武見厚労相 日本の強み活かす「創薬基盤の再構築」急ぐ 年内にも中間とりまとめを指示 官民対話
公開日時 2023/11/14 05:30
武見敬三厚労相は11月13日、「革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品創出のための官民対話」で、創薬力強化に向けて、日本の「創薬基盤の再構築」の必要性を強調し、関係部局に年内にも中間とりまとめを行うよう指示した。武見厚労相は、新型コロナワクチンの開発が遅れるなど、日本企業の創薬力低下に危機感を表明。創薬そのものがグローバル化する中で、米国など海外からシーズだけでなく、投資や人材を呼び込むグローバルを見据えたエコシステムを構築する必要性を強調した。世界に追いつくための「ラストチャンス」として、“日本の強み”を活かして存在感を発揮するための基盤整備を急ぐ考えを示した。
◎新たな創薬基盤「日本だけでは完結できない」 国内外の垣根なく基盤構築を
「オープンイノベーションはもはや、国家の中の枠組みでは実現できない。新しい我が国の創薬基盤を作るうえでは、日本だけでは完結できるような考え方はできない」-。武見厚労相は、官民対話で業界の意見を踏まえ、政治家としての自身の見解を示した。コロナ禍で日本発のコロナワクチンを早期に創出できず、世界市場でも日本企業の占有率が落ちるなど、日本の創薬力が低下している現状に危機感を示した。
アカデミア発の創薬が世界の潮流となる中で、日本では創薬スタートアップの成功事例が少ないことも指摘されている。創薬のあり方そのものが変化する中で、「我が国がグローバルなエコシステムの中に、きちんと入っているかと言えば、まだまだ現状、そう簡単な状況ではない」と危機感を示す。このため、日本に新たな創薬基盤を築き、国内外の垣根を超えた、官民が連携するエコシステムを構築する重要性を強調する。
武見厚労相は、「結果としては、シーズを効果的に開発していただくのが海外の企業だとしても、我々日本の政治家にとっては、その結果が我が国の国民の健康と命を守る役に立つアクセスが補償されるのであれば、結果を自由にお使いくださいと思っている。このような新しい発想で、我が国の創薬基盤の再構築を進めなければならないということは強く思った」と述べた。
◎国家戦略策定へ検討進める 国際共同治験への日本の参画など薬事上の対応も
創薬力強化をめぐっては、6月に閣議決定された骨太方針では、「新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する」ことが盛り込まれている。9月には、鴨下一郎元議員を内閣官房参与として任命し、強力なリーダーシップの下、関係省庁一体となって取り組みを進める体制も整った。国家戦略に向けて検討が進められる中で、論点の一つとなっているのが、エコシステムの構築だ。厚労省では、海外にも開かれた日本独自のエコシステム構築を目指す。2023年度補正予算案では、米国で起業を目指すアカデミアなどを対象に、米国でピッチイベントを開くなど、海外からの資金を呼び込む事業も盛り込み、米国とのエコシステムとの連携も打ち出した。
エコシステム構築には、日本の研究開発をめぐる環境整備も不可欠だ。分散型臨床試験(DCT)の実施体制構築や、医療情報の二次利用の促進、薬価への対応、国際共同治験への日本の参画など薬事上の対応などについて、検討を進めており、国家戦略にもこうした内容が反映される見通しだ。武見厚労相は、日本の強みを活かした新たな創薬基盤の構築が必要との考えを示し、「私はせっかちで、年内までに中間とりまとめを、という無理難題を振りかけている」と明かした。
製薬業界からは、”日本の強み”として、日本の均一性のある風土を活かした健康・医療データを活かした創薬基盤の必要性を指摘する声などがあがったという。
◎「エクイティを守りながら医学・医療をカバーするマクロな議論も必要に」
このほか、製薬業界から、イノベーションに対して薬価上の評価を求める声があがったことに対し、武見厚労相は「エクイティ(公平性)」の重要性を強調。「エクイティに制度、仕組みの中で、どう答えるか。これに対する回答をきちんと用意しないと、皆保険制度を簡単に変えることはできない」と指摘。「現在の医療保険制度が残念ながら、医学・医療の進歩をすべてカバーできなくなりつつある現状の中で、どのような新たな医療保険制度、そしてまた同時にそれを改めてエクイティというものをできるだけ守りながら、どのように新しい財源を確保し、新しい医学・医療の進歩をカバーしていくべきか。こうしたマクロな全体像の議論も必要になってきたと私は、今日のお話を聞きながら認識した」と述べた。
また、リーダーシップとガバナンスの重要性を強調。新型コロナのパンデミックをきっかけに、「国民は我が国の医療保険制度の弱点は嫌と言うほど、見てしまった。これが新たな政治的モメンタムを作り出し、政治家である我々に新たな改革をするチャンスを与えてくれた」として、「リーダーシップと、それを実行するガバナンス」の重要性を強調した。重要な軸として「サイエンス」があるとして、内閣官房だけでなく、サイエンスを軸とした議論の必要性を強調した。厚労省として、医療DXを推進していることにも触れ、データサイエンスでもリーダーシップをとる重要性を強調した。