欧州にも存在するドラッグ・ラグ/ロス問題 どう対応したか 産学官民連携の継続がカギ EFPIAの見解
公開日時 2024/10/23 04:52
ドラッグ・ラグ/ロス問題は日本に限らず欧州にも存在する。欧州製薬団体連合会(EFPIA)のラース・フルアーガー・ヨルゲンセン会長は10月10日の記者会見で、日本の創薬力最大化には、産学官民が参画する「官民対話」が重要だと強調。欧州では官民対話を通じ、R&D投資や保健研究予算の増額、さらにはヘルスイノベーションにおける官民パートナーシップなどを通じ、EU域内の医薬品へのアクセス格差の解消で成果をあげていると、自身の経験を交えて解説した。本誌は、ヨルゲンセン会長の発言の意図をさらに深堀する目的でEFPIA事務局に追加的な取材を行った。
◎R&D費の増額、臨床試験増加で承認薬を増やし、EU域内の医薬品アクセス格差を解消
「欧州においては、官民対話を通じて政府と医薬品業界が協力して医療の質と効率を向上させる重要な枠組み(医薬品や医療技術の開発に関連する規制やその改革の促進を含む)が構築可能になることで、新薬や治療法の導入が促進され、市場における活発な投資環境の創出が促される。これにより市場競争が活性化し、R&D費や臨床試験を増加させることで承認薬を増やす。これによりEU域内の医薬品へのアクセス格差解消に貢献し得ると考えている」-。欧州におけるドラッグ・ラグ/ロス解消に向けてどのように取り組んでいるかの問いに、EFPIA事務局は、こう応えた。
◎欧州のドラッグ・ラグ/ロスの実態
欧州のドラッグ・ラグ/ロスの実態を見てみたい。医薬産業政策研究所のまとめによると、2010~2021年に米国FDAで承認された新有効成分含有医薬品481品目のうち、日本で承認済み228品目(47%)、未承認253品目(53%)に対し、欧州で承認済みは326品目(68%)、未承認は155品目(32%)となっていた。日本ほどでないが、欧州でもドラッグ・ラグ/ロスが生じている。
◎欧州の国々も医薬品産業を基幹産業と位置づけ
EFPIAもこの事態を注視しており、EU域内で官民による対応策の協議を行っている。本誌の追加取材に対しEFPIA事務局は、「日本と同様に、欧州の国々も医薬品産業を基幹産業と位置づけ、省庁横断かつ産学官民が連携して戦略的な取り組みを行っている」と明かす。その上で、欧州における官民対話の成功要因として、「患者さんを含む関係者が参画する開かれた対話の場を設けている。これにより課題を迅速かつ効果的に解決し、全てのバリューチェーンを含んだ包括的なヘルスケアエコシステムを構築することが可能となった。その証として、官民対話が実施されている国では、医薬品産業が基幹産業として大きな成長を遂げている」と説明した。
まさに、岸田前首相が7月30日の創薬エコシステムサミットで提唱した「医薬品産業を日本の基幹産業に位置付け、予算確保も含めて環境整備に取り組む」との趣旨ともオーバーラップするものだ。10月10日の記者会見でヨルゲンセン会長もデンマーク、英国、フランスの事例を例示しながら成果を強調した。EFPIA事務局はヨルゲンセン会長の会見での説明を補足してくれた。
デンマークの事例では、2016年に医薬品産業の成長を加速するための戦略の一環として、その基盤整備や課題解決に向けた提言を政府に提言するため、産学官民の連携によって「ライフサイエンス成長チーム(Growth Team)」が設立された。この取り組みを通じ、官民連携プロジェクト「ライトハウスプロジェクト (Lighthouse Project)」がスタートを切る。現在でも300を超える官民連携における企業や大学、地方自治体がこのプロジェクトに参加しており、イノベーションの創出により医薬品産業が国の成長を牽引するという循環が生まれているという。
その後、2021年にデンマーク政府は新たな医薬品産業戦略を策定し、その一部としてGrowth Teamを発展させた産学官民の委員で構成された「ライフサイエンス評議会」を設立。評議会の事務局は、戦略策定プロセスの初期段階で課題の洗い出しおよび解決策の提案を行い、その後、提言を基に官民連携の取り組みを作成し、提言実施の監督や関連省庁間の調整役を担っているとした。
EFPIAによると、「これらは、デンマークが医薬品産業を重点化するための取り組みであり、その成果として例えば、2008年以降、医薬品産業領域における研究開発投資の60%以上の増加、2022年には欧州で人口あたりの臨床試験件数でデンマークがトップとなっている」と成果を強調。医薬品関連の輸出額も2008年から2022年にかけて倍増し、現在医薬品分野はデンマークの輸出の約20%を占め、さらに外国企業からの投資増加と雇用拡大にも貢献していると強調した。
◎規制や法制度の改革促進でイノベーションを後押し
「適切な薬を迅速に患者さんに届けるため、官民対話に患者さんや業界が政策策定の初期段階の議論から参画することにより、政府と協力して患者さんの現実的なニーズに即した治験、新たな医薬品や治療法の導入の促進が可能になると考えられる」-。欧州の官民対話の実例からEFPIAはこう強調する。「また、このような対話を通じて医薬品や医療技術の開発における規制や法制度の改革を促進することにより、イノベーションを後押しする。さらに、市場の透明性や予見性を向上させ、投資家や企業の市場に対する信頼性を高めるための議論を官民で行うことで、投資環境を構築し、外資企業や国内企業が市場に積極的に参入し、競争が促進されることが期待される」と説明し、官民対話のインセンティブとして、イノベーションを促進する魅力的な医薬品市場の創出や患者にとってのアクセスや医療の質の向上の可能性があると強調した。
追加取材に応えたEFPIAは、日本政府との官民対話に対し、以下のメッセージを寄せた。「長期的な戦略に基づいた省庁横断かつ産学官民の連携による官民対話は、規制と経済環境の整備や予見可能性の向上に貢献し、最先端の研究開発への投資を促進するカギとなっている」-。