視点 製薬企業からMRがいなくなる日 動き出した製薬産業の構造改革、情報ソースはMRからIT・AIにシフト

公開日時 2017/01/06 03:52
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もはや医薬品マーケットの地殻変動を止めることはできない。革新的新薬を軸とする新薬市場と、長期収載品、後発医薬品、基礎的医薬品を軸とするエッセンシャル市場とに2極化が進む。特に、長期収載品、後発医薬品等のエッセンシャル市場は、マーケットアクセスそのものの見直しが不可欠だ。MRなど人的リソースを軸とする従来型営業は早晩崩壊する。代わって地域・エリアのステークホルダーを新たな顧客とする製品パッケージ型ビジネスへの転換が求められるだろう。これに伴い製薬企業の情報発信も、ITインフラや人工知能(AI)にシフトする。すなわち、人的リソースに頼らず、オペレーションコストを徹底的に減らしたビジネススキームへの構造改革が進むという訳だ。数年以内に、エッセンシャル市場向けの医薬品をフルラインで品揃えし、かつ自社MRを持たず、自治体や地域・エリアの病院グループをメイン顧客とする新たな製薬販売会社が誕生することになろう。(編集長 沼田佳之)

「産業構造の転換は避けられない」―― 。これまで高コスト体質だった医薬品マーケットを変革させるための外堀は完全に埋められた。あとは起爆剤のスイッチを押すだけ。これから始まる製薬産業の構造改革とビジネス大転換のシナリオが見えてきた。


第1のシナリオ ― 外堀は「地域医療構想」で埋まった―

第1のシナリオ。47都道府県の「地域医療構想」により病院経営者の意識改革が進む。高齢化と人口減少がクロスするなかで、地方の病院は生き残りをかけた再編が不可欠となる。

500床規模の急性期病院の場合、病床稼働率8割キープが安定経営の一つの目安と言われている。2016年4月の診療報酬改定を思い出してほしい。急性期病院の要件として、患者の在宅復帰率や重症患者の受け入れ割合を高めた。首都圏を除く地方都市は、すでに人口減少が顕在化しており、この要件を満たす患者数そのものが急激に減少している。まして近隣の病院同士で患者を奪い合ったり、抱え込んだりすれば地域医療の崩壊を招きかねない。

すなわち地域内の病院の平均在院日数を短縮し、病床稼働率を高める健全経営を目指すには医療機関同士の連携が不可欠になるという訳だ。よって近隣のクリニックを巻き込みながら患者紹介の前方支援、後方支援が進む。これにより医療機関同士のグループ化や機能転換を含む病院の再編に結びつくのだ。

2017年4月から知事権限で設立が可能になる「地域医療連携推進法人」がその代表格にあたる。しかし、そうでなくとも地域・エリア内での病院同士の緩やかな連携が進むことになり、医薬品や医療機器などの物品購入については共同購入や共同交渉などに発展する可能性が高まることになる。

2017年度は第7次地域医療計画の策定にむけた議論が各自治体でスタートする。加えて医療費適正化計画もアドオンされる格好となる。医療機関経営にとっては、いかに物品購入費を抑えるかが課題となる。

第2のシナリオ ―「NDBオープンデータ」が薬剤購入を激変させる―


第2のシナリオ。NDBオープンデータの公開だ。地域ごとに使用薬剤の実態が把握できる。このデータを活用すれば、地域ごとに医薬品の使用実績に関するリストを作成できる。自治体や病院グループの医薬品購入担当者は、当該地域の薬剤の年間使用量を実績ベースでリストアップし、年間購入計画を策定する。その際、重複薬剤や同種同効薬の絞り込みを行い、当該地域の採用品目を適正数まで削減したうえで、最終的には使用薬剤リスト「フォーミュラリ」を策定する。

フォーミュラリは病院やその関連施設、保険薬局、訪問看護ステーション、さらには介護施設と共有できるため、必要に応じて医薬品の共同購入品目リストとして活用することもできる。

