国立大学病院長会議 地域医療継続に危機感 働き方改革の人件費高騰などで24年度試算は596億円の赤字
公開日時 2023/12/06 04:50
国立大学病院長会議の横手幸太郎氏 (千葉大医学部附属病院病院長)は12月1日の記者会見で、国立大学病院の経営状況について、「増収減益傾向が止まらない、2023年度に続いて24年度も大幅な経常損失の見込み」と厳しい見通しを示した。24年度については赤字が596億円まで拡大するとの試算も公表。経営悪化の要因はコロナ補助金の縮小・廃止や、物価・光熱費の高騰に加え、医師の働き方改革による人件費増加などをあげた。横手会長は、「物価・光熱費の高騰と働き方改革が国立大学病院の首を確実に絞め上げる中、今までのような体制が維持できるのか」と地域医療の継続に危機感を示した。
国立大学病院においても平均在院日数の短縮などの効率化施策が進んでおり、それによって1日当たりの入院単価はアップするなど収入は増加している。一方、増収以上に医療の高度化に伴う医薬品や診療材料費が増加し、経常利益率が上がらない減益が続いており、また昨今はコロナ患者受け入れのためのICUの確保やエネルギー価格の高騰などにより減益傾向に拍車が掛かっていた。コロナ禍直前の2019年の利益率は1.5%と2%を切っている。横手会長は、「20~22年度はコロナ補助金などで事業継続が可能となり、見かけ上はマイナスが見えない状況だった。この補助金が大幅に圧縮される23年度は452億円の赤字になり、前半の補助金を組み入れても372億円のマイナスになる見込み」と説明した。
さらに、医師の働き方改革による人件費増加の影響も大きいと指摘する。国立大学病院に勤務する医師の約2万5000人のうち、7600人ほどの医師がB水準か連携B水準の指定を受けるが、これらの医師がA水準に移行するためには年間636万時間を捻出する必要があるという。この時間を確保するために国立大学病院会議では医師増員の費用として年間129億円、タスクシフト・シェアなど効率化のための97億円、毎年合計で226億円の費用が必要としている。
横手会長は、「国立大学病院の医師による医師少数区域の病院や地域の中核病院、救急病院への兼業実績はかなり割合に上り、地域医療の一翼を担ってきたと言っても過言ではない。物価・光熱費の高騰と働き方改革が国立大学病院の首を確実に絞め上げる中、今までのような体制が維持できるのか」と横手氏は病院経営の窮状を訴えるとともに、今後の地域医療体制維持に対して危機感を露わにした。「医師にしっかり対価を支払いつつ国立大学病院が事業継続を続けていくためには来年度以降の診療報酬改定できちんと手当てを付けてほしい」と要望した。
原晃常置委員会委員 (筑波大附属病院病院長)も「これまで労働時間に対して払っていなかったというより把握できていなかったことが大きい。いずれにしても法的整備が必要で、資金が今以上に必要になるのは間違いない。一方で骨太方針では大学病院の機能を維持するという方針が盛り込まれているので、政府には人件費増大に対する支援を切実にお願いしたい」と訴えた。
◎サイバー攻撃への対応強化でIT-BCPの策定・運用へ
このほか、サイバーセキュリティを取り巻く国立大学病院の状況についても議題に上げた。昨今、ランサムウェアによるサイバー攻撃が増加傾向にあり、政府機関やインフラ企業のほか、医療機関も攻撃のターゲットになり始めている。昨年には大阪の急性期病院で被害に遭い、約2カ月の間、手術や検査を含めた一部の診療行為の停止を余儀なくされたのは記憶に新しい。
横手会長は「地域医療に支障が生じるだけでなく、診療ストップによる収入低下、復旧に向けた費用の増加など病院経営にも多大なマイナスが生じかねない。サイバー攻撃による病院負担想定額は1大学病院当たり34億円との試算もある」と警鐘を鳴らした。
その上で同会議ではサイバー攻撃からの速やかな復旧を可能にし、損害を最小限に食い止めるIT-BCP(ITシステムの事業継続計画)の早期策定を進めていることを紹介した。具体的には政府機関などにおける情報システム運用継続計画ガイドラインに沿って、大学病院の規模・特徴や病院情報システムの構成に応じたIT-BCPのひな型を策定する。また、過去の被害病院の調査報告書の内容からも参考になる事項を盛り込んでいくという。横手会長は、「今後、このひな形の検討をさらに進めて国立大学病院でIT-BCPの策定を加速させていきたい」と展望を語った。