が散見されている」と指摘。「誘致する医療機関側、応募する薬局側の双方において、これ以上敷地内薬局が出てこないよう、これまでとは異なる強い対応が必要だ」と主張した。
このほか、「健康保険法や医療機関と薬局双方の療養担当規則や、その運用の見直しも不可欠ではないか」と主張。医療機関と薬局の独立性を確認し、不適切な場合は開局を許可しないなどの対応を求めた。「すでに開局している敷地内薬局についても同様であり、指定の更新時にこれらを確認し、不適切な事案については取り消しを含めて厳正な対応ができるよう、根拠となる関係省令や文書の整備を進めることをお願いする」と述べた。
森委員は、「敷地内薬局については、今回の改定において、広い観点で厳正に対応すべきで、それ以降も継続して検討課題にすべき。場合によっては、関係者、関係団体を中医協の場に呼んで意見を聞く機会も必要かもしれない」と述べた。
◎支払側・松本委員「処方箋料、処方料と同程度まで減額を」 薬局と医療機関は一体
支払側の松本委員も、「敷地内に薬局を有する医療機関については、実質的に院内処方と同様に取り扱うべき」と指摘。敷地内薬局では処方箋集中率の高い薬局が多いことを引き合いに、「薬局の独自性という観点で問題だが、裏を返せば薬局と医療機関の一体性が示されている」として、「医療機関としては院内処方に近い実態にありますので、処方箋料を処方料と同程度の水準まで減額することが考えられる」と述べた。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「敷地内薬局については、特別調剤基本料による対応にも限界があることや、患者の受け止めを踏まえれば、グループ薬局全体として調剤基本料引き下げることは無論、敷地内薬局を有する医療機関の処方を院内処方と同程度の評価とする方向で検討していただきたい」と述べた。
◎診療側・太田委員 病院団体の中では「様々な議論」 国に敷地内薬局の位置づけ明確化求める
支払側の松本委員は、「医療機関が薬局を誘致する背景を踏まえ、26年度改定に向けて少し根本的な議論をした方がよい」と提案した。
診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、論点の言及を避けたうえで、「正直私ども病院団体の中でも様々議論が現実にある。いま現在認められている制度の中でいろいろと医療機関として厳しい経営環境の中、対応してきたというような形で主張される先生方も現実にいらっしゃる」と説明。「診療報酬の支払制度を検討する場ではなく、厚生労働省として、国として敷地内薬局というものはどういうような形で位置づけるものなのかをしっかりと検討していただいて、我々の診療報酬は、その大きな医療政策の方向にベクトルを合わせて制度を整備していくものだというふうに思っている」と述べた。
厚労省の安川薬剤管理官は、「薬機法などの衛生規制というよりは、医療保険制度における医療機関と薬局の独立性のところが重要になってくると思うので、基本的には保険制度の中で薬局のあり方を整理していくべき」との考えを表明。「実態分析も医薬局で行っていると認識しておりますので、そういった情報も含めながら何ができるかを考えたい。引き続き検討すべきものなのかなと思っているところだ」と述べた。