英NICEの適応外使用情報提供、十分な使用促すか
公開日時 2012/11/09 04:00
英国立医療技術評価機構(NICE)は、医薬品の適応外使用や未承認薬について、医師に対して特定の適応について医薬品が入手できない場合の処方の意思決定に役立たせることばかりでなく、NHS(国民保健サービス)運営当局や患者に未承認薬・適応外薬の使用について品質の高い情報を提供する新規のサービスを開始した。
NICEは、特殊な事情での適応外使用が認められることを強調しているが、適応外使用が一般的に受け入れられる傾向が強まるとの懸念も高まっている。しかし、NICEでは、適応外使用の処方の対象を医薬品開発にしばしば十分な被験者が集まらない希少疾患を考えている。また、適応外使用のエビデンスについては、NHS内の組織が自己のエビデンスを別々に分析するなど重複を避けるために、「エビデンス・サマリー:未承認薬・適応外薬」(ESUOMs)として知られる一元化している提供情報を活用する。ヘルスケア情報会社Bazianが、NICEに代わってエビデンス・サマリー全体をまとめる。
具体的な情報提供の方法は、ESUOMsからNICEが対象を2つに分類して決める。1つは今後2年以内に承認が予定されていない未承認薬で、もう1つは承認済みだが適用外使用されている薬剤だ。NICEは対象を選択した際に、製薬企業に通知、ESUOMsの作成についての時間枠を提案、製薬企業にESUOMsの作成を裏付ける関連情報の提供を求める。当該製薬企業は、NICEからの関連質問に答えなければならない。
最初のESUOMsの対象となる治療薬は、ファイザーの外傷後の重篤な出血治療薬Cyklokapron(トラネキム酸)の予定だ。同剤の現在の適応は、前立腺切除術・子宮膣部円錐切除術・外科的処置・血友病患者の抜歯などに伴う術前・術後の出血リスクの高い患者に対する治療および予防の短期的使用となっている。また、血栓溶解療法に伴う出血性合併症や線溶系の活性化を伴う播種性血管内凝固(DIC)に伴う出血の適応も取得している。このように、同剤の適応範囲は広く、多くの特定疾患領域に関連を持つ。しかし、外傷後の出血を広くカバーする適応拡大にはリスクがないわけではない。
ファイザーの広報は、同社としては、同剤の適応外使用を支持するものでないとしながら、NICEとはこの問題について実態の把握のチェックをしているだけだとしている。ファイザーはまた、高度なアンメットメディカルニーズにおけるトラネキム酸の使用について調査していることを明らかにしている。
ロシュの濾胞性リンパ腫治療薬MabThera(リツキシマブ)が、間もなく、NICEによって、大細胞型B細胞リンパ腫、慢性リンパ球性白血病、関節リウマチの適応外使用が焦点を浴びそうだ。ロシュの広報は、MabTheraについては特にNICEと協議していないと話しているが、ロシュでは、2011年11月にAndrew Lansley前衛生長官が適応外使用についてのNICEの情報提供についての声明発表後、適応外使用についてのエビデンス収集に関する原則について一般的な議論をしていたことを明らかにした。
ロシュは、通常の環境下では、適応外使用や未承認薬の販促を禁止した英国製薬工業協会(ABPI)の倫理綱領を厳格に順守するとしたが、求められれば、高品質の適応外使用などのエビデンスを収集する点でNICEを支持すると話している。「しかし、それ(適応外使用)を決めるのは医師だ」としている。
当然ながら、英国でも適応外使用は目新しいことではない。NICEは、適応外使用がある程度普通に行われていることをよく承知している。しかし、NICEが発行するエビデンス・サマリーは、既知の有効性・安全性を明らかにする一方、正式なNICEのガイダンスを制定するものでないとしている。このことは、ESUOMsの影響力に問題を投げかけることになる。
だが、NICEの臨床ガイドラインのいくつかは、すでに、適切なエビデンスがあれば、多数の適応外使用を推奨している。
NICEの広報は、「エビデンス・サマリーは、個々の患者に医薬品を選択する際に望ましい順序を踏んで行うことを求めている。まず、承認済みの適応薬、次いで、適応外薬、その次に未承認薬で、この順序で処方を求める」と話している。この手続きは、英医薬品庁(MHRA)によって求められ、法的に根拠をもっている。そのため、製薬企業は、ESUOMsが適応外使用のゴーサインだとは感じていない。
The Pink Sheet 10月29日号