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愛知県がんセンター がん領域で国内初のプラグマティック試験を開始 実臨床で活用できるエビデンス構築

公開日時 2023/12/26 06:00
愛知県がんセンターは12月25日、大腸がんを対象に、がん領域で国内初のプラグマティック(実用的)臨床試験を開始すると発表した。プラグマティック臨床試験とは、治療選択の意思決定のために日常臨床にできるだけ近い条件で行う試験のこと。研究代表者を務める愛知県がんセンター薬物療法部谷口浩也医長は本誌取材に応じ、がん領域では副作用などで臨床試験の結果をそのまま実臨床に当てはめられないケースがあるとして、「得られた結果がそのまま実地診療に活かせる」とのメリットを強調。低コストで単施設での運営を実施することにも触れ、医師自身が実臨床で抱くクリニカルクエスチョンに答える、“効率的な新たな手法”として選択肢の一つとして確立することの意義も強調した。

プラグマティック臨床試験は、参加基準や治療・検査に対する規定など、患者や参加する医療機関、医師にとっての障壁を最小限に抑え、より実際の医療現場に近い条件で実施する臨床試験のこと。参加医療機関からの情報収集も簡素化し、臨床試験にかかわる人的・金銭的負担や、試験に参加する医療機関、担当医の負担を軽減する。試験のスピードアップや開発費の削減も視野に入れる。米国では、がん臨床研究グループSWOGが転移のある非小細胞肺がん(ステージ4)を対象にプラグマティック臨床試験を臨床第3相試験として、実施。転移のあるNSCLC患者では多いものの通常の臨床試験では参加できないパフォーマンス ステータス(PS)が低い人も試験には含まれているのも特徴となっている。

◎PRABITAS試験 切除不能大腸がんへのFTD/TPI+BEV 隔週法の従来法への非劣性検証

谷口医長らの研究グループが、前治療歴のある切除不能大腸がん患者を対象とした、トリフルリジン・チピラシル+ベバシズマブ併用療法の従来法と隔週法を比較する多施設共同の臨床第3相試験(PRABITAS試験)。特定臨床研究として実施する。

切除不能大腸がんをめぐっては、トリフルリジン(FTD)・チピラシル(TPI)+ベバシズマブ(BEV)併用療法は1日2回5日間の内服と2日間の休薬を2回繰り返し、その後2週間休薬する28日サイクル(従来法)が標準療法となっている。ただ、実臨床では、白血球減少や好中球減少などの副作用が課題となっており、副作用軽減のために、5日間の内服後に9日間休薬する14日サイクルの隔週法が行われている。ただ、隔週投与法は、小規模な臨床試験で結果が示唆されるにとどまっており、有効性のエビデンスが十分確立しているとは言えない。このため、新たなエビデンス構築が待たれている状況にある。

◎全国250施設、890例 国内最大規模の臨床試験を一般診療に近い環境で実施

試験では、切除不能大腸がん患者890例を、FTD/TPI+BEVの後方治療としての従来法と隔週法にランダムに割り付け、有効性と安全性を検証する。主要評価項目には全生存期間(OS)を据え、非劣性を検証する。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、奏効割合(RR)、病勢制御割合(DCR)、治療成功期間(TTF)、有害事象発生割合。

プラグマティック臨床試験のコンセプトを踏まえ、一般診療に近い環境で実施するため、全国のがん診療連携拠点病院など国内250施設が参画。予定登録期間は1年間、追跡期間は1年間を予定する。国内の切除不能大腸がんの臨床第3相試験としては最大規模の臨床試験となる。

◎患者選択/除外基準は半数以下に 開始基準や減量基準など設けず臨床現場の負担軽減

試験では、割付はランダムに行われるが、その後の実際の治療や検査は日常診療と同様に行われる。患者選択/除外基準は13項目と半数以下に緩和。通常の臨床試験では設定される「コース開始基準」、「治療休止/減量基準」、「画像評価間隔」などは設定せず、診療に応じた介入を行う。症例報告書(CRF)の入力項目数も簡素化される。

研究代表者を務める谷口医師は、「試験により、隔週法の有効性と安全性が明らかになれば、副作用が少なく簡便な新たな標準治療を提供できる。ネガティブであれば、一般的に行われている治療に対して警鐘を鳴らすこともできる」と試験の意義を強調した。

プラグマティック臨床試験を取り入れた理由については、「がん領域の実臨床では、副作用の多さなどから臨床試験で得られた知見が、一般臨床にそのまま当てはまらないことも多い。医療者が患者さんのためにやるべき試験を行う方法を提案したかった」と説明。実臨床下で臨床医が直面する悩みを解決するテーマ設定であるため、多くの施設の参加を得られたとして、「内容が良かったことに尽きるのではないか。患者選択や除外基準がなく、逸脱もないので、手間も少ない。試験を通じた収集項目もできるだけ絞り、必要最低限の情報にした」として、臨床現場の負担感の少なさも強調した。

臨床研究法が施行され、特定臨床研究が位置づけられる中で研究数の減少も懸念される。開発後期は国からの公的資金の優先度が小さくなる中で、患者や医療者、医療機関の負担を軽減する、”効率的で新たな臨床研究”の手法で実例を創ることで、日本の治療開発の活性化につながることにも期待感を示した。


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