厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会(座長:遠藤久夫学習院大経済学部教授)」は9月22日、会議体変更後、初の会合を開き、製薬団体からヒアリングを行った。日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長(エーザイ代表執行役COO)は、ドラッグ・ラグ再燃が懸念されるとして、「これを解決するには、“日本の薬事・臨床試験環境を改善”することが一つで、もうひとつは“医薬品の価値を適切に評価する薬価制度改革”を行う必要がある」と主張した。構成員からは薬事規制や治験環境の整備に加え、内資系企業の相対的な技術力の低さを含めた複合的な要因ではないか、との指摘が飛び交った。遠藤座長は、「まさに薬事との絡みでドラック・ラグの問題が起きている。そこのところはできるだけはっきりできればありがたい」と製薬業界に注文を付けた。
◎岡田製薬協会長「魅力度低下と未承認薬増加」 薬事・治験環境改善と薬価制度改革の両輪で
この日の意見陳述で、製薬協の岡田会長は、国内で未承認薬が増加傾向にあることに触れ、「日本市場の魅力低下、優先順位の低下によって、ドラッグ・ラグやトラック・ロスが起きていると言わざるを得ない」と述べた。「我が国は、日本市場の魅力度の低下という問題と、未承認薬の増加という2つの要素から革新的新薬へのアクセスに関する懸念を抱えている。これを解決するには、“日本の薬事・臨床試験環境を改善”することが一つで、もうひとつは“医薬品の価値を適切に評価する薬価制度改革”を行うことにある。我々は、この両輪の対応が必要であると考えている」と強調した。
◎岩屋EFPIA会長 薬価抜本改革後の「上市中止」4社 「薬価だけの問題ではない」
欧州製薬団体連合会(EFPIA)の岩屋孝彦会長(サノフィ代表取締役社長)は理事会構成社10社を対象に9月前半に実施した調査結果を提示。2018年の薬価制度抜本改革以降、上市中止となった品目があると回答したのが4社あった。ただし、抜本改革以前との比較については回答を得られていない。また、上市延期・遅延のあった企業が6社、上市の延期・遅延の議論を行った企業は10社だった。岩屋会長は、「中止した内容や延期した内容は個別の会社の事情で、我々も詳細は把握していない。薬価だけの問題ではないという可能性も十分にある」としたうえで、今後こうした傾向が強まることに懸念を表明。「実際は老舗と呼ぶような、歴史が長く活動している外資系製薬会社においてもこのような傾向が見られ始めているということについては注意深く考える必要があると考える」と述べた。
◎ドラッグ・ラグの背景要因で意見相次ぐ 「薬価制度なり市場の魅力なり議論すれば良いのか」
これに対し、構成員からはドラッグ・ラグの背景要因として、薬事規制や治験環境、内資系企業の技術力の低さなどを指摘する声があがった。成川衛構成員(北里大薬学部教授)は、「薬価制度というものが患者の医薬品のアクセスに多大な貢献をしていると言うのは疑いのないところだ」と述べた。そのうえで、「医薬品の開発の出口である承認に薬価制度が明確な影響を出すまでには少し時間がかかるのではないか。数年、5、6年かかるのではないか」と指摘。17年にすでに未承認薬が増加しているとのデータを引き合いに、「企業の方から見ると、評判の良くない抜本改革は2018年度だ。抜本改革より前にすでに未承認薬が増えてきているということをどう解釈したらいいのか」と述べた。つまり、薬価制度に起因して未承認薬が増加しているのであれば12年度以前の制度改正に原因があるのでは、との見方を示し、「薬価制度なり市場の魅力なりだけを議論しておけばいいのか」と疑問を投げかけた。
これに対し、製薬協の岡田会長は、「まず、2018年度の薬価制度抜本改革は非常に大きな影響与えたのは間違いない。16年にイノベーションに大きく切り込まれたことが大きな原因になっている。薬価制度が、いまや薬剤というのはボーダレスでというなかで、グローバルな仕組みから逸脱しているということは大きな問題であることは確かであるが、日本の薬事制度、臨床研究の機能面に起因した問題というものは一方、やはりあるという風に思っている。大きくは、薬事関係の問題と薬価制度の問題2つであると思っている」と述べた。
◎赤名薬価研委員長「申請資料が日本語、日本人データを強く要求される」など課題を指摘
