厚生労働省の薬食審再生医療等製品・生物由来技術部会は2月26日、ノバルティスファーマが承認申請した脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子置換療法のゾルゲンスマ(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク、開発コード:AVXS-101)を承認することを了承した。2歳未満に用いる。早期死亡や、生涯続く障害を伴うSMAに対する初の1回完結型治療となる。
事務手続きを経て3月にも正式承認される。5月頃にも中医協で保険償還価格が決まる見通し。同社によると、米国でのメーカー出荷価格(卸購入価格)は212万5000ドル。1ドル110円換算すると約2億3400万円と超高額で、日本での価格に注目が集まりそうだ。
■操作データ除外して評価
同製品は、ノバルティスが2018年に87億ドルで買収した米
AveXis(アベクシス)社が創製したもの。同製品をめぐっては、米FDAが19年8月に、アベクシス社が動物実験の一部データを操作していたことを明らかにするとともに、FDAは安全性や有効性に影響はないとして販売継続を認めた経緯がある。
厚労省によると、日本では操作されたデータは除外して評価を行った。部会では、治験段階と市販薬との品質の一貫性が保たれているかどうかの議論も行われたが、一貫性は保たれているとして、部会了承に至った。
委員からは、企業側のデータ操作に遺憾の意が示されたほか、国内の治験参加者に対する説明など適切なケアが必要との意見も出た。同製品は優先的に審査される先駆け審査指定を受け、18年11月に国内申請したにもかかわらず、データ操作もあって、結果として1年以上も承認されてない。この現状にも、「残念」との指摘があった。
一方で、既存のSMA治療薬とは異なり、ゾルゲンスマは静脈注射1回で効果が期待できることから、「SMAに対して、より良い治療法が提供されるとの期待がある」との前向きなコメントもあった。
また同日の部会ではジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが申請した、自家培養角膜上皮のネピック(一般名:ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート)を承認することも了承した。
【審議品目】(カッコ内は一般的名称、申請企業)
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ゾルゲンスマ点滴静注(オナセムノゲン アベパルボベク、ノバルティスファーマ):「脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予想されるものを含む)。ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る」を効能・効果とする。希少疾病用再生医療等製品。先駆け審査指定再生医療等製品。再審査期間は10年。
患者にSMN遺伝子を導入することで、体内でSMNタンパクを産生させ補充し、神経・骨格筋の機能を改善することによりSMAの治療を行うもの。欠陥のあるSMN1(生存運動ニューロン)遺伝子を効果的に置き換えることでSMAの遺伝的根本原因に対処する、ファーストインクラスの治療法となる。
米国での臨床試験では、20か月目の時点で、永続的な呼吸器などを使用せずに生存しているイベントフリー生存率が8%とされるなか、AVXS-101の治療を受けた15人の乳児全員がイベントフリーを達成した。
日本の添付文書案によると、重大な副作用として▽肝機能障害(19.5%)▽肝不全(頻度不明)▽血小板減少症(6.1%)――が明記され、肝機能障害患者では肝機能障害を悪化させるおそれがあるとして、「慎重に適用すること」とされた。
日本では、2歳未満で体重2.6kg以上の患者に対し、体重に基づき算出された投与液量を、60分かけて静脈内に単回投与して用いる。再投与はしない。国内の治験症例は3例と極めて限られている。使用実態下で、同剤を2歳未満のSMA患者に投与したときの長期の安全性及び有効性を検討することを目的に、観察期間を最長15年間とした全例調査を行う。
海外では、19年5月に米国で承認された。
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ネピック(ヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング):「スティーヴンス・ジョンソン症候群患者や眼類天疱瘡患者などを除く角膜上皮幹細胞疲弊症」を効能・効果とする。希少疾病用再生医療等製品。再審査期間は10年。
ネピックは、患者自身の角膜輪部組織を採取し、分離した角膜上皮細胞を培養し、シート状に形成して患者自身に使用する「自家培養角膜上皮」。患者の角膜輪部領域を含む眼表面に適用し、角膜上皮を再建する。海外で承認されている国・地域はない。