帝人は２月５日、2022年度を最終年度とする３か年の新中期経営計画を発表した。成長基盤の確立に向けて３年間で総額3500億円を投じるが、この45％に相当する1600億円を少子高齢化・健康志向（＝ヘルスケア）のソリューション開発に充てる計画をたてた。特に地域包括ケア関連、機能性食品、新規ヘルスケア（整形・新規医療機器）に積極的に投資する。同社のヘルスケア事業はこれまで医薬品と在宅医療・医療機器による「治療」中心の展開だったが、新中計では、リハビリ／介護や予防／健康増進を含む「地域密着型総合ヘルスケア事業」を提供する企業を目指す方針を鮮明にした。

同社は長期ビジョンとして、▽環境価値▽安心・安全・防災▽少子高齢化・健康志向（ヘルスケア）――の３つにソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に貢献することを掲げている。

同社の鈴木純社長は同日に東京都内で開いた会見で、ヘルスケア事業について、「現在は『治療』に対して医薬品や医療機器で強みを持っているが、今後は『リハビリ／介護』から『予防／健康増進』を含む地域密着型の総合ヘルスケアサービス事業を提供していきたい」と強調した。特に地域包括ケアシステム関連の新事業を創出していくことが「ヘルスケアの大きな絵だ」と語った。例えば、データプラットフォームを活用した健康管理支援、重症化予防に取り組む考え。地域密着型総合サービスプロバイダーとして新たな市場を創造するとしている。

地域包括ケアのソリューションのひとつとして既に、患者情報をパソコンやスマホなどを介して多職種間で共有する医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を提供・運用している。鈴木社長はバイタルリンクについて、「どういう形なら、本当に必要な情報を、一番大事な人に届けられるシステムになるか」と述べ、顧客ニーズを踏まえつつ改良を重ねていく姿勢をみせた。

■22年度の“フェブリク・クリフ”　地域包括ケア関連新事業などで克服へ

ヘルスケア事業の最大の経営課題は、年間売上350億円超の高尿酸血症治療薬フェブリクの22年度の特許切れ・後発品参入による減収影響を指す「フェブリク・クリフ」の対応となる。新中計では、ＭＲと在宅医療の営業担当者らが連携して在宅・地域医療に密着した「多職種チーム営業」で医療機器や新薬を拡販するほか、地域包括ケア関連の新事業を拡大させるなどし、22年度のヘルスケア事業のEBITDA（営業利益＋減価償却費）は19年度と同額の450億円を維持する計画をたてた。

22年度のヘルスケア事業のEBITDAは、▽フェブリク・クリフで190億円減▽薬価改定で40億円減――となる一方で、▽多職種チーム営業などによる医薬・在宅拡大（睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる「CPAP」や新薬の拡大）で60億円増▽顧客ニーズに応じてＭＲも医療機器を扱うなどする生産性向上とコスト構造改革で90億円増▽新事業（機能性食品、地域包括ケア関連）の拡大で80億円増――とする計画。フェブリク・クリフの落ち込みを、次の新薬のみならず、ヘルスケアサービス全体で吸収する絵を描いた格好だ。

■ＭＲも医療機器を営業　地域医療のコーディネーター目指す

鈴木社長は生産性向上・コスト構造改革について、「病院でも、ＭＲと在宅医療の営業がいるが、（医薬品と医療機器を）１人で対応して良いと当局から認められている」とし、ＭＲが必要に応じて医療機器の提案もできるようにして生産性を向上させる考えを示した。さらに、「もっと地域医療に貢献するためにどう進歩できるか。本質的には地域医療のコーディネーターやアドバイザーのポジションになれると良い貢献ができると思う。当社はこのような立場を目指して取り組んでいる」とも語った。

中計期間中に上市を見込む新薬は、フェーズ３（P3）段階にある重症骨粗鬆症治療薬アバロパラチド酢酸塩と、上肢痙縮で承認申請中のインコボツリヌストキシンＡ――の２剤となる。インコボツリヌストキシンＡは下肢痙縮でP3段階にある。

帝人は、医薬事業を展開する帝人ファーマのＭＲ560人を、在宅医療事業を担う帝人在宅医療に19年10月に全員出向させ、ＭＲと帝人在宅医療の営業担当者らとの協業を始めている。帝人在宅医療との社名は今年４月に帝人ヘルスケアとなる。ＭＲも在宅医療や患者への理解を深め、地域完結・在宅完結型医療における顧客ニーズをいち早くキャッチし、帝人グループや社外と連携していち早くソリューションを開発・提供する考え。