中医協総会 2022年度調剤報酬改定へキックオフ 支払側・幸野委員「薬局機能に応じた報酬体系に」
公開日時 2021/07/15 04:51
中医協総会は7月14日、2022年度調剤報酬改定に向けて議論を開始した。2016年度改定以降、対物業務から対人業務への構造的な転換が促されてきたものの、かかりつけ薬剤師指導料をはじめ、対人業務の算定率は依然として低い状況にある。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「いまだに対物業務だけで経営が成り立つ報酬制度だからだ」と述べた。調剤医療費のなかで調剤費の多い財源構成も指摘。そのうえで、薬局が地域で果たす“機能”に応じた報酬体系へと見直すべきとの考えを示した。改正薬機法では地域連携薬局や専門医療機関連携薬局が位置付けられており、こうした薬局機能と診療報酬の在り方も今後、議論となりそうだ。
◎支払側・幸野委員 調剤基本料は「一本化し、機能で評価を」
2016年度改定でかかりつけ薬剤師指導料・包括管理料が新設されて以降、外来服薬支援料や重複投薬・相互作用等防止加算など、“対人業務”をめぐる点数に重点的な配分がなされてきた。しかし、かかりつけ薬剤師指導料の算定回数は横ばいで、全処方箋枚数の1.5%程度と低率にとどまっている。支払側の幸野委員は、「薬局が対応しきれていない。なぜ対応できていないのか。はっきり結論からいれば、いまだに対物業務だけで経営が成り立つ報酬制度だからだ」と指摘した。「門前で処方箋を多くさばけば経営が成り立つ。基本的には調剤基本料、調剤料、薬剤服用歴管理指導料、薬価差で経営が成り立っている」と述べた。
調剤医療費の技術料のうち、対人業務を評価する薬学管理料は20%程度にとどまり、依然として調剤料が半数以上を占めていることにも言及し、「財源構成を大きく変えないと薬局機能は変わらない」と指摘した。
現在、処方箋受付回数と集中率などで点数が決まる調剤基本料についても、大手チェーン薬局でも減算のない調剤基本料1を算定する薬局が多いことを指摘し、「調剤基本料は受付回数や集中率で区分するのではなく、一本化して、機能に応じて設定すべきだ」と主張。「調剤基本料は、対人業務を中心とする薬局と、調剤に限定して効率性を追求する門前薬局で差をつけるべき」との考えを示した。
公益委員の飯塚敏晃氏(東京大大学院経済学研究科教授)は、「機能が違うというのであればわかるが、規模や後発品を扱っているという要因で患者負担が変わるのは再考の余地があるのではないか」と指摘した。
◎診療側・有澤委員「対物業務と対人業務の両方が成り立って安全・安心」
一方、診療側は有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)が、「対物業務と対人業務の両方が成り立って安全・安心な医薬品提供ができると考えている」との考えを表明した。診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)も、「医療安全という観点からも、まずは対物業務があるということが大前提においての対人業務への移行ということ」と話した。
◎支払側・間宮委員「患者の実感が得られる対応を」
支払側の間宮清委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は薬剤服用歴管理指導料が算定されているにもかかわらず、十分にお薬手帳の確認もされず、服薬指導のなかったという、患者としての自身の経験を披露。患者の立場から、薬剤師に対人業務の充実を求めた。これに対し、診療側の有澤委員は、「日本薬剤師会としては、全国6万の薬局で算定の際には算定の要件に従って業務をやるよう伝えている。全ての薬局で行ってないような捉え方をされてしまうので、ご留意いただきたい」と述べた。これに対し、間宮委員は、「患者が指導をきちんと受けたという実感が得られる対応が大事だ。そういう流れを作っていただきたい」と改めて訴えた。
◎リフィル処方 処方箋様式の簡便化求める
22年度改定で焦点の一つとなることが想定されるのが、いわゆるリフィル処方だ。6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)には、「症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する」と明記された。