もう一つのメリットとして、これまで施設ごとだった価格交渉や採用交渉の窓口を一本化することも可能で、その分のオペレーションコストも削減できる。削減分のコストを価格に上乗せして交渉することもありえそうだが、いずれにしても購入窓口が地域・エリアに集約化されることで、これまでのように施設1軒1軒ごとに行っていた価格交渉や採用交渉の手間が省けるという訳だ。

これに伴い製薬企業、医薬品卸もマーケットアクセスの手法に変更が求められる。MRなど人的リソースの見直しは不可欠だ。さらに、これまでのMR活動とは異なるタッチポイント(訪問先)やステークホルダーの見極めが求められる。すでに製薬各社ともキーアカウントマネージャー(KAM)などを組織化する動きもある。早晩、担当者の役割・機能の再構築が求められる

第3のシナリオ ―「官邸主導の医療改革」が構造転換を誘発する―

第3のシナリオ。薬価制度改革に伴うビジネススキームの見直しだ。国は薬価の面から、長期収載品や後発品についてコストをかけないマーケットへの転換を促す。政府の方針として、特許の切れた薬剤については、市場実勢価格に応じた薬価の引き下げを求めている。裏返すと、コストをかけないで医薬品を市場供給させる仕組みの構築に国として舵を切ったのだ。加えて、製薬産業に対して、「より高い創薬力を持つ産業構造に転換」するよう求めている。

ただ、新薬も長期収載品も、後発医薬品も情報が付加されて初めて適正使用が成立する。ここは誰もが認めるところだ。情報については、これまでMRの役割が一番大きかった。MRが病院や診療所を一軒一軒訪問し、処方医や薬剤師に情報提供して回っていた。ところが、社会保障財源の確保が厳しくなる中で、情報の担い手についても、コストのかかるMRなど人的リソースの活用を極力抑え、逆にインターネット時代に見合うようなITインフラを活用した情報発信、収集に置き換える方策を政府自らが提案しているといっても過言ではない。

一言加えれば、「よく訪問しているMRがいい奴だ」という理由で処方薬が選択されるようなマーケティングモデルを全面的に否定したことになる。

先述したNDBオープンデータのように公的なビッグデータが開示されるようになり、ITインフラが急速に整備されるようになると、人的リソースをかけずに、必要な情報を提供できるインターネットメディアの活用に誰もが注目するようになる。

特に薬剤の使用感の蓄積されたエッセンシャル市場の場合、最新情報へのニーズが低いわけではないが、疾患をまたがる複数薬剤の飲み合わせや長期処方の問題に関する情報のニーズが高い。だとすると、MRを活用するPush型の情報提供というよりも、eチャネルを活用したPull型の情報提供の方がふさわしく、医師以外の薬剤師や看護師もアクセスできる専門ポータルサイトの需要が高くなるという訳だ。

■2017年はMR改革の実現が最大テーマ

3つのシナリオを紹介したが、こうした施策の組み合わせが起爆剤となり、製薬企業のビジネスモデルを転換させるだろう。

MRも同様で、これまでのように製薬企業各社で自前のMRを増強し、医療機関を一軒一軒訪問して医師に処方を依頼する時代は早晩終わると考えるべきだ。代わって、ビッグデータや人工知能(AI)が台頭する。

ただし、ヒトとヒトを介した情報提供・収集活動が全くなくなることは無い。今後上市される革新的新薬の多くは、これまでの治療方法に比べ、有効性・安全性に優れる。治療の選択肢を格段に増やすことで、患者へのベネフィットを提供できる。ただ、使い方を誤れば、重篤な副作用を発現させるリスクもはらむ。情報が付加されることで新薬の価値は最大化される。

医療保険制度をめぐる議論は、今後もコスト抑制の方向が緩むことはない。よって、MRを含む人的リソースの改革に製薬企業も協力しなければならない状況は今後も強まると見るべきだ。

2017年はMR改革の元年となろう。営業一辺倒のイメージをどう払しょくし、MRの役割を変えるか。今後の産業構造改革の最大テーマはMR改革の実現にほかならない。

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