創薬力構想会議 アカデミア発シーズの社会実装へ 薬事承認申請を担う「医薬品提供公社」の設立を提唱
公開日時 2024/02/09 04:52
内閣官房は2月8日、「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」を開き、アカデミア発の創薬を推進するために、薬事承認申請業務を担う「医薬品提供公社(Agency for Drug Deployment;ADD、仮称)」の設立を提唱する声が構成員からあがった。あわせて、知財の一元化を担う創薬ベンチャーの創設(カンパニー制)により、AMEDの機能を強化することも提案された。アカデミア発のアイデア・シーズの社会実装に向けて“死の谷”が指摘される中で、アカデミアには薬事や特許などの知識が不足していることが指摘されている。新たな仕組みで課題を解決し、日本発のアカデミア創薬を強力に後押ししたい考えだ。このほか、日本のエコシステム構築に向けて、再生医療の“スター・サイエンティスト”を中核とした場とすることで、海外からの人材や投資を呼び込む案や、高度医療に民間保険を活用することなども提唱された。
◎アカデミア発のシーズが薬事承認に至る「第3のルート」を提案
岩﨑甫構成員(山梨大副学長・融合研究臨床応用推進センター長)は、アカデミア発の薬事承認、社会実装に向けて、薬事承認申請を可能とする機能を有する本部組織「ADD」の設立を提案した。現在、アカデミア発のシーズが薬事承認に至るまでには、企業への導出やバイオベンチャー設立などの道があるが、「第3のルート」として提案した。
現行のAMEDの支援は、基礎研究から応用研究段階が主体となっており、非臨床開発、さらに臨床開発への継続的支援が難しいと指摘。アカデミア(医師・学会)は検証的試験の企画・実施による臨床エビデンスの創出と、臨床現場への提供、製造販売後の安全性データ収集に役割を集中。薬事承認申請業務を担う「ADD」のパートナーとしてPMDAが相談・助言の充実、承認要件の明確化、薬事審査の国際化など、薬事面から協力する。企業やCMOは試験物、医薬品の製造・安定供給を担い、連携・協力する姿を描いた。これにより、企業の参入が難しい希少疾患や難病、小児疾患、AMRなどの開発に対応ができるほか、ドラッグ・リポジショニングなどにも対応でき、ドラッグ・ラグ/ロスへの対策にもなるとの考えを示した。
臨床試験の実施に当たっては、橋渡し拠点や臨床研究中核病院の臨床試験支援システム、大学病院臨床試験アライアンスなどのネットワークを活用。医師や研究者の実践的教育などもつながるとして、人材面のメリットも強調した。また、アカデミア発の創薬はグローバルでネットワークを持つ研究者が多いにもかかわらず、グローバルでの展開を視野に入れているケースが極めて少ないことが知られているが、アジア共同試験をはじめとする国際共同試験体制の構築、活用する考えも示した。これにより、「日本の状況に即したプロダクト・ライフサイクルを通したエコシステムの確立」が可能との考えを示した。
◎知財の一元化を担う「創薬ベンチャーの創設(カンパニー制)」でAMEDの機能強化
あわせて、岩﨑構成員はAMEDの機能を強化する必要性も指摘。創薬インキュベーション機能の充実に向けて、知財の一元化を担う創薬ベンチャーの創設(カンパニー制)も提唱した。AMEDは、研究や技術基盤を支援する「生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)」を行っているが、この成果について知財の確保とその活用により、開発資金を獲得することも提案。「株式会社バインズ(仮称)」が知財の取りまとめ機能を担い、知財の一元化を担う「カンパニー制」とし、製薬企業とやり取り。出資率に応じて、株式会社バインズなどにも利益を還元できるとした。AMEDと連携するベンチャーを作り、“日本版NIH”の機能を担うとしている。
◎日米のVC 規模と経験の違いに指摘相次ぐ エグジットが予見可能であれば投資増加も
シーズの社会実装に向けて、投資を循環させるエコシステムの構築が重要となる。日本は米国に比べてVCの規模が小さく、開発スピードが遅れ、結果として実用化に結び付かないことなども指摘されている。この日も、複数の構成員から、日本と米国のVCでは規模と経験が違うなどの指摘が相次いだ。
日本の創薬VCの投資額は50億円まででIPO(株式公開)が目標。これ対し、米国の創薬VCの投資額は500億円ほどと開きがあり、目標も外資製薬大手にM&Aで高く売ること。米国などの市場で、自社販売することが可能な資金の調達も可能など、違いが大きい。また、米国の創薬VCは臨床POC(フェーズ2まで)獲得を重視していることも指摘された。
エコシステムの専門家の立場から会議に参画した、牧兼充構成員(早稲田大大学院経営管理研究科准教授)は、「エコシステムは、組織体制や予算が継続的に確保され、持続的に政策が実施されるあり方を実現するべき」と表明。創薬スタートアップにVC投資が少ないことに触れ、「政府がVC投資を一時的に肩代わりしても、エコシステムの循環は維持されない」と指摘。創薬スタートアップのエグジットについて「M&Aが多く、IPOはあくまで途中過程の資金調達手段として活用されている」としたうえで、「VCはエグジット・ドリブンのプレイヤー。スタートアップのエグジットが予見可能になれば、投資は自然と増える」と主張した。
◎牧構成員 スター・サイエンティスト中核のエコシステム構築を提唱 「再生医療は有力」
日本発のエコシステムを構築するうえには、海外から人材や投資を呼び込む場とする必要がある。日本に適したエコシステムとして牧構成員は、人材の流動性が低いことから、「VCが自分でベンチャー企業を作るモデル」が適しているとの考えを表明。このモデルには、卓越した業績を残す少数の“スター・サイエンティスト”を中核としたサイエンスとビジネスの創出が必要との考えを示した。世界から優秀な人材を日本に集められる領域として、「再生医療は有力」との考えも示した。
山崎史郎構成員(内閣官房全世代型社会保障構築本部総括事務局長)も、「今後は、海外のリソースもうまく取り込んで活用しながら、日本のアカデミアのシーズを実用化に結びつけていくことができるエコシステムを確立していくことにより、創薬力の向上を図っていくべき」との意見を表明した。
◎高橋構成員 高度医療に民間保険活用を
このほか、髙橋政代構成員(ビジョンケア代表取締役社長)は、創薬だけでなく、「医療産業」を成長産業にする視点を持つ必要性を強調。民間保険を先進医療など高度医療に活用することを提案した。構成員からは、「民間保険の活用こそが皆保険を守るということではないか」との意見もあがったという。