現行制度の分割調剤は処方箋様式など、運用の煩雑さなどから普及が進んでいないことが指摘されているなかで、診療側の有澤委員は、「トレーシングレポートの利活用を前提に、3枚連記ではなく一枚の処方箋様式にするなどの検討を行い、一定期間内の処方箋の反復利用について議論することが必要」と提案した。支払側の幸野委員は、「現行の煩雑な仕組みが普及しなのは明らか。何らかの抜本的な見直しをしないと今後も絶対普及しない。次期改定においては、何らからの見直しが必要だ。生活習慣病のように病状が急変しない人や長期で同じ処方が繰り返されている方は、医師の判断で処方箋が繰り返し利用できるということも選択肢として考えていくべき」との考えを示した。
一方で、一貫して慎重姿勢を示してきた日本医師会の委員である診療側の城守委員は、「制度が認知されていないこともあろうが、必要性を感じないことや、この制度を使ってみたが有用性を感じられないということもあるのではないか」と投げかけた。そのうえで、分割調剤できる薬剤を限定することを提案した。城守委員は、「長期処方は残薬リスク、多剤投与に気付きにくくなるなど、患者の薬物療法と保険財政に対する弊害が多いにもかかわらず、長期処方を助長するという方向には日本医師会としては従来通りしっかりと反対をさせていただく」とも述べた。
◎診療側 敷地内薬局に強い問題意識 有澤委員「22年度改定の論点に」
論点にはなかったが、この日の中医協で診療側は“敷地内薬局”について問題意識を露わにした。有澤委員は、「適切な医薬分業のあり方や地域包括ケアシステムにおける薬剤師薬局の活用、かかりつけ薬剤師の推進などを行っていく上で、敷地内薬局はこれらに逆行するものだ」と強調。特に大学病院や公的病院を中心に保険薬局を誘致する事例が増加していると説明。なかには、「応募要項の中で診療室の設置を求めるなど病院側と経済的・機能的・構造的独立性という視点であまりにも酷いケースが非常に目立っている」という。「独立性が担保されない、もしくは院内薬局と変わらない薬局であるならば、保険指定する必要はない。診療報酬上での対応など、あるいは制度の見直しとこれらの流れを止めるためのルールの見直しは必要だ」と強調し、22年度改定の論点に加えるよう、事務局側に要望した。
診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、こうした便宜供与に近い状況を「大変遺憾に思う」と述べた。病院側が薬剤師を確保できないことが敷地内薬局につながっている可能性を指摘し、「仮にその理由が薬剤部の体制が十分確保できないということであれば、病院薬剤師の確保のための対策を行うべきだ」と述べた。患者の自己負担が院内薬局の方が少ないことにも触れ、「敷地内薬局を募集する側、応募する側、双方に改めて保険診療の意味を考えていただきたい。地方において敷地内薬局が極度に進むことによって、病院周辺部において地域を支える調剤薬局がなくなっていってもいいというのか。非常に危うさを感じる」と述べた。
◎公益委員の発言を診療側が問題視 診療側・城守委員「必要以上の発言はされないように」
この日の中医協総会では公益委員の役割についても議論が及んだ。この日の総会で、公益委員2人が発言したことを診療側の城守委員が問題視。「公益委員の役割は、1号側(支払側)、2号側(診療側)が議論をしてもまとまらないときの中立公平な立場においての調整をすること。この場で持論を述べられることは、1号側、2号側の議論に利する、または議論の流れを作るということになりかねない。発言には極めて慎重に、また必要以上には発言をされないという姿勢が必要だ」と指摘した。
これに対し、公益委員の中村洋委員(慶應義塾大大学院経営管理研究科教授)は、「1号側、2号側にも議論していただきたいという提示をすることも公益という立場では重要だ」と反論。診療側の松本委員が「公益という言葉を使えばどんな意見も言える。これまでの中医協の歴史を認識していただきたい」と述べた。一方で、支払側は、安藤伸樹委員(協会けんぽ理事長)が「1号側、2号側で出されていない意見ということであれば十分に発言していただいて結構だと思っている。中医協という場で国民の健康のために何ができるんだということを話すのに、こういう視点があるのではということは非常に大事だ」と述べるなど、理解を示した。