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【FOCUS】動き出す地域フォーミュラリ “地域から信託を受けた存在”目指す

公開日時 2021/09/08 04:53
「地域フォーミュラリの導入・実施は、多職種連携の理念を実現することにつながるもので、地域包括ケアシステムの構築に大きく貢献する」―。2020年度厚生労働科学特別研究事業の指定研究として行われたフォーミュラリ実施の方法論開発の研究班代表を務める今井博久氏(東京大大学院医学系研究科特任教授)は本誌取材にこう強調した。超高齢社会が到来し、ポリファーマシーなど、“薬”をめぐる課題が地域の医療現場でクローズアップされるなか、医薬品の適正使用のあるべき姿を地域から発信しようという機運が高まっている。医療現場で動き始めた地域フォーミュラリが描く地域での薬物治療の姿を追った。(望月 英梨)

「厚労省研究班がガイドラインを作成したことを聞いた。これで環境も整ってきた。さらに推進するには診療報酬上の対応が必要だ」―。7月21日の中医協総会で、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)はこう主張した。

一方、前回20年度改定でフォーミュラリの診療報酬上の評価に反対した診療側は、「診療報酬で評価するのにはなじまない」(城守国斗委員・日本医師会常任理事)と従来の姿勢を崩さなかった。「フォーミュラリはその定義もまだ明確ではないし、その策定の方法、そしてプロセスも確立をしていない」と突き返した。

このテーマをめぐっては年末にかけてさらに議論がヒートアップすることは間違いない。議論の焦点となるのが、その定義や手法だろう。

◎「院内」と「地域」は全く別物


厚生労働科学特別研究事業の指定研究の研究班は、「地域フォーミュラリの実施ガイドライン」(試案)を取りまとめる方針だ。

フォーミュラリは、病院の施設内で運用される“院内フォーミュラリ”と、地域単位で運用される“地域フォーミュラリ”に大別される。一見似通って見えるが、今井氏は、「地域」と「院内」は全く別のものだと指摘する。「勝手に病院や病院グループが単独でフォーミュラリを策定することは避けるべき」とまで強調する。

研究班では、地域フォーミュラリを「一定の地域における医師(会)および薬剤師(会)、その他医療関係者が協働作業を通じて共通の理解と了解を前提に作成され、地域の患者に対してEBMに則りながら有効性、安全性、経済性などの観点から総合的に最適であると判断され使用が推奨される医薬品集および使用指針」と定義する。理念として掲げるのは、「地域医療全体において最新で最良の科学的なエビデンスに従って医学的妥当性や医療経済性等を踏まえて“標準的な薬物治療”を実施し、治療を享受する患者のアウトカムを最良の水準にする」ことだ。

◎後発品推進協議会の場を活用した議論も

超高齢社会のなかで、「地域」の概念は高まりをみせている。地域包括ケアシステムの構築も求められるが、これは医療提供体制側にとっては多職種連携に他ならない。今井氏は、地域フォーミュラリの導入は、「地域医療において診療所、病院、訪問診療、慢性期施設、特養などの高齢患者に対して医療と介護の実践の場としてその垣根を取り除き、横断的に同一の医薬品を使用して標準的な薬物治療を実践すること」と説明する。そのため、コスト削減や在庫整理などに主眼が置かれる院内フォーミュラリでは、“地域”の観点が失われると懸念を示す。実際、研究班の調査で約9割が自院のフォーミュラリにとどまっており、地域に浸透していないこともわかってきた。

日常診療で忙しい医師にとって、最新の知識を常にアップデートし続けることは容易でない。製薬企業のプロモーションの影響も受ける。今井氏は、「感と度胸の恣意的な診療、製薬企業に左右される商業的な薬物治療など前近代的な医療から脱却する」必要性があると指摘。“標準的な薬物治療の推進”に直結する制度を早期に導入する必要性を強調する。制度運用にあたっては、全国38道府県(3月時点)に設置した「後発品使用促進協議会」を活用し、県薬務課が事務局を担うことも提案する。

