自民党社会保障制度調査会の「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム（橋本岳座長）」は５月16日、提言を大筋で了承した。提言案では、創薬力強化に向けて「国家戦略を策定し、政府一丸となって支援を行うべき」と強調。各省庁での対策が進むなかで、政府における司令塔機能の必要性を指摘し、「内閣府健康・医療戦略事務局が司令塔機能を担う」とし、法的位置づけを含めた検討を求めた。会議後のブリーフィングで橋本座長は、「司令塔機能をちゃんと政府で作れ、ということに今回、一歩踏み出したところに大きなポイントがあると思っている」と述べた。議論を踏まえ、座長一任で文言修正を行ったうえで、党内手続きを経て、岸田首相に手渡す方針。

◎医薬品産業を「基幹産業」に　国家戦略策定で政府一丸で支援を

提言案では、「日本でシーズを見つけ育てる能力（創薬力）を強化することで、国際競争力を高め、医薬品産業を日本経済により貢献できる基幹産業とする」ことを目指す姿の一つに掲げた。それに向けた具体的施策として、「製薬企業が国際展開を見据えつつ、新規モダリティの分野における研究開発に投資し、イノベーションの創出に挑戦できる」よう、「日本における創薬力の持続的な発展を目的とする国家戦略を策定し、政府一丸となって支援を行うべき」とした。

この際に、「内閣府健康・医療戦略事務局が司令塔を担うべき」として、「その法的位置づけを含めて検討する」ことを盛り込んだ。政府内に、創薬についての研究開発や産業化を見据えた企業戦略などについての専門知識を有する多様なアカデミア人材で構成される委員会を組織。国家戦略の策定・実行・ガバナンスに当たって、連携することも提言した。

◎橋本座長　司令塔機能実現へ「一歩踏み出す」　薬事行政、安全保障、産業育成を調和の取れた内容に

橋本座長は会議後のブリーフで、「薬事行政と医薬品安全保障、産業育成などの観点があるが、それぞれ別々に動いているというのが大きな問題意識だ。司令塔機能というのが全般的に見渡し、個々の議論で物が進んでいくのではなく、全体として調和の取れた内容ができるように、明示的にそういう風にしていくべきではないか」と表明。「実現するためには組織が必要だということで、現時点で内閣府健康・医療戦略事務局が担うべきと思っている」と述べた。現在、内閣府健康・医療戦略事務局はこのような機能を担っておらず、「例えば、目的だとかそういうことなんていうのはそういうことについて、1回見直した方がいいのではないか」と法的位置づけにも踏み込んだ。

創薬力強化ＰＴでは21年に提言した際にも、政府に司令塔機能を求めていたが、「司令塔機能をちゃんと政府で作れ、ということに今回、一歩踏み出したところに大きなポイントがある」と説明。「官邸にもっていってお願いするということは、ちゃんと具体的に動くことを期待してのこと。動かしたいという気持ちをすごく持っているところが、最大のポイントだ」と強調した。

このほか、提言案では、創薬力強化に向け、創薬エコシステムの育成支援や治験環境の整備、医療情報の利活用推進、長期収載品の種別に応じた対応などを盛り込んだ。

◎社会保障費「薬価改定に財源を求めていくことは、もはや限界」　政府全体で検討を

後発品を中心とした供給不安が続くなかで、医薬品産業が目指す姿として、「公的医療保険制度を守りつつ、国民が適切な負担でより多くの医薬品を安心して使用できるような環境を整備する」姿も、一つの柱に掲げた。具体的施策としては、日本市場の魅力向上に資する薬価制度の構築やサプライチェーンの強靭化などを盛り込んだ。社会保障費についても触れ、「社会保障費の自然増抑制を薬価改定に財源を求めていくことは、もはや限界を迎えている」と指摘。「日本の医薬品市場の魅力を増大させるための財源確保策について、政府全体として速やかに検討を行うべき」としている。