欧州製薬団体連合会（EFPIA）のラース・フルアーガー・ヨルゲンセン会長(ノボノルディスク社長兼CEO)は10月10日、東京都内で記者会見し、日本の創薬力を最大化するためには、「産学官民」が参画可能な官民対話のプラットフォーム構築が不可欠と強調した。ヨルゲンセン会長は自身が経験した欧州の官民対話の事例を紹介。デンマークにおける医薬品産業のＲ＆Ｄ投資額が60％以上増加し、ライフサイエンス産業の輸出額も2008年～22年にかけて3倍に伸ばした実績をアピールした。その上で日本政府に対して、「イノベーションが促進される魅力的な市場創出に向けた環境の構築」を求め、その実現で、「国際市場でのリーダーとして地位を確立できる。そして創薬の更なる拠点となることにつながる」と強調した。

◎前イタリア首相マリオ・ドラギ氏の「ドラギ報告書」を引用　EFPIAの提案盛り込む

「省庁横断的なライフサイエンス事務局を設立すべき。そして将来を見据えた規制の最適化、研究開発や製造の迅速な承認、法案が産業に与える影響に関する精査などを行い、（官は）戦略的なリーダーシップを発揮すべき」－。ヨルゲンセン会長は、前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏が今年9月に公表した「ＥＵの競争力向上に関する報告書」（ドラギ報告書 Draghi report）の一節を引用し、この文言の中にEFPIAの提案が盛り込まれていることを明かした。

「EFPIAは、欧州の官民対話というプラットフォームにおいて長い経験がある」－。ヨルゲンセン会長はこうも指摘する。母国デンマークでは、官民によるライフサイエンス評議会を設置し、ここでの対話により医薬品開発のＲ＆Ｄ投資は「60％増という驚異的な伸びを示した」と強調した。また、人口1500万人あたりの臨床試験数も欧州第1位を確保したほか、ライフサイエンス産業の輸出額も3倍に伸ばすなど官民対話の成果と実績を披露した。

◎政府主導の「ライフサイエンス評議会」　ヨルゲンセン会長もメンバーとして参画

ヨルゲンセン会長はまた、「デンマークのイノベーションは政府が主導するライフサイエンス評議会が支えており、ここにはグローバル製薬企業、業界団体を含む産業界、医療、教育部門など官民の様々な関係者が参画している」と述べ、自身も協議会のメンバーとして参画していると明かした。英国も製薬産業が参画するライフサイエンス評議会があり、官民の連携でCOVID-19のワクチン開発を牽引したと説明。GDP比で世界第2位の保健研究予算を確保し、英国内で実施される臨床試験数が20％増加するなどの実績をあげている。さらにフランスにおいては、患者団体が参画する「ヘルスイノベーション機構」を通じて官民パートナーシップを拡大していると報告。「民間セクターの投資に拍車が掛かっており、2340億ドル相当の追加投資がヘルスデジタル研究や医療専門職の訓練およびデジタルソリューション展開に使われているとした。

◎ラグ／ロス問題は「日本の環境の特殊性が原因の一つ」

こうした欧州での取り組みを踏まえ、日本政府に対しては、岸田前首相の提唱した「医薬品産業を日本の基幹産業と位置付ける政治的取り組み」の継続を求めた。またドラッグ・ラグ／ロス問題については、「日本の環境の特殊性が原因の一つとしてあげられている」と述べ、「臨床試験やワクチン開発などの国際的調和。より良い制度の構築でこれは達成できる」と強調。「より競争力の高いエコシステムを作ることによって、日本の創薬基盤を再構築、強化することができると思う」と期待感を表明した。

◎EFPIA Japan・岩屋孝彦会長　「我々産業界として感謝している」

EFPIA Japanの岩屋孝彦会長は会見で、岸田前首相が7月に開催した創薬エコシステムサミットに触れ、医薬品産業を成長産業、基幹産業と位置づけたことについて、「我々産業界として感謝している。そうした声に繋がったのは、とりもなおさず患者さんの声や、メディアの皆さんです」と語り、「こうした流れが途切れることがないよう、どうやって続けていけるか、どうやって維持発展させていくか、今後も取り組んでいきたい」と強調した。続けて、「石破総理になって、解散・選挙という形でいろいろな動きがあるが、前総理が示唆された方向性が引き続き堅持されることを期待し、産業界として協力していきたい」と述べた。