◎「目的」、「作成」、「実施」、「評価」にわけて明記

ガイドライン(試案)は、地域フォーミュラリの「目的」、「作成」、「実施」、「評価」にわけて具体的な手法を示した。

作成には、医師会医師、中核病院医師、薬剤師会薬剤師(病院薬剤師)、地域保険者(職域保険者)、行政などの参画が望ましいとした。様々なステークホルダーの意見を反映させることが重要なためだ。地域フォーミュラリの作成組織委員の選定に当たっては、利益相反(COI)を開示する必要性も指摘した。製薬企業との関係が、推奨薬選定に影響する可能性を踏まえた。

地域によって疾病率や医薬品のシェアが異なることから、「地域の実状を反映させる」ことの重要性も強調。「地域に精通していない、大手調剤チェーンのような民間の営利会社が画一的に委託して地域フォーミュラリを作成するのは、かなり無理があり、現実的ではない」と指摘。「他人任せの地域フォーミュラリを地域の診療所医師が使用するとは考えられない」と牽制する。

具体的な作成手順は、医薬品の専門家である薬剤師が同種同効薬について、効能や薬物動態、有害事象、薬価などの情報を収集して一覧表を作成。それをベースに、処方の実経験や使いやすさなど、処方医の意見を取り入れ、推奨薬を選定する。

医薬品の選定は、有効性・安全性に加えて、経済性も重要になる。このため「後発品が対象になる」ことも明記する。「欧米の地域フォーミュラリはすべてが後発医薬品だ」という。一方で、先発品の使用が禁止されていないとしている。

◎製薬企業を評価する意義

銘柄の選択に際しては、製薬企業を評価することも重要になる。「地域フォーミュラリは、“地域から信託を受けた存在”になるため、安定供給や品質が担保されていなければならない」と今井氏は強調する。

地域フォーミュラリの先駆的な存在である、山形県酒田地区の地域フォーミュラリ検討段階で、安定供給、品質、価格について製薬企業に情報開示を求めた。「原薬のソースの数」や、「自社工場での製造」、「物流センターの数」などを安定供給の指標とした。一方で、情報開示を拒む企業は、最初から除外したという。

ただ、地域フォーミュラリの黎明期であるいま、フォーミュラリをゼロベースから創り上げることは難しいとの声もある。そこで研究班は、生活習慣病薬や抗アレルギー薬、抗炎症鎮痛系薬など、19種類の薬効群で作成したモデル・地域フォーミュラリをパブリック・ドメインとして公開する。

今井氏は、研究班のフォーミュラリを「基本的な資料」として利用することで、標準的なフォーミュラリの作成が可能になると力を込める。

今年6月には、今井氏が理事長となって一般社団法人日本フォーミュラリ学会を発足させた。学会員への支援や助言を行うことで、スムーズな導入を後押ししたい考えだ。

中医協では、地域連携パスにおけるフォーミュラリの運用が望ましいとの声も診療側からあがったが、今井氏は、これに前向きな姿勢を示す。がん治療などで地域フォーミュラリが作成されれば、患者にとっても地域医療にとっても、効果的で効率的との考えだ。

ただ、一気に導入を進めるのではなく、「概ね数種類から5種類程度からはじめ、地域の診療所や病院、薬局、老健、特養などへの周知を医師会広報、薬剤師会広報などを通じて十分に行いながら、徐々に広めるのが望ましい」と話す。フォーミュラリ策定後には、薬価や品質などを踏まえ、年に1〜2回更新することが望ましいとの考えも示した。

ガイドラインでは、地域フォーミュラリ導入後の地域医療への影響を評価する重要性も指摘している。このため、導入前に臨床指標(クリニカル・インディケーターズ)や臨床アウトカムなどを項目として設定することを提案している。この評価には、保険者の協力を得て定量的に実施することも期待される。

山形県酒田地域では、ARBについて薬剤費の推移を地域フォーミュラリの導入前後で分析した。先発品のアジルバのシェアが高かったが、地域フォーミュラリ策定に向けた議論を進めるなかで、薬価が問題となり、推奨薬から外れた。結果として、アジルバの処方は減り、薬剤費も抑制されたとしている。

今井氏は、地域の医療課題を克服するうえで、地域フォーミュラリの実施は「不可欠だ」と強調。「早急に実践へと歩みだすべきだ」と呼びかけた。
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