厚労省・安藤課長 後発品供給不安の背景に赤字品目多数のビジネスモデルが 流通・薬価検討会で議論へ
公開日時 2022/08/08 04:53
厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の安藤公一課長は8月6日、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会学術大会で講演し、後発品の供給不安が続くなかで、この背景にビジネスモデルがあるとの考えを示した。熾烈な企業間競争や毎年薬価改定の影響による多数品目の赤字を収載直後の少数品目による利益でカバーする産業構造に問題意識を示した。8月末にも初回の会合を開く、「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」ではビジネスモデルを検討課題の一つに据える。安藤課長は、「短期的には難しいところであると思っているが、中長期を睨んで、あり方論についても検討会のなかでしっかり議論していきたい」と意気込みをみせた。
◎有識者検討会「短期、中期、長期と時間軸を考慮しながら、あり方論を議論」
有識者検討会の立ち上げについて安藤課長は、「安定供給の問題が足下起こっていることも直接的な背景にはあるが、そもそも薬価・流通を取り巻く環境が大きく変わってきていることがきっかけとして一つあるだろうと思う」と説明した。団塊世代が後期高齢者に入り始めるなかで、医療保険財政への圧力が強まることが予想されるほか、かかりつけ医の機能発揮やオンライン診療の普及による医療提供体制のあり方の変化、後発品80%時代などによる医薬品のカテゴリーチェンジ、製薬企業のグローバル化の進展などの要素を列挙した(
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そのうえで、「環境変化も当然踏まえながらどういう課題が足下起こっているかについて、現状認識を共通認識としてもったうえで、それぞれに対してどういう処方箋を書けるか。短期、中期、長期という形である程度時間軸を考慮しながら、いわゆるあり方論についてしっかり議論していただきたい」と述べた。有識者検討会では、「持続的な成長を続けるための今後の医薬品産業の在り方(産業構造・ビジネスモデル)」を検討課題の柱の一つに据える。
◎「収載直後の品目から得られる利益で赤字部分をカバーする産業構造」
ジェネリックメーカーのビジネスモデルの課題について自身の見解を表明。政府の後発品80%目標を旗印に使用浸透が進んできた。安藤課長は、「官製市場に近い形かもしれないが、どんどん市場拡大が進む中で多くの企業が後発品の市場に参入してきた。市場シェアを獲得するために企業間で激しい価格競争が発生し、結果的に価格がどんどん落ちていくことも起こった。それに追い打ちをかけるように、頻回の薬価改定も行われる状況のなかで、多数の赤字品目が発生しているという現状も見て取れる。それぞれの企業は赤字を補填するために、新たに多数の後発品を薬価収載し、収載直後の品目から得られる利益で赤字部分をカバーする産業構造ができあがってしまったのが現状だろう」との認識を示した。
一方で、後発品80%目標を達成し、大規模な市場をもつ低分子医薬品の後発品への置き換わりも進むなかで、「これまでのような形では市場拡大は見込めない。マーケットについては飽和状態になりつつあると認識している」と説明。さらに、世界情勢が不透明さを増し、物価・エネルギー価格の高騰が続くなかで、開発コストの増加も見込まれる。「毎年薬価改定の影響も受ける中でこれまでのようなビジネスモデルでの経営は困難な状況になっているのではないか。こういったことも背景の一つにあって最近では安定供給の問題も生じているのではないかと考えている」と述べた。
◎投資確保の観点から最低薬価の引上げも焦点に
毎年薬価改定の影響に加え、物価・エネルギー価格の高騰が続くなかで赤字品目をはじめ、不採算をめぐる議論は製薬業界内ですでに起こっている。沢井製薬の澤井光郎会長が本誌取材に対し赤字品目の多さなどを指摘し、「ジェネリックの安定供給を維持するためには、「品目によらず、最低薬価を引き上げるというのも一つの手法ではないか」と提案
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この日行われたシンポジウムでも製薬業界側から、赤字品目や不採算品目をめぐる議論が出た。日本ジェネリック製薬協会広報委員会の田中俊幸委員長(東和薬品)は、「医薬品を安定的に製造、供給するためにはそれなりの投資が必要だということも事実だ」と指摘。2018年度以降、結果的に毎年の薬価改定が続いた影響で設備投資がストップしたとして、「製造キャパに余裕がなかったことが(安定供給問題の)大きな要因だ」との見方を示した。そのうえで、ジェネリックには、安定確保医薬品で最低薬価となっている品目が約800品目あるとして、「我々としても努力はするところはするが、すべてとは申し上げないが、薬価だけでなく、流通と見合わせて検討いただけないか」と述べた。
日本製薬団体連合会安定確保委員会の三浦哲也委員(Meファルマ)は、「不採算の問題は、メーカーにとって非常に負荷がかかっている。薬価制度そのものを見直さないと、難しい面もあると考えているが、購入価償還や安定確保医薬品にカテゴライズされた製品は最低薬価を引き上げるなどしないと、作る側としては先行きどうにもならないだろうというのは共通の意見だ」と述べた。
一方で、日本では市場実勢価格主義が貫かれており、製薬企業や医薬品卸を含めた流通当事者の合意により、価格が形成されている。熾烈な企業間や卸間競争の影響による薬価下落も指摘されている。厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課医療用物資等確保対策推進室の千葉祐一室長補佐(後発医薬品使用促進専門官)は、「投資財源の確保は対応する必要があるのは理解するが、ではなぜその投資額を確保するのが必要であるにもかかわらず、薬価が下がるのかというのが一般的にはわからないと言われている」と指摘。有識者検討会の議論を通じ、「色々な事情や課題が詳らかになると考えている」と述べた。