英国政府は、現在のPPRS (医薬品価格規制制度) に代わるものとして、「価値に基づく価格設定制度」(VBP)を2014年に導入することを計画し、同制度を患者、納税者、製薬企業にとって、公正かつ公平なものにするために案をまとめつつあるが、導入まで1年半に迫ったものの、まとめの作業が遅れると同時に詳細も明らかになっておらず、製薬業界関係者からは懸念の声が高まっている。
VBPの提案は2010年1月に保健省(DOH)から発表され、製薬業界と政府の交渉が今年第2四半期に開始される予定だが、まさに「価値に基づく価格がふさわしい」と証明されれば価値に見合った価格がつくということ以外、それがどのように実施されるかの詳細はほとんど明らかになっていない。
VBPの適応範囲が当初は英国で市販されている全医薬品だったものが、2014年1月から新規に発売される医薬品に限定されたことは思いがけないことのようだ。このことは、新発売医薬品以外は、現行のPPRSの後継制度で運用されることになることを意味する。
VBPは国立臨床評価研究所(NICE)が担当することになるが、NICEのCarole Longsonヘルステクノロジー評価センター(HTEC)長は、「VBPは、改革というより、むしろ(PPRSの)進化だ」と指摘している。同氏は、VBP設定で必要とされる方法論やどのような関係者が関与するのかなどの案は、すでにNICEには提出されているとしている。
しかし、最初の提案から1年半もVBP制度が明確になっていない状況に直面している製薬企業にとっては、これは慰めにもならない慰めだ。
英国製薬工業協会(ABPI)のPaul Catchpole氏は、「VBPのために製薬企業が収集する必要のあるエビデンスの種類や分量次第では経過的措置が必要だ」と話し、制度で求められる要件を早急に明確にすることを求めている。
さらに、同氏は、VBPが、中小製薬企業に対して官僚主義的負担にならないこと、患者アクセスの障害にならないこと、英国が製薬企業が投資するのに適正な国であることの妨げにならないことなどを求めた。「価値に基づく価格」を設定するNICEのVBPにおける正確な役割が決まっていないことも業界を悩ましている。
Andrew Lansley保健相は、5月15日、ある会合で、「NICEの役割については、安易には、また、それほど論議を高めるものにはならない。英国は現在、2つの価格制度を持つというリスクに直面している。1つはPPRSで、もうひとつはNICEの独自の上限値を持った評価方法および患者アクセススキームだ。価格上限値の決定と透明性のある価格制度に責任を持つべきは政府だ」と話し、現行制度を改革し、NICEよりも政府が責任を持つようになるとし、懸念払拭に努めた。
さらに、同氏は、「我々は、納税者にとっての価値、イノベーションへの報酬、およびイノベーションによる患者へのベネフィットの具現化を保証する必要がある。医薬品業界は、画期的医薬品と大きなアンメットメディカルニーズを満足させる医薬品が最大の報酬を受けられる明らかな兆候を得られる」とVBPにより製薬企業は製品次第で十分な報酬を受けられることを示唆した。
Lansley保健相は、VBPにおけるNICEの役割の概要を説明した。同氏によると、NICEは、1QALY(質調整生存年)当たり3万ポンド(4万7000ドル)の上限値を持つQALYの決定に縛られなくなる。その代わりに、イノベーション、アンメットメディカルニーズや社会的ベネフィットなど追加ベネフィットなど新薬の相対的ベネフィットの評価に専念することになる。価格の上限はNICEではなく政府が決定する。同保健相は、「我々は代替治療法がなければ当該薬剤にもっと支払えるようになる」と話す。
VBPの価格決定には、2つのアプローチが検討されている。データの定量分析および患者、医師、業界からの意見に基づいた意見による審議の2つだ。
業界を懸念させるもう1つが、VBP価格が低くなった場合、欧州各国の参照価格への影響だ。現在でも参照価格は、最低価格に合わせるか、数か国の平均値に合わせている。VBP価格を公開しないために、1つの考えとして、英国の地方のNHS(国民保健サービス)予算執行者はNHSへのリベートを提供する企業に(VBP決定前の)リストプライスで支払う案も出ているという。
今年後半には、VBPの詳細がもっと明らかになると見られているが、英国のVBPの動向には当分目が離せない。
(The Pink Sheet 5月28日号より) FDAと米国製薬企業の情報満載 “The Pink Sheet”はこちらから