中外・新中計 事業と社会双方の発展目指す 患者中心のコンサルティング活動強化、KPIに位置付け
公開日時 2019/02/01 03:51
中外製薬は1月31日、新たな経営の基本方針と2021年を最終年度とする3か年の新中期経営計画を発表した。本業である新薬事業だけでなく、「社会」とともに発展を目指すことを経営の基本方針に掲げた。世界規模での少子高齢化や医療費抑制といった社会課題に対し、事業を通じて課題解決に貢献し、社会全体の持続性を向上させることが、結果として同社の長期的なイノベーションへの挑戦を支えると判断した。同社の小坂達朗社長は同日開いた会見で、「目標は、患者中心の高度かつ持続可能な医療の実現。当社と社会の共有価値創造を目指す」とし、「(この基本方針を)しっかり社内に浸透させたい」と話した。
同社はこの日、「『患者中心』『フロンティア精神』『誠実』を価値観とし、ヘルスケア産業のトップイノベーターを目指す。社会とともに発展する」との基本方針を示した。この実現に向け、新中期計画「IBI 21」を策定した。
■「リアルタイム安全性情報などの価値を医療現場に提供」
新中期計画は、Value Creation、Value Delivery、個別化医療の高度化、人財強化・構造改革、Sustainable基盤の充実強化――の5つの戦略で構成している。このうちValue Deliveryは、患者中心のコンサルティング活動やデジタルソリューションの強化を通じて、最適医療の実現と製品価値の最大化を目指すもの。
具体的には、社内に構築したリアルワールドデータを含むエビデンスに関するデータベース(DB)や、市販後調査結果をまとめた調査DB、毎日蓄積・更新する副作用DBを活用して、個別化・差別化を実現する付加価値ある情報活動を推進する。特に成長ドライバーと位置付ける新規の血友病薬へムライブラやがん免疫療法薬テセントリクで、積極的に付加価値情報を提供していく考えだ。
小坂社長は、「当社独自の強みであるリアルタイム安全性情報(=副作用DB)などの価値を医療現場に提供する上で、MRをはじめとする専門職との連携は大きなポイントになる」とし、「エビデンスと安全性情報を組み合わせて、個々の患者ごとに最適な治療提案をするコンサルティングプロモーション」を全社を挙げて推進するとした。この患者中心のコンサルティングプロモーションをKPIのひとつに位置付けていることも明かした。
例えば、MRが60歳の女性患者のデータが求められた場合、リアルタイム安全性情報などから医師が欲する情報を即座に提供するといったシーンが想定される。“革新的新薬+情報サービス”により、最適医療の実現と価値最大化を図る。
このほか、がんゲノム診断など個別化医療の更なる高度化に戦略的に取り組む。独自の創薬技術とバイオロジーを融合させるなどして、治癒や疾患コントロールを目指した革新的新薬の連続創出を実現する(=Value Creation)。人財獲得・育成のため報酬制度改革なども行う。事業プロセスや重複業務を見直し、イノベーションへの資源シフトを進める。
■3年連続薬価改定、アバスチンへのBS参入織り込み
新中期計画の数値目標は、本業にかかわる1株当たり利益の年平均成長率(=Core EPS CAGR)で7~9%を目指すということと、後期開発品目数は適応拡大を含め28品目を目指すということのみ公表された。
新中期計画の前提条件として、19年10月の消費増税に伴う薬価改定を含む3年連続薬価改定や、年間900億円超の売上がある抗がん剤アバスチンにバイオシミラー(BS)が参入することを織り込んだ。19年の国内売上計画は、薬価改定や抗がん剤リツキサンのBSの浸透などが響き、2.7%の減収を見込む。20年、21年の業績見通しは明かしていないが、厳しい市場環境から3年連続減収の可能性もある。
この点について小坂社長は、「(売上の)マイナス分をへムライブラやテセントリクでカバーしたい。日本市場の環境が大変厳しいのは、当社だけではない」と述べ、3年連続減収となるかどうかには触れなかった。
■視神経脊髄炎などの治療薬サトラリズマブ 19年中に日米欧で申請計画
国内事業は厳しい見通しだが、▽抗がん剤アレセンサやへムライブラのグローバル展開▽テセントリクやへムライブラの国内市場での浸透・拡大▽がんゲノム医療の推進▽自社創製の視神経脊髄炎などに用いる抗IL-6レセプターリサイクリング抗体サトラリズマブの日米欧上市の実現――により、「更なる成長を目指す」としている。
サトラリズマブは19年中の日米欧での承認申請を計画。小坂社長は、関節リウマチなどの治療薬アクテムラ、アレセンサ、へムライブラに続く4番目の自社創製のグローバル製品に位置付けていると紹介し、期待の高さを示した。
■18年国内売上は0.2%増収 改定影響をテセントリクなど新薬群で吸収
同社はこの日、18年通期(1~12月)決算を発表した。国内事業の売上(タミフル除く)は3892億円、前年比0.2%増だった。主力のハーセプチンとリツキサンが4月の薬価改定でこれまでの新薬創出等加算分を返還するなど改定影響を大きく受けるなどしたが、テセントリク、アレセンサ、アクテムラ、エディロールなどの新薬群が伸長し、減収影響を吸収した。4月に発売したテセントリクの売上は91億円だった。
国内事業の19年計画(タミフル含む)は、売上3891億円、前年比2.7%減を見込む。へムライブラは129億円(前年比4倍増)、テセントリクは131億円(同44%増)と大幅伸長を計画。その一方で、10月に予定する薬価改定影響に加え、後発品やBSの影響が大きく出る模様だ。特に抗インフルエンザウイルス薬タミフルは後発品影響に加え、新薬ゾフルーザの登場で、19年は備蓄を除く通常売上で33億円、前年比60%以上の減収になるとしている。
18年の連結業績は増収、2ケタ増益を達成し、過去最高を更新した。特に海外売上がアクテムラやアレセンサのロシュ向け輸出の増加で339億円の増収、長期収載品13製品の太陽ファルマへの譲渡などに伴うロイヤルティ及びその他営業収入が170億円増となったことが大きかった。製品構成の変化で売上原価が前年比1.1ポイント減の49.6%と、4年ぶりに50%を下回ったことも利益を押し上げた。
【連結業績(前年同期比) 19年予想】(IFRS)
売上高 5797億8700万円(8.5%増) 5925億円(2.2%増)
営業利益 1243億2300万円(25.7%増) 1430億円(9.7%増)
*19年営業利益予想はCoreベース
【主要製品の国内売上(前年同期実績) 19年予想、億円】
がん領域 2257(2259) 2159
アバスチン 956(931) 894
アレセンサ 206(167) 251
ハーセプチン 281(336) 240
パージェタ 161(136) 212
リツキサン 213(334) 135
テセントリク 91(-) 131
ゼローダ 125(122) 94
カドサイラ 85(80) 91
タルセバ 83(105)56
ガザイバ 6(-) 18
アラグリオ 3(0) 4
骨・関節領域 1005(933) 1031
アクテムラ 382(331) 382
エディロール 329(296) 353
ボンビバ 94(87) 109
スベニール 78(88) 61
腎領域 363(393) 318
ミルセラ 231(239) 205
オキサロール 73(82) 59
その他領域 375(468) 383
ヘムライブラ 30(-) 129
セルセプト 90(89) 90
タミフル(通常) 101(119) 34
タミフル(行政備蓄等) 5(50) 32
ロイヤルティ及びその他の営業収入 519(349) 645