構想会議が中間取りまとめ 海外人材・資金呼び込み「トップレベルの創薬の地」へ 官民協議会を設置
公開日時 2024/05/23 07:00
内閣官房の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議(座長・村井英樹官房副長官)」は5月22日、中間取りまとめを行った。戦略目標に「世界トップレベルの創薬の地」を掲げ、施策を明記した。新規モダリティが台頭し、医薬品の開発スピードが速くなる中で、シーズの実用化に向けて日本にはいわゆる“アクセラレーター”人材がいないことを指摘。外資系企業の人材や外国資金の呼び込みに向け、外資系の製薬企業やベンチャーキャピタル(VC)をメンバーに含む「官民協議会」を設置することを盛り込んだ。協議会を通じ、政府が医薬品・医療産業を成長産業に位置付け、コミットしていることを海外に発信するとともに、日本の創薬エコシステムで活動してもらいたい考え。8月にも準備会合を開く方針で、実現に急ぐ。中間とりまとめは、骨太方針への反映を目指しており、個別の施策については関係省庁が予算請求を通じて実現したい考え。
◎医薬品・医療産業を「成長産業」に位置付け 基幹産業の一つとして政策を力強く推進
中間とりまとめでは、医薬品・医療産業を、「我が国の科学技術力を活かせる重要な成長産業」として基幹産業の一つとして政策を力強く推進する必要性を指摘。①希少疾病など、治療法を求める全ての患者の期待に応えて最新の医薬品を速やかに届ける、②内外の投資を呼び込み、我が国を世界有数の創薬の地とするための環境を整備する、③投資とイノベーションが持続的に好循環する社会システムを構築する―ことを戦略目標に掲げた。
創薬が低分子からバイオ医薬品、再生・細胞医療・遺伝子治療など新規モダリティへとシフトする中で、低分子とは異なる新たな死の谷が生まれていると指摘。これがうまく“つながる”ために、「日本においてもアクセラレーターやインキュベーションなどの初期段階から実用化を目指した研究開発を支援する機能や国際水準の治験・臨床試験実施体制との連携が必要」とした。米・ボストンなど世界的なバイオ集積地で専門家が水平分業を行い、開発スピードが上がる中で、「日本においても、国内外から人材、資金、シーズを呼び込み、世界と同じ速度で研究開発が進む拠点を形成し、グローバルエコシステムの一員として革新的な新薬を世界中の患者に届けることへの貢献が望まれる」とした。
◎日本にアクセラレーター人材は不在 海外人材呼び込みで「国内人材の育成も」
日本を”創薬の地”とするために、アカデミアの研究成果を実用化に結び付けるために、様々な分野の専門家と連携し、早期段階から実用化に必要な要素をバックキャストする出口志向型の研究開発をリードできる「アクセラレーター」人材が必要との考えを表明。一方で、「こうした人材は、国内にはほとんど存在していない」と指摘した。このため、「米国等において経験を積み、薬事承認を含む実用化ノウハウを有する人材を、外資系メガファーマや米国系VC等から日本に呼び込むとともに、それらのノウハウを吸収して国内人材の育成を行うことが必要」と明記した。
「例えば日本の治験・製造体制を活用し日本市場で医薬品を上市することを条件として、外資系企業・外国資金を積極的に呼び込み、海外で実績のあるアクセラレーター人材を確保する。こうした取組により創薬エコシステムの育成に先鞭をつけることで、我が国の製薬企業においても、日本国内でアカデミアやスタートアップと連携して、新規モダリティ等の革新的な研究開発に取り組み、水平分業型の創薬モデルを我が国で推進していくことが期待される」とした。
◎「官民協議会」を設置 創薬エコシステム育成施策の方針や進捗状況を検討 日本での活動も求める
外資系企業・外国資金の呼び込みに向けた具体的な施策としては、外資系の製薬企業やベンチャーキャピタル(VC)をメンバーに含む「官民協議会」を設置する。政府が医薬品・医療産業を基幹産業に位置付けていることを国内外に広く示す考え。また、創薬エコシステム育成施策の方針や進捗状況を企業ニーズも踏まえて検討する方針。投資分野など深い議論を行うことも見据える。一方で、官民協議会に参加する企業・VCに対しては、「投資やインキュベーション施設の設置、人材の定期的派遣など」日本での活動へのコミットメントを求め、日本の創薬エコシステムに参画してもらい、海外からの人材、投資の呼び込みにつなげていきたい考え。
また、人材や投資の呼び込みに向け、外資系企業・VCの日本法人、本社の両方に働き掛けることが重要であることから、米国で開かれるBIOなど世界的イベントで、「日本の創薬関連施策の効果的な発信を行うべき」とした。外資系企業や製薬企業・VCを招聘し、国内だけでなくアジアも含むアカデミア、スタートアップの有望なシーズとのマッチングイベントを定期的に開催するほか、「我が国の創薬エコシステムの課題と改善策をグローバルなステークホルダーと関係府省が意見交換する場を創設すべき」とした。
このほか、国際水準の治験・臨床試験実施体制を整備する必要性を指摘。ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験実施体制の整備や、臨床研究中核病院の承認要件の見直し、多施設共同治験での単一の治験審査委員会での審査(single IRB)の原則化、分散型治験(DCT)の推進なども盛り込んだ。