政府の規制改革推進会議（小林喜光議長・三菱ケミカルホールディングス取締役会長）は７月２日、規制改革案を安倍晋三首相に答申した。医療分野では、「一般用医薬品（スイッチOTC等）選択肢の拡大」が盛り込まれた。具体的には、厚労省に部局横断的な体制を構築することや、OTCの開発目標を設定し、進捗管理を行うことを2020年度中に措置することを求めた。国民自らが健康意識を高めるセルフメディケーションの実践を促すとともに、医薬品産業の活性化を含めた取りくみを促す。

スイッチOTCをめぐっては、一般用医薬品の転用促進に向けて、従来の製造販売業者からの申請に基づく承認審査とは別に消費者などの意見を反映させる目的で、2014年に「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議（以下、評価検討会議）」が設置された。しかし、設置後には製薬企業があらかじめ、評価検討会議に要望書を提出し、スイッチOTC化が可決されないと、申請が事実上困難な状況に陥っている。この議論の流れは、2016年、17年当時の議事録に記されている。当時、日本医師会の代表として当時委員を務めた鈴木邦彦氏が企業からの申請スキームを残すことを問題視した。さらに15年、17年に同委員が「全会一致」を主張し、仕組みが見直されるに至っている。

加えて、評価検討会議は、16人のメンバーのうち10人が医師と偏りがあり、議論のなかで日本医師会の委員が強く反発するなど、スイッチOTC化を阻んでいた実態がある。この結果、当初の目的とは逆行し、評価検討会議設置後に承認に至った成分は２品目と、それ以前に比べても大きく減少し、特に新規性の高い医薬品については全て否決されている状況にある。抗潰瘍薬のプロトンポンプ阻害薬（PPI）や緊急避妊薬など、多くの国でスイッチOTC化がされているにもかかわらず、日本では承認されていない。

規制改革推進会議はこうした現状を問題視。「スイッチOTC化された場合のリスク等に議論が偏り、セルフメディケーションの促進という視点から本来されるべき必要性や国民の利便性等のベネフィットについて考慮されているとは言えない」と指摘。そのうえで、構成メンバーについては「消費者代表を追加するなどバランスよく構成されるよう評価検討会議のメンバー構成を見直す」ことを提言した。

評価検討会議の役割についても、「提案のあった成分のスイッチOTC化に当たっての課題を整理・提示するもの」とし、「スイッチOTC化の可否を決定する者ではない」ことを明確化するよう求めた。全会一致制も廃止し、賛否が分かれた場合は意見を列挙して、薬食審に意見として提示する仕組みとすることとした。承認に際し、必要以上に厳しいセルフチェックシートの作成や販売実態調査の実施などの販売条件が付いたこともあったが、「販売条件設定についての考え方を明確化し、真に必要であるものに限定する」と釘を刺した。

また、セルフメディケーションの促進策を検討するため、厚労省内に新たに部局横断的な体制を構築することも求めた。経済性の観点も含めてスイッチOTC化の推進策を検討。業界団体からスイッチOTC化の進んでいない疾患領域などをヒアリングし、官民連携を通じてスイッチOTC化の目標を設定し、進捗状況を管理することを求めた。いずれも、今年度中の措置を求めている。

◎デジタル化の推進　コロナ危機を変革への契機に転換

答申は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、デジタル化の推進が求められるなかで、デジタル化を強力に推進する狙いがある。小林議長は、「経済社会を変えていくために、コロナ危機を変革への契機に転換していく」と意欲をみせた。医療分野ではオンライン診療・服薬指導について言及した。

オンライン診療については、「患者目線に立ったオンライン診療のさらなる拡充に向けて、次期診療報酬改定の動向を引き続きフォローしていく」とした。新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、時限的・特例的に初診にも解禁されたオンライン診療・服薬指導について、「様々な理由で受診が困難な患者の受診機会を確保するとともに、地域の医療資源に限りがあるなか、医療サービスの効率的な提供に資する点でも極めて有効な手段」とした。議論の過程では、「病院・診療所という「場」を前提としない医療サービスの提供」など、医師法規定の解釈・運用にも踏み込んだが、答申では抜本的な改革案は提示するに至らなかった。３か月ごとの検証結果を踏まえつつ」、「オンライン診療・服薬指導の拡充に向けて引き続きフォローアップを行っていく」とするにとどめている。