日薬連薬価研委員長で、製薬協産業政策委員会委員長の赤名正臣氏(エーザイ)も、「様々な要因の複合的なことがドラック・ラグにつながっている。薬価制度とは別に薬事、臨床研究の環境の改善についてもいくつかの原因があるのではないかということで、我々もいま製薬協内で分析を始めている状況だ。例えば、薬事に関しては申請資料が日本語であることが問題ではないか、日本人データをかなり強く要求されるのでそれもあるのではないか、もっと言えば治験環境についていえば施設の集約化が欧米とは違っているので、コスト・スピード面で海外より劣っているのではないか、ということも含めて製薬協内で調査をしている」と述べた。
◎芦田構成員 EFPIAのデータ「衝撃を受けた」
長年にわたるベンチャーキャピタルでの経験を有する芦田耕一構成員(INCJ執行役員ベンチャー・グロース投資グループ共同グループ長)は、「様々な要因がある。薬価の議論だけではなく、治験の環境や薬事の環境、治験に入る前のバイオ医薬品の場合は製造をどうするかというところが非常に大きな課題だ。大きく言えば開発の環境というところが要因だろうと思っている」との見解を表明。「特にアメリカにおいては、バイオテック企業が以前であれば開発の途中でメガファーマにライセンスを譲ってきたが、最後まで自分たちでやりきってしまう。そうすると、アメリカを中心とした国だけで開発し、販売をするので、それゆえに日本に入ってこないという話がよく言われていると思う」と説明した。EFPIAのデータについては、「衝撃を受けた」として、「認識を新たにした。根が深いのかなと感じた」と述べた。
そのうえで、製薬協の医薬産業政策研究所(政策研)の、国際共同治験の組み入れ数が日本よりも韓国や台湾、シンガポールの方が多いとのレポートに触れ、「人口規模や市場規模を見ても、日本よりも小さい国の方が優先されているように見える。そこがなぜなのか、というのが1つ私の疑問だ」と指摘した。なお、台湾や韓国などでは行政主導で治験実施体制の整備や誘致活動が進む。英語での治験が可能な大規模治験センターがあり、治験の集約化が進んでいることが一般的に知られている。
芦田構成員はまた、米バイオテック企業発の革新的新薬について、「日本の製薬企業の皆様が、自社の開発を積極的にされているが、それと並行して導入活動を盛んにされている。いくつかの医薬品は日本に導入されて開発が進んでいるが、もっとそれが進んでも良いのではないか。進まない理由、障害があるのであればそれは何なのか」と質問した。これに対し、日本製薬団体連合会(日薬連)の眞鍋淳会長(第一三共代表取締役社長)は、「例えば未承認の薬を日本に導入したいという時に、未承認の理由があり、その障害部分は日本の企業であっても変わらない」と述べた。
◎坂巻構成員「日本の企業はバイオ医薬品について、あまり開発できていないという印象」
坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)は、「日本の企業はバイオ医薬品について、あまり開発できていないという印象を持っている。日本においてバイオ医薬品の開発が遅れていることが全体的に見ると、日本でのドラック・ラグにつながっている部分がないのか。逆に言えば、比較的高額なバイオ薬品が日本で上市されていないから、薬剤費がそれほど伸びていないという可能性はないのかどうかを確認したい」、「端的に言えば、(内資系企業と外資系企業の技術力の差ではないかということだ)と指摘した。遠藤座長も、「市場の魅力度と言うこともあるが、バイオ競争力の問題を反映しているのではないかということ」と補足した。
これに対し、岡田会長は、「日本市場が成長しないというところが日本の製薬企業の技術力に起因するところがあるのではないかというご指摘だが、もちろん全くそれはゼロとは申し上げないが、日本の医薬品市場の品目構成を見ると、明らかに上位品目はバイオになってきている。日本企業がバイオをはじめとする新規モダリティで世界に遅れをとっているというのも事実だが、日本市場だけではなく、世界を含めた市場で我々の成果物がまだ顕在化できていない。内資系企業の研究開発の技術力に関して、日本だけでマイナスが起きているとは認識はしていないところだ」と述べた。
日薬連の眞鍋会長は、「個社の話だが、弊社もバイオ製品を最初にローンチ(上市)したのはアメリカだ。私たちは日本発、日本の会社だと思うが、現在の状況が続いて日本でなかなか採算性が取れないとなると、日本でのローンチを遅らせたり、将来的には日本で見送ったりということが起こるかもしれないという状況だ。特に日本の企業でそういうことが起こっているからということはないと私は思っている」との見解を示した。