国がん中央病院 情報共有で適格性確認など「治験DX」で実証研究開始 治験の組入れ迅速化図る
公開日時 2025/03/04 04:50

国立がん研究センター中央病院は3月3日、オンラインコミュニケーションツールを利用した臨床試験(治験)に関する事前相談システムの実証化研究を開始すると発表した。関東周辺の医療機関などと連携するシステムの活用により、患者が来院せずに適格性の確認を行うなど、DXを活用することで、治験の患者組入れの迅速化につなげたい考え。患者が治験に参画する機会が拡大することにも期待を寄せる。ドラッグ・ロスの原因として、国内の臨床試験手続きの煩雑さ、症例登録にかかる時間、コストなどが指摘される中で、臨床現場からの効率的な治験の実施に向けた取組みで、ドラッグ・ロス解消に挑む。
実証研究では、治験を希望する患者がいる連携協力病院がJoinを通じて症例情報を登録し、国立がん研究センター中央病院が適格性を判断。さらに治験内容や患者に関する情報をテキストや画像データでやり取りした上で、適格性ありと判断された場合には患者紹介を行う。連携協力病院との業務委託契約や製薬企業・CROとの共同研究契約などで秘密保持を担保することで患者や治験の情報をやり取りしやすくする。また、連携協力病院には相談件数や受診数、治験参加した患者数に応じて研究費を支払う。
研究期間は27年12月までの約3年間を予定。主要評価項目は、「システムを通じて臨床試験目的で国立がん研究センター中央病院に紹介された患者のうち、紹介後3か月間で臨床試験につながった患者の割合」で、予定登録数は150例としている。国立がん研究センター中央病院腫瘍内科の下井辰徳医長は、「順次拡充していき、3年間で最大500人ほどの参加を目指したい」と意気込んだ。
◎治験目的の紹介患者 実際に参加はわずか15% 体調不良や適格性から登録至らず
治験をめぐり、紹介元の医療機関や患者にとっては、紹介の手間の多さや、治験情報にたどり着きづらいといったハードルがあった。同院が、臨床試験目的で紹介された患者173人について調べたところ、実際に治験に参加したのは15%にとどまった。治験への登録・非登録の理由(n=173)でみると、「合併症やPS不良のため臨床試験提案は不適当と判断」が31%▽「紹介可能な試験がない」が12%▽「生検可能病変又は標的病変なし」が6%―だったという。
同院では、紹介から治験開始に至る期間も受診や検査などで1か月から1か月半を要している現状があるという。実際、2023年度の内科系初診患者で臨床試験に参加したのは8.7%(366/4209)にとどまっている。
下井医長は、「治験のご案内ができない場合、元の病院へお戻りになる場合は、せっかく時間をかけたこの期間が無駄になってしまう」と指摘。秘匿性も担保されたシステムを活用することで、「事前に紹介先の医療機関から当院へやり取りすることで患者さんの貴重な時間の短縮にもつながる」と語った。
同院の臨床研究支援責任者を務める中村健一氏は「双方の医療機関のリソースが掛かっている中で、(治験の参加が)15%というのはすごく低い数字。こうしたリソースや患者さんのニーズに、テクノロジーを掛け合わせることで解決する仕組みであり、日本の治験の患者登録数を上げるためにも非常に重要な取り組みだ」と強調した。
実証研究には製薬企業数社が参加意向を示しているといい、3月13日にも製薬企業向け説明会をオンラインで実施する。