国立大学病院長会議 消費税補てん不足でバラつき未解消を示唆 働き方改革にも苦言
公開日時 2019/10/08 03:50
42大学45病院が会員として参加する国立大学病院長会議は10月4日、「診療報酬に係る消費税」、「医師の働き方改革」をテーマにプレスセミナーを開催した。消費税率10%引き上げに対応した診療報酬改定の補てん状況について年内までに調査し、その結果いかんによっては四病院団体協議会(四病協)らが要望する「病院では原則、消費税課税」に同調する構え。一方、医師の働き方改革では「大学病院の特殊性が反映されていない」と苦言を呈し、今後の検討において研究時間の確保などに十分配慮した議論が行われることを要望した。また、一般病院との給与格差を是正し、“兼業ありき”となっている大学病院医師の働き方の改善を訴えた。
◎2018年度支払い実績の試算で42病院、14億円の補てん不足
消費税は最終消費者の負担が原則であるが、社会保険診療は国の社会政策的な配慮により非課税となっており、医療機関が患者や保険者から消費税を受けとることはない。片や医療機関は医薬品や医療機器、設備等の購入の際、消費税を負担しており、その負担分については消費税率引き上げ時の診療報酬改定や薬価改定等で「補てん」されてきた。ただし、医薬品や特定保険医療材料は個々の薬価等に消費税分が上乗せされるので比較的クリアだが、診療報酬(本体)収入には8%引き上げ時以降、基本診療料に上乗せする。つまり個々の病院の課税経費と直接的には紐づいていないため、補てん不足や病院間のバラつきの要因となっていた。
実際、国立大学病院長会議で消費税5%から10%部分の補てん状況について、2018年度の消費税の支払い実績をもとに試算したところ、42病院で14億円の補てん不足となり、▲2.1億円~0.7億円、最大2.9億円のバラつきが生じた。
◎「もう非課税は無理」-山本会長
同会議の山本修一会長(千葉大学医学部附属病院病院長)は、「あくまでも昨年度の実績をもとにした試算。これから10月の支払い実績をもとに速報値を出して検証する」と説明した。そのうえで「いずれにしても今後この状況は続くことが予測され、われわれとしては危機感を持って受け止めている」と述べ、現行の補てん方式のままでは国立大学病院の経営が不安定にならざるを得ない状況を示唆した。山本会長はまた、「もう非課税は無理というのは明らか」とも強調した。
◎労働時間短縮のなかで研究時間をどう確保するか
医師の働き方改革については、2024年4月から病院勤務医の時間外労働規制が施行されるが、大学病院に勤務する医師の勤務環境は、業務のなかに診療だけでなく教育や研究が加わるほか、一般病院と比較して給与水準が低いために多くの医師は兼業せざるを得ないなど、いくつか違いがある。
山本会長は「3月まで行われた医師の働き方に関する検討会では、大学病院医師の勤務環境の特殊性がほとんど議論されなかった」と不満を表明。「われわれとしては検討会で決まったことは遵守し、診療の効率化に努めていくが、それでも労働時間を短縮できない場合は研究時間を削らざるを得ず、臨床医学系の研究が危機的状況に陥る可能性があることを強く訴えたい」と警鐘を鳴らした。
そのうえで、大学病院に勤める医師の研究時間の確保に配慮した検討を要望。例えば、「専門業務型裁量労働制が最もフィットすることは間違いない。実態に即した裁量労働制の見直し、新たな制度が必要になるのではないか」と持論を述べた。また現在、働き方改革を確実に実現へと導くために、医師の働き方改革の推進に関する検討会を設け、時短計画の策定や管理者の責務に関する制度化や法制化について検討している。この動きに対して山本氏は「義務やペナルティを規定するだけで改革が進めていくことに危惧を感じる。地域の医療提供体制の再編など大学病院の自助努力だけでは環境の改善なくして、働き方改革は実現できない」と訴えた。
◎給与格差是正で診療報酬の抜本見直しを訴える構え
最後に医師の給与にも触れ、「教員としての給与しか受けていないため、一般の病院と比べると著しく低い。医師としての給与を確立する必要がある」と強調した。例えば、役職のない医師の場合、一般病院では1520万円であるのに対し、国立大学病院では560万円にすぎない。この格差を是正していく財源として、文部科学省からの支出のほか、こうした給与水準にならざるを得ない診療報酬についても抜本的な見直しを訴えていく構えのようだ。