三菱ケミカルグループのジョンマーク・ギルソン代表取締役社長は２月24日の会見で、ヘルスケア事業について、「我々の強みに沿って、より少ない適応症に焦点を当てた事業に再構築することを決定した」と述べた。同社が強みを有する中枢神経、免疫炎症、糖尿病・腎のコア領域と、がん領域の４領域に集中的な投資を行うことで、成長する考えを示した。さらに、研究開発投資なども日米２拠点に集中させる考えを示した。同社のヘルスケア事業が４月１日付で、辻村明広氏が執行役エグゼクティブバイスプレジデントファーマ所管に就任する新体制へと移行することでビジネス変革が加速することにも期待感を示し、「ヘルスケア事業を活性化させると期待している」と述べた。

◎25年度目標　EBIDTA約550億円に引下げもEBIDTAマージンは約15％を維持

同社は2021年12月に公表した25年までの経営方針「Forging the future　未来を拓く」についての実行計画と財務目標のアップデートを同日公表した。ヘルスケアの25年度の目標についてはEBIDTA（利払い税引き前減価償却償却前利益）の約700億円から約550億円に引き下げたが、EBIDTAマージンは約15％を維持した。なお、21年度のEBIDTAは84億円、EBIDTAマージンは２％。

◎ノンコア領域のビジネスが「コアビジネスの強みを相殺してしまった」　将来は「楽観的」

ギルソン社長はヘルスケア部門について過去数年間、コア領域とノンコア領域で明暗を分ける側面があったとの見方を表明。コア領域については、ALS治療薬・ラジカヴァでの米国での上市や、乾癬治療薬・ステラーラ、糖尿病治療薬・カナグルが成長しており、「過去数年間、日米でのコア事業は非常に順調」と強調した。

一方で、ノンコア領域では、変形関節症薬候補など、導入品などで開発見直しが相次ぎ、2020年度以降、大幅な減損を計上している状況にある。今年に入り、新型コロナワクチンの開発に取り組んできたカナダ・メディカゴ社の全事業から撤退することも発表している。ギルソン社長は、「ノンコア領域に過度に手を広げすぎ、ここ数年大きな損失を被り、コアビジネスの強みを相殺してしまった」との見解を表明。コア領域に焦点を絞り、ビジネスを再構築する考えを示した。

具体的には、中枢神経、免疫炎症、糖尿病・腎をコア領域に据え、がんをあわせた４領域に注力する考え。プレシジョン・メディシンやAI創薬、リアルワールドデータなどの主要な技術に対し、積極的な投資を行う考えも示した。あわせて、拠点についても日米２拠点に注力し、成長を加速させる考えを示した。ギルソン社長は、「ヘルスケア事業は4兆円規模ではなく、4000億円規模だ。我々が強みを発揮できる領域に集中する必要がある」と述べた。なお、これまで注力してきた国内でのワクチン事業については、開発は今後行わないが販売は継続する考えも示した。そのうえで、「ファーマビジネスの将来は、楽観的に考えている」と強調した。

◎MRの人員配置「常に最適化は考えている」　日本での一番の強みはMR力


同社は、グループ全体として成長を加速させるとともに、コスト構造改革も重要施策の一つに据える。ヘルスケア事業ではカナダ・メディカゴ社の研究センターを閉鎖するなどすることでコスト削減を行う考えを表明。一方で、削減されたコストの一部を日本での研究開発に再投資するなど、日本への投資を継続する姿勢も強調した。

MRをはじめとした営業の人員配置については、「常に最適化は考えている」と表明した。ただし、今回行われるヘルスケア事業の再構築にはこうした人員配置の見直しは含まれていないとした。一方で、同社のMR力に自信もみせた。「特に日本での一番の強みは、営業部門だ」と強調。世界でブロックバスターとなったGIP/GLP-1受容体作動薬・マンジャロをめぐり、日本イーライリリーと販売提携契約を締結したことに触れ、同社が選ばれた背景にMR力があるとの見方を示した。今後も、自社開発とライセンスインなどの手段を講じて、コア領域のポートフォリオを拡充する考えを強調した。

なお、ヘルスケア事業の重点戦略には、▽革新的な研究開発プロセスによるプレシジョン・メディシンの実現、▽希少疾患に特化したイノベーション開発と新たなパイプラインへの継続的な投資、▽開発・販売におけるパートナーシップの活用－をあげている。