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毎年薬価改定の議論スタート 「毎年改定は慎重に」と主張も立場で思惑の違い明らか 製薬業界も正念場

公開日時 2020/11/12 04:52
毎年薬価改定の実施をめぐる議論が始まった。厚労省保険局医療課は11月11日の中医協総会に、薬価専門部会で製薬業界からの意見聴取を聴取することを提案し、診療・支払各側が了承した。毎年薬価改定そのものに慎重姿勢を示す製薬業界だけに、実施回避を訴えるとみられるが、これを契機に一気に改定の対象範囲をめぐる詰めの議論になだれ込むとの見方も強い。この日の中医協総会で診療側は改めて毎年薬価改定の実施に慎重論を唱えた。新型コロナの影響で医療機関の経営圧迫は明らかだ。本来、診療報酬改定のない裏年の薬価改定だけに、早くも薬価引下げ分の財源の行方に釘を刺した格好だ。後期高齢者の医療費窓口負担2割引上げの議論も控えるなかで、「毎年薬価改定は慎重に」と発言するそれぞれの立場にも思惑の違いが見え隠れする。年末に向けた交渉が激しさを増すこととなりそうだ。

「あくまでも調査結果について慎重に検討した上で、薬価改定について改めて検討するということは言うまでもない」―。この日の中医協総会で診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)はこう牽制した。

菅義偉首相は所信表明演説で、「毎年薬価改定の実現に取り組む」と述べた。毎年薬価改定阻止を掲げてロビー活動を展開する製薬業界にあって、所信表明演説の草稿からこの文言を何故、事前に消すことができなかったのか。毎年薬価改定は、菅首相が官房長官時代に自ら打った施策の一つ。“既得権益打破”を掲げる菅政権だけに、薬価の透明性を含めて、その実現に並々ならぬ意欲を示す。一方で、これから年末にかけて詰めの議論が行われる全世代型社会保障制度をめぐっては、高齢者の患者負担増が論点となるだけに、薬価の随時引き下げが一般国民の窓口負担軽減につながるというロジックは支持されるとの見方だ。

すでに毎年薬価改定の実施に向けた外堀りは埋まり、実施そのものは避けられない状況にある。今年7月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」には、「本年の薬価調査を踏まえて行う2021年度の薬価改定については、骨太方針2018等の内容に新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」ことが明記されている。新型コロナの影響も懸念されたが、妥結率も9割を超え、調査自体も順調に進んでいるとの見方も強まっている。

◎日本医師会・中川会長 毎年改定実施の弊害を主張「貴重な改定財源の取り扱いは慎重に」

この日の中医協で、松本委員は、新型コロナの感染が再拡大するなかで、「医療現場は、今も通常の診療体制に戻れておらず、それどころではない」と主張し、議論を牽制した。患者の受診控えによる医療機関経営の悪化を強調し、「特に、小児科耳鼻科は大変厳しく、まさに崩壊寸前だ」と訴えた。そのうえで、「各施設の役割に応じて、かかりつけ医から大病院まで医療全体で、コロナウイルス対策に対して分担し協力して地域医療の確保に努めている」として、「このままでは地域の医療機関がなくなってしまう恐れがあることを改めて申し上げる」と訴えた。

同日行った日本医師会の定例会見で中川俊男会長は、「日本医師会は一貫して中間年改定はすべきではないと考え、主張してきた。現時点での議論を踏まえて、薬価改定をした場合にどのような弊害があるのか。改定財源をどう取り扱うのか、色々な問題がある」と指摘。「薬価改定財源は診療報酬財源にとって貴重な財源なので、取り扱いを慎重にしてほしい。毎年改定が100%全くダメだという言い方はしないつもりだ。ただ、改定財源の在り方を見えるようにしてほしい」と述べた。

◎調剤報酬改定のない薬価改定 薬局経営への影響は必至

毎年薬価改定そのものが経営に重くのしかかるのが保険薬局だ。有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は、「新型コロナウイルス感染拡大の影響で適切な調査結果が得られているのか、数字が正しく活用できるかどうかという分析も当然必要だ」と指摘。そのうえで、「調剤報酬全体の75%が薬剤料を占めている。零細な薬局においては資産価値の目減り等で経営状況が悪化しているのも事実。慎重に検討した結果、改定の幅、対象範囲・品目については慎重に検討していただきたい」と訴えた。

◎製薬業界も「慎重な議論」求める活動に注力

一方で、製薬業界は、薬価改定の緩和に向けたロビー活動に注力し、慎重な議論の必要性を訴える構えだ。

なお、焦点となる薬価改定の対象範囲については、骨太方針2018に、2018年度以降、消費増税改定を含めて毎年薬価改定が行われることを踏まえ、「この間の市場実勢価格の推移、薬価差の状況、医薬品卸・医療機関・薬局等の経営への影響等を把握した上で、2020年中にこれらを総合的に勘案して、決定する」とされている。骨太方針2019には、「イノベーションの推進を図ること等により、医薬品産業を高い創薬力を持つ産業構造に転換するとともに、薬価制度の抜本改革に向けた基本方針に基づき、国民負担の軽減と医療の質の向上に取り組む」とされている。
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