日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長は2月16日の会長会見で、「製薬産業は、アカデミアやスタートアップ、あるいは政府と連携して創薬力を強化し、日本を世界のイノベーション創出拠点として世界に創薬イノベーションを届けていきたい」と強調した。日本が世界をリードする基礎研究に注目し、企業主導の新たなコンソーシアムを設立することなどを提案した。岡田会長は、「創薬エコシステムとして、日本のなかで、ゼロから1を生むということに関して製薬産業が動かなければ動く人がいない」と強調。「非常に強い覚悟というか、いまやらないと本当に産業が空洞化していくと思っている。今後も継続してより強化していきたい」と決意表明した。
創薬力強化をめぐっては、自民党社会保障制度調査会の「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム(PT)」の橋本岳座長が2月13日の会合で、「政府の成長戦略に“創薬”という言葉が入るよう努力していきたい」と意欲をみせた。15日には、岸田文雄首相が衆院予算委員会で、創薬スタートアップへの総合的な支援や治験環境などの創薬基盤整備などを通じ、「製薬業界とも緊密に連携しつつ、我が国の創薬力の強化に向けた取り組みを強力に進めていきたい」と答弁した。今通常国会では、仮名加工医療情報の作成・提供を可能とする「改正次世代医療基盤法案」の審議が予定されており、創薬イノベーションを後押しする機運が高まっている。
◎日本の強みである基礎研究に着目したコンソーシアム設立 人材の活用も
この日の会見で、岡田会長は「政策提言2030」を公表した。政策提言2023では、「国家戦略としての医薬品産業政策」の必要性を強調。岡田会長は、「国には、国家戦略として創薬スタートアップ育成への支援や健康医療ビッグデータ活用の環境整備をぜひ進めていただきたい。製薬産業はそれに対してしっかりとコミットしていく。それによって、官民一体で進めるということの重要性を申し上げたい」と述べた。
具体的には、日本の強みである基礎研究領域に着目し、産官学連携コンソーシアムの設立を目指す考え。研究領域は企業のフォーカスエリアなどによって決められるケースが多いが、日本が世界をリードする技術・領域などに着目した新たなコンソーシアムとなる。コンソーシアムに対し、製薬企業から資金に加え、人材、物資、情報、ノウハウの提供などを中心としたin-kind貢献を行う。岡田会長は、「アカデミアとの協働を促進して新たな価値を創造していきたい」と語った。国内バイオコミュニティのなかで、「イノベーションの成果物を最終的にしっかり社会実装につなげていくべく出口戦略として、製薬企業が貢献する」考えも示した。
エコシステムのカギを握るバイオ人材についても、「これまでよりも一歩踏み込んだ即戦力および将来の製造人材を育成する新たな試みを開始しようと考えている」と表明。バイオロジクス研究・トレーニングセンター(BCRET)による人材育成を補完する取り組みとして、CMO/CDMOなどで製造を担う人材に対して、製薬企業の製造設備を用いたより実践的なOJT研修を行い、早期育成を支援する考えを示した。これらの取り組みを通じ、アカデミアと企業の連携の好循環ン時より創薬力を向上。成功例から世界からヒト・モノ・カネ・情報が集積することで、世界をリードする新薬創出国になる姿を描いた。
◎RWD利活用の環境整備 「患者中心にバックキャストでデータ基盤構築と法整備を」
あわせて、今後の医薬品産業を考えるうえで、リアルワールドデータ(RWD)の利活用に向けた環境整備が必要との認識を示した。「データイズオイルというふうに言われる昨今、製薬業界においても医療ビッグデータを活用して様々な価値を生み出すことができる」と強調。「世界では、ゲノム情報を活用した患者さんの層別化やRWDを活用した薬事承認、エビデンス構築など大きく進んでいると認識している。今後の医薬品開発、そして医療の質向上、そしてさらにはそのよく政府の方がおっしゃっているいわゆる国民皆保険とイノベーションの両立という観点、それを支える大前提はDX、ビッグデータの活用が不可欠であり、それによってもたらされる効率化は非常に大きい」と述べた。
データの利活用に向けた環境整備において、「最も重要なことは、患者さん中心、ペイシェントセントリックに、どのような価値を提供していくのか、こういう視点からバックキャストして、このデータ基盤構築と法制度整備を両輪として進めていくことを強くお願いしたい」と訴えた。
◎岡田会長「シーズから最終的な出口までバリューチェーン全体に寄り添うのが製薬企業」
岡田会長は、「このままいくと、日本の創薬力、イノベーション力は、もう衰退の一途だと思っている」と強調。経産省が、創薬ベンチャーエコシステム強化事業に3000億円を計上したことに触れ、「米国や中国と比べるとまだ桁が足りないかもしれないが、政府にコミットをいただいて、日本発のイノベーションを生み出そうというふうに舵を切っていただいた」との見方を表明。「そこに対して、本当に創薬エコシステムとして、日本の中、ゼロから1を生むということに関して製薬産業が動かなければ動く人がいない」と指摘。国内外のバイオベンチャーの伴走型支援の必要性に触れたうえで、「何より人材が流動化してないなかで製薬産業が人材を含めて、シーズの生まれるところから最終的な出口までのバリューチェーン全体に寄り添っていく」姿を描いた。
◎岡田会長「メリハリのある薬価制度で産業は自ずとその方向に向かう」
会見で、岡田会長は医薬品産業政策について、自身の考えも語った。岡田会長は、「医薬品産業による健康寿命の延伸と経済成長への貢献を実現するためには、革新的な新薬を創出する企業と、高品質の医薬品を安定供給する企業を育成する。極端に言うとその二極の産業をしっかりと育成する医薬品産業政策として必要だ」との考えを表明。「グローバルスタンダードで、かつメリハリのある薬価制度を構築することによって、産業構造は自ずとその方向に向かっていく」との考えを示した。
具体的には、「医療用医薬品市場全体で微増を実現、あるいは許容をいただくということが必要であると強く思っている。そして、特許を満了後は速やかに後発品に置き換え、長期収載品の価格も速やかに引き下げるべき」との考えを示した。革新的新薬については、「グローバルスタンダードで評価する必要がある」と表明。“グローバルスタンダード”とは、「価値を客観的に評価した上で値付けをし、サイエンティフィックな位置づけ価値が変化しない限りは薬価を維持する」という考え。これにより、「特許品市場の持続的な成長が可能になる」とした。長期収載品に依存する企業が多いことも指摘されるが、「医薬品市場の中でのメリハリをさらに追求することには全く異論がない」と強調した。
製薬産業のビジネスモデルとして、2010~21年の間に新有効成分含有医薬品を9以上創出した内資系企業9社が内資系企業全体(53社)の売上の7割を占めるとのデータを提示。9社平均の営業利益率が19.7%と他の企業の水準(9.6%)の倍以上の差があることも示した。岡田会長は、新薬創出のリスクが高さに触れ、「これは儲かっているというよりも、営業キャッシュフロー稼いで、再投資しているとぜひご理解いただきたい」として、製薬産業のビジネスモデルに理解を求めた。国内売上高が縮小するなかで、他産業に比べて税収面でも大きく伸びていることを示し、「日本発のイノベーション海外に届けて、税収面でも国益に貢献している」と強調。日本政府に対し、「こういう構造のなかで、世界で戦うべき新薬を生み出している企業をぜひ応援をいただきたい」と訴えた。